第2話
様子のおかしい水晶玉を見て慌てて天界に戻った私が見たのは………
「何が起きたんですか?」
山積みの資料と………
「!?」
テーブルに突っ伏す後輩だった。
「しっかりしてください」
慌てて後輩に声をかける。
「……す、すみません。……あと五分だけ」
すぐ返事が返ってきたことに安心しながらさらに声をかける。
「何言ってるんですか、ほら起きてください」
「………!エ、エリス様!?」
ようやく目覚めた後輩に何が起こったか聞く。
「すみません、頑張っても頑張ってもどんどん仕事が増えていってこんなことに」
どうやら思っていた以上に後輩への負担が大きかったようだ。
「わかりました、とにかく今はこれを片付けましょう」
私は後輩にそう言い、仕事を始めた。
「エリス様、私はもう疲れました。どうかわたしを天国へ」
「そうですか……分かりました。長い間お疲れ様でした」
「もう嫌だ、生まれ直してもまたこんな目に遭うぐらいなら……どうか僕を天国へ」
「そんなこと言わないでください。生まれ直して前よりもいい人生を歩んだ人は沢山います。たとえば…………」
後輩に書類を任せ、私は亡くなった人たちの案内を行っていた。私の管轄はモンスターによって命を落としてしまったひとだ。自分の人生に満足し、生まれ変わりを拒否する人を天国に送り、不安に駆られ冷静さを失っている人に明るい未来があることを教え、もう一度生まれ直してもらう。
「なんとかなりましたね」
無事、すべての案内を終え、一息ついていると天界行きの魔法陣が光り始めた。どうやら地上でまた一人、人が亡くなったようだ。気持ちを切り替え自分を鼓舞する。さっきまで何人も案内をしたんだ。次も大丈夫…
魔法陣が強く光り、今回の相手が現れる。私は案内を始めようとして……
「エリス様、エリス様なんですね!?」
「え……あ、はい。エリスです」
出鼻をくじかれた。
「よーし、無事エリス様に会えた。あ、自分マースといいます。今日はよろしくお願いします」
男はそう言って頭を下げる。
「マースさん、若くして亡くなったあなたには二つの選択肢があります。一つ目に……」
最初からペースを乱されてしまったが切り替え、案内を再開する。
「あ、大丈夫ですよ。すぐ戻りますんで」
話の途中で男はそんなことを言ってくる。
「どういうことですか?」
「アークプリーストの方に一緒に来てもらっていますのでもうじき蘇生されるかと」
そう言っていると男の体が淡く光る。どうやら本当にアークプリーストがいるようだ。
「えっと、あなたはどうして死んでしまったんですか?」
男の服装はいたって普通だ。とても冒険者には見えない。なのにどうして近くにアークプリーストがいたのか?
「おっとこれはいけない。説明が遅れました。自分地上では記者をしていまして、いろいろな人にインタビューをしてきました。前には、氷の魔女とも呼ばれた凄腕のアークウィザードさんにもインタビューをしたんですよ。質問の途中でその方が『カースド・クリ……』と魔法を唱えそうになって慌てて逃げ出しましたが」
男はそう言って自己紹介を始めた。
「『カースド・クリスタルプリズン』!?氷結系の上級魔法じゃないですか。何をしたらそんなに怒るんですか?」
「いやあ、それがさっぱりわからないんですよ。それで今まで沢山の人に話を聞いてきたんですが一人どうしてもそれが出来ない人がいました。それがエリス様。あなたです」
会話も進みようやく男が本題に切り出した。
「エリス様に会ったことがあるという人に片っ端から声をかけ、モンスターが原因で死ぬと会えると結論をつけ、アークプリーストの方に王都の魔王軍との戦闘場所についてきてもらい、戦場に飛び込んだわけです」
男の行動に対して本当は怒らなければいけないのに怒りを通り越して呆れてしまう。
「……もう二度とそんなことしないでくださいよ。生き返れるのは一度までという
決まりですから。それにしてもよくその方もあなたを回収できましたね?」
気になって聞いてみると男は得意げに……
「有名な方ですからね、だれも手は出さなかったと思いますよ」
「すごい方なんですね」
「ええ、一日一回は警察のお世話になり、オークやオーガーもどんとこいなすごい人です」
「ちょっと待ってください!?今何て言いました。そんな聖職者がいるんですか」
男の話した内容に動揺が隠せない。
「そんなことはいいんです。それよりもインタビューを」
「そんなことよりって……分かりました。何が聞きたいんですか?」
せめて一つくらいは答えようと男に聞く。
「それでは是非スリーサイズを!」
私がパチンと指をはじくと彼の後ろに白い門が現れる。そろそろ帰ってもらわないと。
