1章¦このエリス教徒に友達を
第1話
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基本、一人の時はエリス様
人と話すときは冒険者クリスとして口調を変えています。
分かりにくかったらすみません
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目を開くとそこは薄暗い路地裏だった。辺りを見渡すが人の姿はなく、無事に転送できたことを喜ぶ。……路地を抜けるとそこには、レンガの家々が立ち並んでいた。
「……うわぁ、本当に地上なんですね。ここは」
時間的にはまだ夜が明けたぐらいの時間のため人は少ないが、普段は眺めることしか出来なかった世界が目の前に広がっている、それだけでなんだか嬉しかった。
「……!それより、登録をしてもらわないと」
せっかく人の少ないこの時間にここに来たんだ、早くギルドに行って手続きを済ませよう。
「けど、ギルドはどこでしょう?」
一人で悩んでもしょうがない、思い切って場所を尋ねることにした。私は冒険者クリスとして近くのおばあさんに話しかけた。
「すみませーん、冒険者ギルドを探しているんですが……」
「ギルド?あら、この町のギルドを知らないなんて、ひょっとして他所から来た人かしら?」
「いやぁ、ちょっと遠くから来たものでこの町のことをよく知らなくて」
「あらあら……。この町に来るって事は、冒険者を目指している方かしら。駆け出し冒険者の町、アクセルへようこそ。ここの通りを真っ直ぐ行って右に曲がれば、看板が見えてくるわ」
「真っ直ぐ行って右……分かった、ありがとう」
おばあさんにお礼を言い、私はギルドに向かった。
——冒険者ギルド——
冒険者に仕事を斡旋したり、もしくは支援したりする組織。普段見ていたときは冒険者たちの声が外まで聞こえてくるような賑やかな場所だが、今はその声が聞こえてこない。
「………少し早すぎましたね」
扉を開き中に入るが誰もいない。そう思っていると………
「すみません、お待たせしました」
声がカウンターの奥から聞こえてくる。
カウンターを見ると受付の女の人が奥から現れた。ウェーブのかかった髪のおっとりとした感じの美人だ。
「随分とお早いですね、今日はどうされましたか?」
「………………」
私は目の前のものに思わず黙ってしまった。
今まで見たことがないようなレベルの胸は私には少し刺激が強すぎた。
「……あの……」
「……!え、あ、すみません。冒険者になりたいですがどうすればいいんでしょう?」
声をかけられ我に返るが思わず敬語になってしまった。これから少しずつ慣れていこう。
「そうですか。えっと、では登録手数料がかかりますが大丈夫ですか?」
「はい、お願いします」
早速、上司から渡されたお金が役に立った。これがなかったらスタートから躓いてこの冒険者生活に暗雲がかかっていたところだ。
「はい、登録料はお一人千エリスになります」
自分の名前が単位のお金を使うというのも変な感じだけどこの際忘れよう。
一通りの説明が終わり、必要な書類を書き上げた私は差し出されたカードに触れた。
「……はい、ありがとうございます。クリスさん、ですね。……筋力、生命力、魔力に器用度、敏捷性……どれも平均よりは上ですね。……え!なんですかこの幸運は今まで見たことない数値ですが」
流石に能力の制限もあったみたいだけど、それでも幸運の数値はすごいらしい。
「でもこのステータスなら流石に上位職は無理ですがそれ以外ならどれにでもなれますよ」
「そうだね、じゃあ盗賊にしようかな」
剣士や魔法使いにも憧れるが神器回収のためにも盗賊が一番だと思う。
「盗賊ですね!敵の場所がわかる《敵感知》や敵に気づかれにくくなる《潜伏》など何が起こるかわからないダンジョンで必須のスキルをもつサポートに向いた職業です。剣士や魔法使いのような派手さはありませんが成り手が少ないためパーティーもすぐに見つかりますよ。では、盗賊……っと。冒険者ギルドへようこそクリス様」
こうして私の冒険者生活が本格的に始まった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「えーと覚えれるスキルは……」
登録を済ませた私は空いた席に座り、もらった冒険者カードを見ていた。
カードに書かれたスキルポイントは10、さっきの説明だと潜在的な能力によって初期ポイントが決められるらしい。今習得出来るスキルは《敵感知》、《潜伏》に《短剣》、《窃盗》……?スキルの説明を見ると……
——窃盗(スティール)——
