第2話 寒稽古声の柱を打ち立てつ 栗山麻衣
寒稽古声の柱を打ち立てつ 栗山麻衣
前回はひたすら自分のことについて書いてしまった。私のことなど知らない多くの方にとって、さぞかし退屈な思いをさせてしまったことだろうと反省している。
が、今回も引き続き個人的に思い入れの強い作品を紹介させて頂きたいと思う。それも今回までと、どうかお許し願いたい。
掲句は銀化2011年2月号の巻頭を飾った作品。冬らしい厳しさと新年らしい厳かさを兼ね備えた名句だということは、何も私などが申し上げるまでもないことだ。
名句というのは、一回読んだらそのまま心の奥底に深く刻印されて、時が過ぎようとも決して記憶の中から薄れて行かず、あることをきっかけにいつでもふっと口をついて出てくる句のことだと思う。
掲句は私にとってまさにそれだ。
真冬の、それも未明の、気温が一番冷え込む時間帯である。まだ暗い砂浜には早くも白い道着をまとった男たちが5、6人出て、掛け声を上げながら心身の鍛錬に励んでいる。
その声にふと目が覚めて、作者はその様子を窓越しに見ているのだろうか。家の中でさえ吐く息が白くなるような寒さの中、恐らく裸足で、波打ち際に立つ男たちの姿を作者は感心と尊敬を含んだ眼差しで見やっているのだ。
しかしその姿はしかとは見えない。灰色の朝靄の中に、ぼんやりと白い道着がかすかに動いたり止まったりしているように見える気がするだけだ。
その雄姿を作者に想像させているもの。――それは彼らの「声」である。
ややもすれば波音にたちまち掻き消されてしまうような中、男たちは渾身の力を込めて掛け声をかけている。それはさながら、冷たく激しい波の力に抗う一本の太い杭、「柱」のようだ。
男たちの気合いは自然のいかなる厳しさにも屈しない強靭な精神力を彼らに与える。その彼らの力の作り上げたものが、すなわち砂浜に厳然と直立する「声の柱」だ。
「声の柱」を作り上げた男たちもすごいし、それを見た作者もすごい。主催の選評によれば作者は句歴2年ばかりの方というが、句歴などはあてにならない。私もこんな句を作れるようになりたいし、こんな句を作れる作者は心から尊敬してやまない。
銀化のすごさは、各作者の個性がそれぞれに際だっていることだと思う。どんな結社誌でも必ず「個性」は標榜するものだが、銀化ほどそれを実践している結社誌を私は他に知らない。
良いところも悪いところも、全部ひっくるめてその人の「個性」だ。選句を通して、私は中原主宰にいつもそう言われている気がしてならない。
だから本気でぶつかれるし、熱くもなれる。
私も負けてはいられない。そんな気にさせてくれる中原主宰に、私は心から感謝している。
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