⑤鬼吉権現の回想

 俺は、くだらぬ人間どもを捨てることにした。金と権力と性欲の三つの変数を打ち込めば、どんな人間の生態でもすべてが明らかに出来てしまう。所詮、人間共はその三つの変数の量が違うことを個性などと言って、個性があたかも人間の尊厳のように言ってる者どもの詭弁もその変数で出来上がっているのであるから、結局知ったかぶりの無限ループの化けた者にしか過ぎないのだが、しかしここにも例外はあって、人間の極上なる者の中に真理が隠されていることがあり、すなわちその類い希なる内の一人は明らかに俺であって、生の深淵など完全にないことが、一つの閃きを持って完全に理解をしていた。

砂漠にも夜が訪れて安物のイルミネーションのような星が出る。赤舌はその安ぽい星明かりに弱いのだ。真っ白な一番星がでると。灰色の赤舌はその赤い舌もろとも、狼狽えながら濃紺色に変化して、ゼリーが痙攣しているような捕らえどころのないダンスを踊り出す。

熱のない動きの止まった夜に、身体を投げ出して仰向けに倒れると俺は眠った。

  やがて空は色のない世界から群青色に変わり淡い紫に移り夜が開けてきた。

青と白以外なにもない。陽はすっかり昇り四十五度の角度から今、この地を照らしている。熱はなく眩しくもない。空に白く張り付いているだけだ。

砂漠はどこまでもうねり、乾燥した砂地は静かにとどまっているようではあるが、その一粒一粒はぐるぐると回転し激しく動き回り小さな風を起こし、その風は隣の砂を起こし回転させ、回転が絡み合って風の蓄えるエネルギーは増大していき一見静まり返っているがそこには大きなエネルギーが潜んでいた。なぜなら、その砂粒を一握り握りしめると、俺の体はあっという間に飛ばされた。

そのエネルギーの一点が赤の点となり、その赤の点が取りあえず俺の目には三つ見えた。点がひろがりはじめ円になり、下側が垂れ始めてゆらゆらと左右に揺れ始め、舌の形になり、その時には灰色でゼリー状の胴体もしっかり現れた。

赤舌が三匹表れた。

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