第3話

「ダンジョン探索お疲れ!みんな今日は俺が出すから好きなものを頼んでくれ」

「やたーっ!テイラー太っ腹ー」

「ひゃっほー、やったぜダスト!」

「よっしゃー、今日は朝まで飲もうぜ!」

「………お前らは羽目を外しすぎるから二杯までな」

「「えっ!?」」


 無事にダンジョンから生還した私たちは今こうしてギルドに集まっていた。テイラーからの提案でダンジョン生還記念の打ち上げをするらしい。


「え、私パーティーメンバーじゃないけどいいの?」

「いいの、いいの。気にしないで」

「そ、そう?じゃあ………」


 リーンの言葉に押されて私も注文をする。


「みんな、かんぱーい!」

「「「「かんぱーい!」」」」


 私たちの声がギルドに響いた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「今日は楽しかったなー」


 みんなで食事をした後私は宿に戻っていた。テイラー達からはまた一緒に冒険しようと言われた。次が楽しみだ。


「……向こうは大丈夫かな?」


 まだ地上に降りて数日しか経っていないが念のため様子を見ておこう。私が手を出して念じると水晶玉がどこからか現れる。


「………早くないですか?」


 水晶玉は前と同じように赤く点滅していた。



「エ、エリス様あああああーっ!」


 天界に戻ってすぐ後輩が私に泣きついてきた。


「ど、どうしたんですか?いくらなんでも仕事が溜まるのが早くな……あれ?仕事が溜まってない」


 水晶玉が点滅するのは仕事が溜まっているときと聞いていたが山のように書類が

あるわけでもなくきれいだ。


「え、えっと……じ、実は………」


 ようやく落ち着いた様子の後輩が私の疑問に答えようとしたとき、普段移動に使っている魔法陣が輝きだす。光が消えるとそこには私の良く知る人がいて……


「わああああああーっ!エ、エリスうううううううーっ!」


 一人の女神が泣きながらやって来た。



「ど、どうしたんですか先輩!?」


 彼女は女神アクア。私の先輩にあたる人だ。人々が生活するうえで必要不可欠な水をつかさどり、こことは違う世界で若くして死んだ人を導く仕事をしているはずなのになぜここに?


「私ね、向こうの世界でそれはもう頑張ったのよ。死んだばかりで混乱している人達にこの世界のことを教えて、望む力を授けてこの世界に送り出すの。それが終わったら、授けた力の代わりになるものを新しく発注して、書類をまとめて提出して……とにかく頑張ったのよ!」


 泣き止んだ先輩は向こうで何が起こったのか語り始めた。


「でもね、ずっと頑張っているとどうしても疲れちゃうのよ。それで、息抜きに向こうの世界の『百転裁判』っていうゲームを始めたらそれが面白くてつい最後までやっちゃって…ね?」

「…………………」


 どうやらゲームをしている間に仕事が溜まってしまったらしい。


「それでね、ここに来たのはちょーっと溜まっちゃった仕事をエリスに……」

「先輩、そんなに仕事が溜まっているならこんなところで話している暇はありませんよ。さあ、早く戻って仕事をしてください」

「エ、エリス?」


 ここで甘やかすと前みたいに仕事を押し付けられる。ここは心を鬼にしてはっきり言わないと。


「自業自得ですよ。前もそうやって泣きついてきたじゃないですか。さあ、早く戻って仕事を………」

「お願いよおおおおおーっ!あんな量とてもじゃないけど無理よっ!手伝ってっ!手伝ってよおおおおおーっ!」

「わ、わかりました!手伝います。手伝いますからっ!そんなに泣かないでください」


 結局鬼にはなり切れず、手伝うことになりました。



「せ、先輩?新しく発注するものの中に『ロンギヌスの槍』とか『全反撃フルカウンター』なんてものがあるんですが大丈夫なんですか?いろいろと。」


 今私は転生者に与える特典の発注用の書類を仕上げている。たまにどこかで聞いたことがあるような名前が書かれていたりして凄く不安だ。


「大丈夫よ、偉い人たちにはうまく言っておくから。そんなことより書類はまだあるんだからこれもお願い」


 そう言って先輩が書類の山を運んでくる。 


「………私、帰ってもいいですか?」


 次は絶対に手伝わない。そう心に決めて、私は書類を片付けた。


「なんだか天界に戻るたびに疲れている気がしますね」


 仕事を終わらせた私は上司に地上に転送してもらった。地上は夜だったので宿で

休むことにした。明日からまた頑張ろう。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「あ、クリスさん。お久しぶりです」

