変わり始める時の流れ

新たなる日の幕開け

 流れと言うものは、大きければ大きいほど他のものを巻き込む

 大きくなってしまった流れは簡単には止まらない

 そこに小さな石が一個あったところでその石は流されてしまうだけ


 そこは、一端は滅びた世界

 そこは、再び始まった世界


 始まりは、終わりの続き

 終わりは、始まりの前兆


 変わることを恐れた時が、また繰り返される

 悪が正しいのか、正義が間違っているのか

 真実は常に一つしかない故に、誰も知らない

 気まぐれに変わろうと試みた時は―――


 そしてまた、繰り返される



 朝が来る。今まで月が支配していた世界が終わり、太陽が世界を支配し始める。森にも朝が訪れる、木々の間から陽が差して森全体を明るくしている。森の中に一つの道があった。あまり広くない道からは、はるか向こうに煙が見える。その道から少し中に入ったところに五つの人影があった。

「さて、出発する前に改めて自己紹介でもしとくか。俺はロイド=ハルプシャー、ロイと呼んでくれて構わない。」

 そう言って、まだ幼い少年にむかって紹介を始めたのは五人の中で一番背の高い、がっしりとした男だった。

「んん…、一応俺がリーダーみたいなことをしているが、気にしないでくれ。こいつらがまとめるのを嫌うから、いつも俺がやる羽目になる。」

 喋りながら、その言葉をまるで無視するかのような二人をジト目で見やる。そして、細身の男のほうが前に出てきた。

「よう、俺はベットだ。気安くベットって呼んでくれて構わないぜ、宜しくな!」

「完全に無視してやがる…」

 ロイの非難もまた無視し、明るい声でそう言って、少年の手を握って激しく上下する。

「は、はぁ。ハハハ…。」

 どうしていいか分からず、少年は苦笑いをして応じた。次に少し冷たい感じのする女性が来て挨拶をした。

「私はクシーよ、クシー=エリィワンド。」

 挨拶ともいえないようなぶっきらぼうな挨拶の仕方に、また少年は戸惑う。最後に、唯一、少年が背で勝っている相手、少年と同じくらいの年であろう、少女がおずおずと出てきた。

「ぁ…あの、私、シーズって言います。全部の名前はわからない、の。」

 少女がしどろもどろに挨拶をすると、少年のほうも固くなって自己紹介を始めた。

「あ、ぼ…。ぃゃ、お、俺はランダ。ランダ=カルナンっていうんだ、よ、宜しく。」

 顔を紅くしながらその少女、シーズに向かって手を差し出す。少女は少し戸惑ってからその手を取った、そしてそっと握手を交わした。

 今朝、目が覚めたときにシーズはランダの隣に寝ているのに気が付くと、叫び声を上げた。その声でランダは目を覚ました、最初何処から声が聞こえてくるのか分からなかったが、原因が自分だということにすぐ気がついた。寝ている間にシーズを自分が抱いていることに気が付いたのだ。騒ぎ続けているシーズを何とか落ち着けようとするが、落ち着いてくれない。シーズが手を離さなかったので、ランダが一緒に寝ざるをえなかったことを説明したが、なかなか納得してくれなかった。どうにか落ち着けることは出来たが、朝から気まずい雰囲気が全員に漂う羽目になった。

 その気まずさを引きずったまま挨拶を交わした、シーズは誤解だとわかってくれたが、やっぱり気まずい。その二人の様子をみてクシーが苦笑いをする。

「ランダ…カルナン?」

 ロイがふと、そう聞き返す。ランダはシーズの手を握ったまま振り向く。

「そうだけど…?」

 その返事を聞いてから暫く考え込む様子のロイ。そして、恥ずかしそうにしてシーズが口を開く。

「あの、手…。」

 シーズが、ロイのずっと握ったままの手を見て、顔を真っ赤にしながら呟く。

「あ…、ごめん!」

 慌てて手を引っ込める、ランダも顔を赤くして謝った。勝手に二人の間に気まずい雰囲気が流れる。

「おーい、何処に飛んでんだ?お前、シーズを垂らしこむ気か?」

 突然、ベットがランダとシーズの間に顔を割って入れる。それに対してランダが口を開く。

「なんだよ、その"垂らしこむ"って!別に僕はそういうつもりじゃ…!!」

「へぇ、"僕"かぁ。シーズには"俺"って言って紹介してなかったか?」

 ベットはランダをからかうように、いや、完全にからかっている。

「…!!」

 ランダのほうは完全に言葉を失っている、シーズに対して格好をつけようとした図星を指されたことに動揺しているのだ。シーズは顔を真っ赤にして俯き、それをみて愉快そうにベットは笑っている、その向こうでクシーは額に手を当ててため息をついていた。

「おい、そろそろ行くぞ。」

 もう、呆れ果てたようなロイの声が聞こえてきた。気が付くと、ロイは皆から離れて道のほうに出ている。シーズはそれに気がつくと、慌ててロイの元に駆け寄っていった。

「わかったよ。ロイ、お前もう少し余裕を持てよ。」

 ベットがぼやきながらロイのほうに歩き出す。

「あなたはたまに余裕を出しすぎよ。」

 クシーがベットを追い越しざま低い声で呟く、それにベットは肩をすくめて見せた。

 少しの間その場所に立っていたが、ランダも四人のあとについていく。そして五人は煙が上がっている場所とは反対のほうへと進みだした。

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