発動することで対象の持ち物をランダムに一つ奪い取るスキル
相手が手にしている武器だろうが無条件に奪い取れる
成功確率は幸運に依存する
「ひとまず全部覚えよう」
幸い盗賊スキルは消費ポイントが少ないものが多い、無事四つのスキルを覚えることが出来た。よし、後は残ったお金で装備を買って………
「緊急クエスト!緊急クエスト!町の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まってください!繰り返します。町の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まってください!」
町中に大音量のアナウンスが響いた。
「え?何、何が起こってるの?」
よく分からずキョロキョロしていると………
「お前、この辺りじゃあ、見ない顔だなあ」
突然声をかけられ振り向くと、厳つい顔の大柄の男が立っていた。
「い、いやー、実は今日冒険者になったばかりで何が起こったかわからなくて」
ギルドに一人はいるという荒くれもの。早くこの場から離れたい。
「いいか!緊急クエストは冒険者全員の力を合わせないといけないような高難度のクエストや稼ぎのいいおいしいクエストが来た時に行われる。」
「……え」
突然親切にクエストの説明をされて一瞬混乱してしまった。
「皆さん、突然の呼び出しすみません!今年もキャベツの収穫時期がやって参りました。今年のキャベツは出来が良く、一玉の収穫につき一万エリスです」
「どうやら後者みたいだな。初のクエストがキャベツの収穫とは運がいいなあ。お前、職業は?」
「盗賊です」
「キャベツ相手には《窃盗》が効くそうだ。せいぜい頑張れよ!」
そう言って去っていく荒くれもの。
「あ、ありがとう」
お礼を言うが荒くれものはそのまま去っていった。
ギルドを出ると冒険者たちが喜々としてキャベツを追いかけている。
——キャベツ——
味が濃縮して収穫時期が近づくと、食べられないよう町や平原を駆け、空を飛び、海を越え人知れぬ秘境で誰にも食べられず、ひっそりと息を引き取る。
知識として知ってはいたが実際見てみるとなかなかすごい光景である。私も冒険者として頑張ろう!私は目に映ったキャベツに手を伸ばす。
「いくよ!『スティール』ッッッ!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「皆さん、ご協力ありがとうございました。報酬は後日まとめてお渡しします」
収穫が終わった時にはもう昼だ。私はギルドに戻り食事をとることにした。
「おいしい」
キャベツの収穫が終わり、ギルドに戻った私は昼食を食べていた。収穫が終わった後なので今私が食べているのは普通の野菜炒めだ。それなのになぜかすごくおいしい。やっぱり自分で収穫したものだからだろうか?私は野菜炒めを食べ続けた。
冒険者レベルが3になりました。
カードを確認すると新しいスキルとして《罠発見》、《罠解除》が覚えられるようになった。説明を見る限りだと、ダンジョンの探索で力を発揮しそうなスキルだ。
早速覚えて、食事の支払いを済ませて私はギルドを出た。
「あっという間の一日でした」
あの後、無事に防具と武器を買った私は大衆浴場でお風呂に入り、ギルドで夕食を食べ、布を敷いた藁の上に横になっている。流石に武器、防具を買って上司に渡されたお金もあとわずかだ。値段が安いとはいえ馬小屋で寝るのに抵抗がないわけではない。
「明日は何をしよう」
でも今は、冒険者として頑張ろう。……天界での疲れが出たのか眠くなってきた。
明日のことを考えながら私は眠りについた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「敵感知……周囲に敵はいませんね」
確認をした後私は潜伏スキルを発動した。そのまま気付かれないように距離を詰める。まだ気付かれていない。私は十分距離を詰めると、昨日買った短剣を抜き跳びかかり、首筋に短剣を突き立てる。二、三度びくりと痙攣した後、今日のクエストの対象ジャイアントトードは息絶えた。派手さもなく地味な戦い方だがこれが一番安全で確実な方法だ。弓で射抜いたり、剣で両断したり、魔法で焼いたりともっと楽な方法はいくらでもあるが盗賊の私では使えないので、今の方法に行き着いた。
「あと四匹」
敵感知で位置を確認し、潜伏で次の相手に忍び寄る。敵に見つかったりしたらあっという間に食べられてしまう。周囲に気を配り、確実に仕留めていく。時間はかかったが、何とかやり切った。
それから数日、クエストを受けたり、バイトをしたりしながら過ごした。レベルも一つ上がって4になった