「すいません、質問が悪かったですね。じゃあ、地上で待っている彼から頼まれた質問を……エリス様が実はパットだって話が………」
「もう時間ですね!?門をくぐれば戻れます。マースさん次は天寿をまっとうして天界に来てください!」
これ以上はこの人に話させてはいけない。
「戻ったら、エリス様は顔を真っ赤にして恥ずかしがっていたと伝えますね」
そう言って彼は門の中に消えていった。
「……………」
さっきまでとは比べようがないくらい疲れた気がする。
「いやあ、大活躍だったな。エリス」
「何言ってるんですか。大変だったんですよ」
地上に行くための魔法陣は上司の部屋にしかない。私は仕事を片付け、部屋に来ていた。
「そういうな。今回は特別人が多かったからな、君の後輩も頑張っていたんだぞ?」
「わかってますよ。でも、水晶玉のことは先に教えてくださいよ。突然点滅してびっくりしたんですから」
天界に戻ってから聞いたがこの水晶玉には仕事が溜まってくると赤く点滅する機能があったらしい。最初に教えてくれればあんなに慌てることもなかったのに。
「すまない、あの時はすっかり忘れていたよ」
「ほかに伝え忘れていることとかないですよね?」
もう流石に何もないとは思うが確認する。
「うーんそうだなぁ、人がいる場所ではただの水晶玉だから取り扱いには注意してほしいくらいかな」
どうやらほかに特殊な力などはないらしい。
「分かりました。気を付けます」
「よし、地上に送るぞ。次は仕事を溜めすぎないようにな」
「はい、行ってきます」
魔法陣の光に包まれ、私は天界をあとにした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「まずはギルドに行きましょうか」
まずはギルドでクエストでも受けよう。キャベツの報酬はなるべく冬のために残しておきたい。前と同じ路地に転送された私はギルドへ向かった。
「あっ、クリスだ。今までどこにいたの?」
彼女はリーン。ギルドでクエストを見ていたときに知り合った子だ。
「い、いやぁ。ちょっと急用で出かけててさ」
「そうだったんだ、みんなークリスいたよー」
リーンはそう言って近くのテーブルに座る三人に声をかける。
「あんたがリーンの言っていたクリスか。俺はテイラー、向かいに座っているのがダストとキースだ」
「なんだよー、可愛い子って聞いて期待してたのに胸のねえクソガキじゃねえか」
「おいおいダスト、気持ちはわかるが本人の前で言うのはやめようぜ」
「な、なにおおおおおお!」
テイラーに紹介された二人がそんなことを言いながら笑っている。いくら私でも限度がある。
「ご、ごめんクリス。ちょっとダスト、キース!初対面の女の子にそれはないでしょ!?」
そう言ってリーンが二人に怒る。
「わ、悪かったよ。そんな怒るなって。俺はダスト、クリスだったか?よろしくな」
「調子に乗ったのは謝るからよ。俺はキース、さっきはすまねえ。よろしくな」
リーンに怒られ、二人が私に謝罪してくる。
「謝ってくれたからいいよ、それで今日はどうしたの?」
そう私は聞く。まだ状況が呑み込めていない。
「今までこのパーティでクエストを受けてきたんだが一度ダンジョンにも挑戦してみようという話になってな。ダンジョンに入るならパーティ内に盗賊は必須、とはいえほかの盗賊職はもう別のところと組んでいたりであてもなく、どうするかってときにリーンからクリスのことを聞いたんだ」
そうテイラーが説明してくれる。
「あたしはいいけど、まだレベル低いよ?」
「スキルの《敵感知》と《罠発見》、《罠解除》は覚えているか?」
「それなら習得済みだよ」
「なら大丈夫だ。ダンジョンで怖いのは突然の奇襲とトラップだからな。それさえなければ十分やっていけるはずだ」
ダンジョンの敵と戦うのは初めてなので足を引っ張らないか心配だったがテイラーの説明を受け、それならと了承する。
「助かるよ。ダンジョンは朝一で入るのが理想だ。夕方に出て、夜はダンジョン前でキャンプだ。それまではゆっくりしててくれ」
「みんなよろしくね」
パーティーでの活動、ダンジョンどちらも初めてのことだ。まだ夕方まで時間がある。
楽しみだなぁ。夕方が待ち遠しい。
「その角を曲がった先に五体いるよ」
「わかった、キース、リーン遠距離攻撃で数を減らしてくれ。残った敵は、俺とダストでやる」
「わかったよ」
「任せろ」
夕方に出発し、ダンジョン前でキャンプをした私たちはダンジョン前の雑貨屋で買ったパンを食べ、朝一でダンジョンに突入した。雑貨屋のおじさんに盗賊なら持っているといいと言われロープを渡されたが何に使うんだろう?
