この幸運の女神にお任せを!
かっちょん
プロローグ
ジリリリリリリ……
突然の音に目を覚ました私は黒電話のような音を鳴らす端末を手に取り耳に当てる。
「お休み中にすみませんエリス様、地上で一人、冒険者が命を落としました。まもなくここに呼ばれます。対応宜しくお願いします」
通話の相手は私の後輩の天使だ。
「わかりました、すぐに準備します」
私はそう答え通話を切るとベットから降り、指をパチンと鳴らす。するとさっきまで横になっていたベットや普段使っている机などがスッとその場から消えてしまう。真っ白なこの場所に残るのは椅子が二脚と一冊の本。
いつもと変わらない場所にある椅子の本が置いてある方に座り、その本を読む。本には、連絡があった冒険者がどのようにこの人生を生きたのかがまとめてある。
向かいの椅子を覆うように光が差したのと私が本を読み終わったのは同時だった。光が消えた後には冒険者が椅子に座っている。状況がつかめないのか辺りをキョロキョロしている彼に私は微笑みかけ話し出した。今日も一日が始まる。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ゴルアアアアアアアアー!」
咆哮する一匹の黒い獣。
強靭な前足で、人の頭など一発で刈り取る威力を誇る必殺の一撃を放つ、一撃熊というモンスターだ。
鮮やかに青く輝く鎧を身に着けた冒険者が腰の鞘から剣を抜き、モンスターに向かって走り出す。
「『ルーン・オブ・セイバー』ッッッ!」
彼の言葉で刀身が青く輝く、必殺の一撃を躱し、すれ違いざまに一閃。一撃熊は上下に分断され崩れ落ちた。
今見ていたのは地上で活動する冒険者のほんの一場面だ。
最初の一人の話が終わり、書類を仕上げ終わった私は、水晶玉越しに地上の様子を眺めていた。ちなみに消えた机などは彼が地上に生まれ直す選択をして天界を離れた後に元あった場所に戻っている。戦いが終わったのを確認して水晶の画面の切り替える。
そこに映ったのは願いを捧げる一人の女騎士の姿だった。彼女は毎日教会にお願いをしに来ている。ただ一心に仲間が欲しいと。
どうにか叶えてあげたい願いだが、人々の生活に過度に関わることが出来ない女神ではどうすることも出来ない。どうにかならないか考えていると、端末が鳴り出した。
私はまた端末を耳に当てる。
「エリス様、ベル様がすぐに来るようにと」
「わかりました、いつも連絡ありがとう」
後輩にそう返事をして私は自分の上司の待つ部屋にワープした。
「よく来てくれたなエリス」
そう言って笑う彼女はこの世界の女神の仕事を統括する女神だ。
すらっと伸びた手足に細いウエスト、胸も大きくてとにかくスタイルがいい。
私の先輩と同レベル、もしかしたらそれ以上かもしれない。そんなことを考えていると………。
「おめでとう、今回行った先輩にしたい女神ランキングでエリス、君が見事一位に輝いた!」
「本当ですか!ありがとうございます」
不定期に行われるこのランキングは天界で活動する天使たちにアンケートをとり行われる。上位に入ると普段の頑張りを讃え報酬がもらえたりする。たまに上位に入ることはあるのだが自分の頑張りが認められるのは素直にうれしい。
「一位の報酬は願いを一つ叶えるだが、そろそろ叶えたい願いは見つかったか?」
過去にも数回この報酬だった時があるが今まで決められずに保留にしてきた私にそう上司が聞いてくる。
願いについて考えたときに不思議とさっき見た彼女の姿が思い浮かんだ。
「………はい、決めました」
女神が人々に過度に干渉出来ないなら。
「そうか、分かった。何を望む?」
ようやく報酬が渡せると喜ぶ上司に私は自分の願いを打ち明けた。
「私を地上に行かせてください!」
「………え?」
さすがの上司も驚いたのかぽかんとした顔をしている。
しかし、すぐ我に返ったのか普段の表情に戻る。
「願いを叶えると言ったのはこっちだが、理由を聞いてもいいか?」
「地上には所有者がいなくなった神器が沢山あります。もともと私たちが与えたものですし出来るだけ回収して、新しい所有者に使ってもらおうと考えました」
流石に仲間が欲しいと願う彼女と友達になるためとは言いづらかったので前々から気にしていた神器について話すことにした。
「なるほど、そういうことなら許可しよう」
「はい、ありがとうございます」
納得してもらえたとホッとしていると、
「自分の信者を大切にしてやれよ」
「……!はい」
お見通しだと言わんばかりの一言にやっぱり敵わないなと改めて思わされるのでした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ごめんね、定期的に天界には戻るから」
「はい、エリス様の代わり頑張ります!」
場所は変わらず上司の部屋、後輩も呼んで今後の引き継ぎをお願いしました。
「エリス、君にはこれを」
そう言って上司から渡されたのは片手に収まるサイズの水晶玉。
「……えっとこれは?」
「この水晶玉があれば地上でも天界の様子を見ることが出来る。そして手をかざせばいつでも天界に戻ることが出来る、くれぐれも地上の人たちに見つからないように」
「はい、わかりました」
「最後に、地上にいる間は女神の持つすべてを見通す力などは一切使えない。ステータスにもかなり制限をかけさせてもらう、大変だと思うが頑張ってくれ」
これについては仕方がない、こうでもしないと地上に降りてすぐ女神だと気付かれて活動どころではなくなってしまうからだ。
一通りの説明が終わり私は転送用の魔法陣の上に乗る。いよいよ出発だ。
「そういえば地上での名を聞いていなかったな。どんな名前にしたんだ?」
「クリスです」
「エリス先輩、好きなんだって言ってましたね、その花。確か花言葉は………」
「諦めない心」
悩む後輩に答えを教えてあげる。
「なるほど、良い名だ。………クリスこれも持っていけ」
そう言って上司が小さな布袋を私に向って投げる。受け取ると程よい重さが手に伝わる。
「それだけあれば簡単な装備ぐらい用意できるだろう。持っていけ」
布袋の中にはそこそこの額が入っていた。本当にお世話になってばかりだ。
魔法陣が光り始める。
「仕事が溜まるから早めに帰ってくれよ」
「先輩の活躍応援してます」
二人の声を聞きながら私はこれから地上で活動する冒険者クリスとして………
「よーし、はじまりの町アクセルへいってみよう!」
転送の光が私を包み込んだ
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ひとまずプロローグです
まだまだ至らないところもあると思いますがこれからも読んでいただければ嬉しいです
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