第19話 雪の夜や宝石箱のろんるろん 伊沢惠
雪の夜や宝石箱のろんるろん 伊沢惠
前回は「如し」という比喩を用いた作品をご紹介させて頂いた。その並びで、今回も比喩を用いた作品をご紹介させて頂きたいと思う。
とは言っても、今回取り上げる作品は直接的な比喩を用いた作品ではない。「擬態語」という表現方法を用いた句である。
「擬態語」、「擬音語」が比喩と呼べるかどうかは、作家によって意見が分かれるところだろう。しかしいずれにしても本来は目に見えないものを言葉を使って可視化した、という意味では十分比喩に成り得るだろう。
例えば漫画の戦闘シーンなどでよく見られる「ゴゴゴゴゴ」という擬音だが、これは強い力が加わって大地が振動する様を表現するのによく使われる。しかし実際には大地は「ゴゴゴゴゴ」と音を立てているとは限らない。聞く人によっては「ドドドドド」と聞こえるかもしれないし、外国人ならばもっと違った聞き方をするだろう。
「ゴゴゴゴゴ」は大地が実際にそう鳴っていた、という表現ではない。大地が揺れ動いている様を、言葉に代替したに過ぎない。つまりこれも立派な比喩表現の一つである。
「擬音語」「擬態語」を用いた成功例で私が最初に思い浮かべるのは掲句である。掲句は雪の降る夜の宝石箱の様子を「ろんるろん」と表現したのであるが、まさにこれ以外にない表現だと言える。
宝石箱、と聞いて凡人がすぐ口にする表現は「きらきら」や「ぴかぴか」であろう。しかしそれでは全くもって平凡である。作者はそこを乗り越えて、独自の見方を創出した。それが「ろんるろん」である。
「ろんるろん」という擬態語は、読者に様々な宝石箱のイメージを連想させる。宝石が一つや二つではないこと、宝石箱を溢れ出さんばかりであること、その宝石が、雪明かりに照らされてまばゆく輝いていること。それら全てのイメージをひっくるめての「ろんるろん」である。
作者は我々に指導する際に、「擬音語」「擬態語」の例として萩原朔太郎の「時計」という詩の一文をよく例に出した。
「じぼ・あん・じゃん! じぼ・あん・じゃん!」
これは柱時計の鳴る音を擬音化したものだが、「オノマトペをやりたいならこれくらいやらなきゃだめよ」としばしば指導されたことを思い出す。
「ろんるろん」、「じぼ・あん・じゃん」。
私のような凡人には、到底このような境地には至り得そうにない。
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