「『ファイヤーボール』!」
「それ!それ!それ!それ!」
リーンの放った魔法がダンジョンをさまようアンデットの一体に当たりその体を燃やし尽くし、キースの放った矢が二体の頭部に突き刺さり、頭を射抜かれた二体は倒れる。
「くらえ!」
「オラァ!」
残った二体をテイラーとダストが切り倒した。
「あはは、ほんとに戦わなくてもいいね」
私の役目は敵の感知と罠の発見、解除。最後列からランタンの光で周囲を照らすくらいだ。
「止まって!」
「ん?どうかしたか」
私の声で止まったテイラーが聞いてくる。
「そこから離れて、罠があるから」
「!?わかった、頼む」
そう言ってテイラーがそこから離れる。私は床に仕掛けられた罠を解除スキルを使って解除する。
「今のはどんな罠だったんだよ、クリス」
軽い口調で聞いてくるキース。ダストとセットでこのパーティのムードメイカー
だ。
「……踏むと上から槍が降ってくる罠」
「そ、そうか……」
正直に教えるとキースは黙り込んでしまった。最初、指示を聞かずに進んで槍が刺さりかけたのがよっぽど堪えたらしい。
何度か戦闘と罠の回避をしながら探索を進めたがそれもようやく終わりだ。最後に残った通路を私たちは進んでいる。
「ありがとうクリス、おかげでここまでこれたよ」
リーンがそんなことを言ってくる。
「いいよ、いいよ。こっちも楽しかったから」
リーン達の戦いを見たり、敵の動きをうかがって動いたりとスリルがあって楽しかった。たまに生き残った敵がいてそれを狩っていたらレベルが5になっていた。新しいスキルが覚えれるようになって大満足だ
「よーし、最後の扉が見えてきたぞ。このままダンジョン踏破だ!」
「「「「おー」」」」
長かったダンジョンもこれで終わり。みんなのテンションも最高潮だ。
「!?みんな待って」
一緒に盛り上がっていたが罠を感知して声をかける。
「お、おい。何やってんだよダスト。止まれって」
しかし、一人だけ突き進むダスト。キースも声をかけたが止まらない。
「お前らなにびびってるんだよ。見ろよ!あの床のいかにもなでっぱりを。あんなの踏まなきゃ問題ないだろ?」
そう言ってそのでっぱりをよけるダスト。でっぱりの横に置いた足元の床がガコンと言って沈む。
「……………」
ゴゴゴゴゴゴという音と揺れる通路。私の頭の中には映画のあの展開が浮かんだ。
「だから待ってって言ったのに」
「ダストのバカー」
「悪かったよ、謝るから許してくれよ」
「言ってる場合か、お前ら走れええええ」
「うひゃひゃひゃひゃ、やべえええええ」
私たちはこっちに向って転がってくる岩から全力で逃げた。
「はあ、はあ、ス、スリルたっぷりだったね?」
「怖かったあー、死ぬかと思ったー」
「あ、あっぶねー、いまのはやばかった」
「勘弁してくれよダスト、危うく全滅だぞ」
「………わりい」
何とか来た道を引き返し最後の部屋の前までたどり着いた。
「中には三体反応があるよ」
「わかった、この部屋で最後だ。行くぞ」
テイラーが扉を押し開けた。
「まじかよ」
ダストの声が聞こえるがそれどころではない。どうやらこのダンジョンは昔の墓場のようなものだったらしい。目の前にはたくさんの石の棺桶があった。そして……
「ゾンビメーカーだと」
ゾンビメーカーは質の良い死体に乗り移り、数体のゾンビを操るモンスター。普段なら初心者パーティでも狩れるらしいが……
「ねえ、これやばいよ。絶対やばいよ!」
部屋の中の棺桶が次々開かれ、中からゾンビが這い出してくる。
「おいおい、なんで三体もいるんだよ!?」
三体のゾンビメーカーがゾンビを連れてやってくる。たぶんゾンビメーカーを倒せば取り巻きのゾンビは動かなくなると思うが数が多い。
「みんな!撤退する……」
テイラーが指示を出そうとしてやめる。後ろを見るとすでにゾンビが退路を塞いでいた。
「やるしかない、みんなやるぞ!」
テイラーの声で全員が行動を開始する。
「『ブレード・オブ・ウインド』!」
リーンの放った風の刃が迫ってくるゾンビを薙ぎ払う。
「蜂の巣にしてやるよ」
キースが次々と矢を放ちゾンビを倒していく。
「数多すぎだろこれ!?」
ゾンビを切りながら、ダストが言う。
「すまないなクリス。せっかくついてきてくれたのにこんなことになって」
テイラーが迫るゾンビを見てあたしに言ってくる。このままじゃいけない。私は自分にできることを考える。手持ちのダガーじゃあの数をさばききれない。
「………!そうだ」
私は自分のカードを確認する。レベル5新しいスキルは………
「も、もう魔力が……」
「矢がきれちまった……」
「くそ、まだいるのかよ」
みんな限界だ。私は急いでカードを操作する。
「テイラー、扉の前の敵を一か所に集められる?」
「何か考えがあるんだな?任せろ。『デコイ』」
テイラーの囮スキルで敵が集まってくる。
「しゃがんで!『バインド』!」
私は集まってきた敵に向かってロープを投げつける。魔力のこもったロープはまとめて敵を拘束する。
「いまだよ!」
「出口まで走れええええええ」
動けない敵を無視して私たちは命からがら逃げだした。
無事にダンジョンから脱出した私たちは何とか宿屋まで帰り、極度の緊張と疲労から丸一日眠り続けた。
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無事、二話目です。これからもよろしくです。
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