「久しぶり、シスター」


 朝一で私は教会に来ていた。前に来た時には空振りだったがもしかしたら彼女が来ているかもしれない。


「ねえ、シスター?前も聞いたけどあれから女騎士さんはここにお祈りに来たかな?」

「いえ、見ていないですね。お役に立てずすみません」


 シスターが申し訳なさそうに言ってくる。前にここに来てから日は経つが彼女はここに来ていないらしい。 


「いいよ、いいよ。気にしないで。また来るよ」


 私はそうシスターに言い、教会をあとにした。



「彼女はいったいどこにいるんでしょう?」


 教会を出た後私はクエストを受けるために来るかもしれないと思い、ギルドに行ったが彼女には会えず、今はぶらぶらと街を歩いている。


「こんなことなら天界でもう少し調べればよかったですね」


 出来るだけ自然に友達になりたかったのでやらなかったが今度天界に戻ったら一度彼女のことを調べよう。そんなことを考えながら歩いていると。

「全く、なぜ何度張り倒しても見合い話を持ってくるんだ……」

「………あ」


 頑丈そうな金属鎧に身を包んだ金髪碧眼の美女。天界で見た彼女が今、私の目の前にいた。


「ど、どうしましょう?」


 出会ったらどうするかは全然考えていなかったのでどうすればいいか分からない。でもこのチャンスを逃したら明日は会えないかもしれない。私達はまだ赤の他人、何かきっかけが欲しい。