今ギルドでは………
「かんぱーい!」
「すいませーん、カエルの唐揚げ四つ」
「こっちはシャワシャワおねがーい」
キャベツの報酬を支払われた冒険者たちがあちこちで盛り上がっていた。そんな様子を眺めているとようやく換金の順番がまわってきた。
「お待たせいたしました、クリス様。今回の報酬の百万エリスです」
「えっ!?」
あまりの額についていけない。
「クリス様の収穫したキャベツはどれも質が良く、たくさん経験値の詰まったものだったのでこの値段に。どうぞお受け取り下さい」
「そ、そうなんだ、ありがとう」
そう言い私は報酬を受け取った。今日までクエスト、バイトで頑張って稼いできたが、それをはるかに上回る報酬に冒険者生活の不安定さを改めて実感した。
あの後ほかの冒険者と話をしている中で、冬は弱いモンスターはほとんどが冬眠してしまい、活動しているモンスターは強いものばかりという話を聞いた。この町の冒険者はほとんどが宿に篭り冬を越すらしい。ひとまず今回の報酬は冬に向けて大切に使おう。
今まではその日の生活のために頑張っていて余裕がなかったが、今は違う。私はこの地上に降りた理由を果たすために行動を開始した。
今私は、この町のエリス教徒の教会の前にいる。
天界で見たとき彼女はいつもこの教会に来ていた。だからここに来れば会えると考えたのだ。会えたとしてそれからどうするのか?どう話しかけるのか?決まってないことばかりだがそのことは会えてから考えよう。幸い扉に鍵などはかかっていなかった。扉を開け中に入る。
「…………」
探していた彼女は残念ながらいなかったが女の人が一人、お祈りをしていた。服装から見てこの教会の人だろう。私はお祈りが終わるのを待った。しばらくしてお祈りが終わり、振り返ったその人は私の存在に気付き慌てて………
「す、すみません。せっかくここに足を運んでくださった方を待たせるなんて」
そう言い頭を下げてくる。
「い、いいよ。そんなことしなくても」
「わかりました。ところで今日はどうしましたか?」
「いやあ、ちょっと人を探しにね?ここに騎士姿の女の人は来ていないかなあと思ってね」
「その人ならまえはここに来ていましたが、最近は見ていませんね。お知り合いなんですか?」
「えーと……知り合いというか何というか」
ほんとのことを話すわけにもいかないので説明するのが難しい。
「そうですか、もしよければ相談相手になってあげて下さい。彼女、いつも悲しそうな顔をしているので」
そう教えてくれる。天界で見ていたときもいつも悲しそうな顔をしていた。
「うん、わかった。せっかくだからお祈りさせてもらってもいいかな?」
「もちろんです」
私は目を閉じ、祈り始めた。
———どうかこの世界の人たちがこれからも幸せに暮らせますように
———どうか魔王軍との戦いが終わり平和な世の中になりますように
———どうか寂しそうな彼女と友達になれますように
私は目を開け、待っていてくれたエリス教徒の人に笑顔でお礼をする。
「ありがとう」
「……エリス様」
「……え!?」
突然相手の口から出た言葉にフリーズする。
「すみません、今の表情が肖像画にそっくりだったので」
「あ、あははは、エリス様じゃなくてあたしはクリスだよ?確かに髪の色とか瞳の色は似てるかもしれないけど」
そんなことを言いながら笑うが内心ひやひやだ
「そこまで言ってはいないのですが……でもそうですね。髪も短いですし、服装も違いますし、それに………」
「ちょっと待って!?なんであたしの胸を見るの!?なんでそんな悲しそうな目をするの!?そんな目であたしを見ないでよ!?」
そんなこともあったが私は教会から出た。今は来ていないみたいだが急にふらりと来るかもしれない。あたしは時間があるときはここに寄ろうと決めた。
「そろそろもどりますか」
私は今、人のいない裏路地にいる。地上に降りてから今日まで頑張ってきたが流石に後輩のことが心配だ。一度天界に戻ろう。私が念じるとどこからか水晶玉が出てきて手の中に納まる。上司に渡された水晶玉は必要な時以外は別の場所にあるようだ。必要な時には念じれば出てきてくれる。
「?……何が起こったの?」
私の手の中で水晶玉が赤く点滅している。よくわからないがとにかく普通じゃない。私は水晶玉に手をかざし……
「転移!」
その瞬間、冒険者クリスは地上から消えた。
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更新はゆっくりになると思いますがよろしくです。
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