それぞれが思うこと
キーエリィウスの街は、これまではクリーチャーの被害からなんとか切り抜けてきた。街の周りには堀と防壁を築いて、周りから見たらさしずめ城砦都市のような感じだ。さらに防壁の上には監視台があり、普段はそこで一日中街の兵が交代で異常が無いかを見張り続けている。もし攻め入るものがいれば、すぐにでも兵が集まり撃退してきたのがこの街なのだ。
しかし、この日だけは違った。街で異変が起きたのは夜も深くなり始めた頃だった。殆どの店が閉まり、人々も皆眠りにつこうとしている頃、異変は起きた。突然、町全体から全ての存在、気配が消えてたかのような、異様な状況に陥った。見張り台にいた兵士もそれは同じだった。
「い、一体何が起きたんだ!!」
「誰か!!誰かいないのか!」
すぐ近くに人がいるのにもかかわらずわめき散らす兵達。それもそのはずだ、自分も含めて周りのもの全ての存在感が一気に失われたのだ。自分が突然、世界に一人だけ取り残されたような感覚。それどころか自分自身、存在しているのかどうかすら疑わしく、不安に感じてしまう。そんな恐怖にとらわれながらも、兵士達は何とか自分の存在を確かめ次第に平静を取り戻す。暫くすると、その異様な状態は唐突に終わった。
見張り役の兵士達は息を整え、お互いの存在を確認し合い、改めてたった今起きた出来事を振り返る。
「一体なんだったんだ?」
「さあ…?」
しかし、何もおこらずにはいてくれなかった。見張り台についている男の一人が始めにそれを発見した。つい先ほどまで全く気配すらなかったのに、街のすぐそこまでクリーチャーの群れが押し寄せてきていたのである。
「ひっ…。」
「ク、クリーチャーの群れが!」
「門を閉めろ!早く兵を集めろっ!!」
あまりというにはあまりにも突然のことに、見張りの兵達は慌てた。それでも、なんとか早く防衛体制を整えようとする。
―――それから、クリーチャーの群れが街の中へ侵入したのは暫く後のことだった―――
ロイとベット、クシーはもうキーエリィウスの街のすぐ近くまで走ってきていた。
「まだ街は落ちていない、間に合うぞ。」
走りながら、ベットが少しばかり安心したように呟いた。
「ここには戦力があるのか?」
ロイがふと疑問に思い、訊ねる。
「ああ、街の住人達からなる兵の集まりだがな。それでも下手な用兵よりもよっぽど訓練されている。でないとこの街は生き残れなかったからな…。」
ふと、ベットの顔が昔を懐かしむような、憂うような表情をする。しかし、すぐに元に戻り振り返ってロイたちに言う。
「ここでは固まってないで、別々に街の兵を援助するように動こう。クリーチャーの数が多いからな、その方が効率がいい。」
「わかったわ、では行きましょう。」
「よし!」
そして三人はそれぞれ街の中へ入っていった。
「凄い数ね、大丈夫かしら?」
中に入った時には、街のいたるところで戦闘が始まっていた。建物も崩れたり、火が出ているところがそこかしこにある。クシーは慎重に街の中を進む。クリーチャーは前の村にいたのと同じ種類だけのようだ。しかし、数がけた違いだ。これではいくら町の人たちが兵として訓練されていたとしても、いつまで持つか、時間の問題だろう。
「よし、大体こんなもんかしら?」
クシーは、自分の周囲の状況をおおまかに把握すると、ボウガンに連射式の矢の転送装置を装着し、構えると、一気に街の中を駆け抜け始めた!
「いけ!」
気合と共に矢を次々にはなっていく、走りながら放っているにもかかわらず、人とクリーチャーの入り混じる中、クリーチャーにだけ命中していく。しかも、ただ当たっているだけではなく、目や四肢の付け根など急所ではないものの、クリーチャーの動きを鈍らせるには充分な場所に命中させている。
「このボウではクリーチャーを倒すことは出来ない、せめて援護だけでも…」
呟きながら、クシーの放つ矢はそれでもクリーチャーへと吸い込まれていった…
ザンッ!!
