第5話 街頭テレビに映れば巨人寒波来る  山口優夢

街頭テレビに映れば巨人寒波来る  山口優夢




普段は人の句集などまずもって購入しない私だが、彼の『残像』を書店で見た時は思わず買ってしまった。




これは見捨ててはおけない、もっと時間を掛けて鑑賞したい。そう思わせてくれたのは、掲句の他集中に納められたいくつかの作品である。




取り分け掲句は私に句集代1,575円を支払わせる決め手となったと言っても過言ではない。




他に「台風や薬缶に頭蓋ほどの闇」、「大根が芯から冷えてゐてこはい」などが印象に残ったが、掲句を目にした時の衝撃にはいずれもあと一歩及ばなかった。




「街頭テレビに映れば巨人」という、いかにも素直な表現、それでいて研ぎ澄まされた感性。これこそ現代の俳句であると胸を張って威張れる作品ではなかろうかと思った。




私はつい最近まで、山口優夢という作者を知らなかった。ただわずかに記憶していたのは、私と同じ結社に属している人ということと、数年前に角川俳句賞を受賞した人、という情報だけだった。




だからそれまでに山口優夢という人の作品を意識して読んだことはなかったし、その存在すら私の中ではあやふやなものに過ぎなかった。




ところが掲句を目にして以来、私のその人への意識は一変した。聞けば私より年下というし、私などとは比べ物にならないくらい確かな段階を歩んでいる作者という。




よくよく見ると2010年12月号まで銀化に連載していた中原主宰の句の鑑賞文も非常にしっかりとしていて、私などいくら這いつくばってもその足元にすら及びそうにない。




これは大変な後進が育ってきたものと思いながらも、私もこうしてはおれぬとぞくぞくと血をたぎらしたのだった。




そののちNHKの俳句番組で山口優夢という人を初めて見た私の印象は、思いのほか肉付きがよく優しそうで、人当たりの良さそうな人、というものだった。




もっと怖そうで、冷たそうで、触れる者をみなぶった切る、というような人となりを私は勝手に想像していた。




私が初めて俳句総合誌に作品を発表した頃は、私が俳壇における一番の若年であったと記憶しているが、知らぬうちに着実に時代は変貌しているらしい。




才能のある者は、どんどん羽ばたけばいい。それが実力の世界というものだ。




だが若者よ。決して油断はするな。




その足先に少しでも食らいつこうと、地上ではたくさんの先達がきりきりと歯ぎしりをしながら、その足元めがけてジャンプしているのだ。



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