「………!?」


 必死に知恵を絞る私の視界に映ったのは彼女が腰にぶら下げた布袋。私は考えをまとめると、真っ直ぐ彼女に向って歩いていく。

———狙うのは腰にぶら下がる布袋

 軽く彼女とぶつかった拍子に布袋を掠め取る。きっと盗賊職の私なら出来るはずだ。彼女が気付いたら捕まらないように逃げて静かなところで彼女と話をしよう。


「もうちょっと」


 いよいよ彼女とぶつかる。私は気付かれないように布袋に触れ、彼女とぶつかって………


「……えっ?」


 ぶつかった衝撃でしりもちをついていた。

 壁か何かにぶつかったかと思ったが私を心配して彼女が声をかけてくる。

………あ、まずい。


「す、すまない。考え事をしていて気付かなかった。大丈夫だった……か?」

 彼女の視線の先には私が持っている布袋がある。

「え、えっと…これは…その…あはははは」

「……ついてきてくれ」


 抵抗むなしく私は彼女に連行された。



「すまない、スモークリザードのハンバーグ定食を一つ」

「かしこまりました」


 なぜか私達は冒険者ギルドに来ていた。警察に突き出されるかもと思っていたので驚きだ。


「私の名前はダクネスだ。よろしく」

「……あたしはクリス。さっきはごめんなさい」


 いくらきっかけを作るためだったとはいえ、人のものをとるのは悪い事だ。私は彼女に謝罪した。


「お待たせしました。スモークリザードのハンバーグ定食です」


 ウェイトレスがダクネスの注文したものを持ってきた。湯気を立てるハンバーグはとてもおいしそうだ。


「……食べるといい」


 そんなことをダクネスが言ってくる。


「………………?」

「今まで大変だったんだろう?さあ、おなか一杯食べてくれ」


 何か勘違いをしているのか、そう言って定食を勧めてくる。


「今までは不幸だったかもしれないが、エリス様は私たちを見ている。だからこれからはエリス様に誇れるような生き方をするんだぞ?」

「……はい。……ごめんなさい」


 自分の信者に財布を取ったことを許してもらい、ご飯までおごられた。泣きたい。


「そろそろ戻るか……クリス、またな」


 そう言ってダクネスは席を立つ。私は慌てて彼女に声をかける。


「待ってダクネス!」

「……?どうかしたか?」


 ダクネスはそう言って立ち止まり、話を聞いてくれる。


「もし、もしよかったら、あたしと友達になってくれないかな?」


 天界で彼女を見たときは真剣なその姿を見て、願いを叶えてあげたいと思っていた。でも今は、この優しい信者と一緒に冒険がしてみたいと思っている。


「わ、私と友達に?……ま、まあクリスがまた悪さをしないように一緒に行動するのはいいかもしれないな」


 そんなことを言っているが口元が緩み切っている。


「いいの?……やったあ!これからよろしくね、ダクネス」

「うむ、よろしく頼む、クリス」


 地上に降りれるようになってから数週間、ようやく私は彼女と友達になれた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「相手は十匹、少しずつ数を減らしていこう」

「分かった」


 私たちは今討伐クエストを受けてアクセルの町近くの森に来ている。


「ぎょ、ぎょぎょぎょ」

「ダクネス!いたよ立魚たちうお


 そこにいたのは魚のようなうろこに覆われた体に手、足が生えた生き物。全員が手に剣を持っている。


「うーん、全員を同時に相手にするのはちょっときついかな?どうするダクネス?……どうしたの?」


 見るとダクネスは頬を赤く染め、プルプルしている。


「い、いや、あの数に襲われたら私はどうなってしまうのかと思ったら……む、武者震いが……」

「えっ?」


 私の中の優しい信者のイメージがぐらつく。私がポカンとしているとダクネスはおもむろに剣を抜き走り出した。


「ちょっ!?ちょっとダクネス待って」

「わ、私が敵を引き付ける!クリスはサポートを頼む」


 そんなことを言いながらダクネスは走る。私は彼女の頬が赤かったのを見逃さなかった。


「ぎょぎょ!?ぎょおおお、ぎょおおお」


 ダクネスに気付いた立魚達は一斉に襲い掛かる。ダクネスを取り囲み袋叩きにする。 


「む、何だこの攻撃は!もっと本気でかかってこい!」


 立魚達の攻撃を一身に受けるダクネスは傷一つ負っていない。


「ぎょっ!ぎょぎょお!?」


 自分たちの攻撃が効いていないと気付き、立魚達に動揺が走る。


「こんな戦いがあっていいのかな?」


 私はそんなことを思いながら、ダクネスしか目に入っていない様子の立魚達を一匹ずつ倒していった。



「全くなんだあのモンスター達は?クリス、次はもっと一撃が重いやつがいるクエストにしよう」


 今回の敵に不満があるのかダクネスはご立腹だ。


「あ、はははは。でもダクネスほんとにタフだよね。あれだけ攻撃を受けて無傷なんてすごいよ」


 十匹がかりで攻撃されたのに無傷は驚異的だと思う。


「伊達に防御系スキルにスキルポイントを全振りしていないからな」


 ダクネスが得意げに言ってくる。


「そうなんだ………え?防御系に全振り?」


 ダクネスの言葉の意味に気付いて固まる。


「ね、ねえダクネス?も、もちろん《両手剣》スキルは取ってるよね?」


 私の覚えている《短剣》や今言った《両手剣》といったスキルは覚えることでその武器の扱いが上達して人並みに使えるようになるというものだ。


「もちろん取っていない」


 いくら防御系に全振りとはいえ流石に取っているだろうという私の淡い希望はその答えで打ち砕かれた。


「《両手剣》スキルは取るつもりなんだよねえ?」

「取らない」

「そ、そうなんだ。あ、あはははは……」

「さあクリス!、次は一撃熊のクエストでも請けようか!」


 ダクネスは興奮した様子で言ってくる。


「やらないよ!?そんなの絶対やらないからね!」


 私はもしかしてとんでもない人と友達になったかもしれない。そのことにようやく私は気付いたのだった。



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 遅くなってほんとにごめんなさい

 

 やっとダクネス登場です。次もよろしくです。



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