「…にしても、なんて数だよ。」
クリーチャーのうちの一体を倒し、ロイが舌打ちをした。中では街の兵とクリーチャー達が闘いを繰り広げていた。街の人たちはそれなりに善戦していた。しかし、クリーチャーの数が数だけに、苦戦を強いられているようだった。
街の中全体が混戦になっているので、うかつに手を出すことが出来ない。下手に飛び込んだなら、町の人たちにやられてしまいそうだ。
ロイは辺りを見回し、自分の戦える場所を探すと、再び走り出した。
ここは街の広場に当たるのだろうか?とにかく一番広い場所のようだ。ここでは一番の混戦を繰り広げていた。もう何人もの町の人の死体と、クリーチャーの死体が転がっていた。だがしかし、クリーチャーの数が目に見えて減らない為、人の士気が殺がれてきているようだ、だんだんとクリーチャーにおされ気味になって、人の被害が増え始める。
「クソッ、何で減らないんだ!」
「一体いつまで戦えばいいんだよ!」
さすがにいつまでも減らないクリーチャーの数に嫌気も指してきたのか、戦っている人たちから愚痴がこぼれ始める。しかも、クリーチャーが倒れるよりも、街の人が倒れる数の方が明らかに多くなってきている。
「駄目なのか…?」
「馬鹿、あきらめるな!」
街の人々が絶望に染まりそうになった時、近くにいたクリーチャーに異変が起きた。
ズシャァァァッ!!!
一体のクリーチャーを背中から、心臓を一本のランスが貫いたのだ。貫かれたクリーチャーは次第に力を失い、そのまま事切れた。そして、そのクリーチャーの後ろには細身の男が立っていた。
「ここは俺の故郷だ、お前らの好き勝手にはさせないぞ。」
そう言うとその細身の男、ベットは混戦の中へ自ら入っていった。
「にしても、こんなところで留守番なんて…」
ランダは一人呟いた。今ここにいるのはランダとシーズの二人きりだ。しかし、シーズは疲れきって寝てしまっている。実際、一人でいるようなものだ。しかも、もし危険が迫った時は、自分ひとりでその危険を切り抜けなければならないのだ。シーズを庇いながら。もしもの為の手段はベットから受け取ってはいたが、はっきり行って自身は無かった。自分は戦闘というものを経験しとことが無い。一度は九死に一生を得たが、再び危機に遭遇した時、自分が助かるという保証は無いのだ。そんな自分が今度はシーズという自分と同じくらいの年の少女を護りながら生き抜くことが出来るのだろうか?そんな不安にかられてしまうのだ。
「出てこないよね、クリーチャーは街に行ったんだから…」
シーズは今は草の上に寝かせている。負ぶっていたときと変わらず、ぐっすりと眠っている。
「守れるかな?守ってやりたいよなぁ…」
昼間に歩いている時に聞いた話によると、シーズはロイ達と一緒になる前の記憶を殆ど持っていないようなのだ。事故のショックで無くしたのか、自分の名前すら始めは全く思い出せなかったらしい。今シーズと呼んでいる名前も、実は正しいのかどうかわからないらしい。
自分の村が襲われた時、自分はもう生きる気力を無くした。自分が一番不幸なんだと思っていた。しかし、この少女は自分の生きていたこと自体を全く覚えていないというのだ。自分の親が誰かすらも分からない、こんな悲しいことがあって、果たしていいのだろうか?自分はこんな境遇にあっても、クリーチャーに殺されたとはいえ自分の親はいたし、今まで生きていた記憶もある、その中には悲しいことも嬉しいこともあるのだ。それがあるから今生きているって実感が持てると思っている。それをこの少女、シーズは持っていないのだ。生きている上で支えが無いというのはどれだけつらいのだろうか?自分には想像もつかない、だからこそこの少女を守りたいと思ったのだ。
「ロイたちも、大丈夫かなぁ?」
街の方ではまだ戦いが続いているようだ、火の手がまだ新しく上がっている。
「そんなに心配かえ?」
「!?」
ランダは突然声がした方を振り向くと、闇の中でもボロボロと分かるローブを羽織った老人が、何時の間にか木と木の間に佇んでいた。
「わしゃあ、お前さん方の言うクリーチャーの方が心配でたまらんのだがねぇ。」
老人は街の方を眺めながらそう言った。
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