気ままに一句鑑賞

矢口晃

第1話 宇宙との交信しきり冷蔵庫  中村乎雲

宇宙との交信しきり冷蔵庫  中村乎雲




さて困った。俳句を始めてから十余年、銀化に入会してからわずか1年余りで、銀化ホームページ上に毎週文章を掲載するなどという大役を担おうとは。




しかもそればかりではない。来年1月からは銀化本誌への1年間の連載も引き受けている。その内容が何と中原主宰の句の鑑賞というのだから、その重圧と言ったら考えるだけで手は震えてくるし喉はからからに乾いてしまう。




打ち明けてしまえば、私は他人の句を読むことがそれほど得意でない。俳句は主に自分で作り、それを選者に見せていいか悪いか判断してもらうことに楽しみを感じている。人がどんな句を作ろうが、はっきり言って自分にはあまり関係がない。それよりも自分がどう変り、どう選者に認めてもらえるかをひたすら探求するほうに強い意味を感じている。




だから人の句を評論しろと言われるのは実はとても困る。仮に面白いか面白くないか、好きか嫌いかは自分の中で判断できたとしても、それは「何となくいい」とか、「なんとなく好き」とかのレベルに過ぎず、「どこがどうだからいい」などと他の人に伝えるための語彙を私は持っていないし、それをする努力をしてきた経緯も今までにない。




評論はされるものであって、自らするものではないと思って生きていた。それが突然の、2本の連載である。




ただそんな私に今回これだけの仕事を与え期待をかけて下さった中原主宰始め銀化の皆様のご恩に少しでも報いるべく、この責任を全うしたいと思う。それができた時、私は始めて自他ともに銀化の一員として認められるような気がするのである。




さて、掲句は私に銀化への入会を決意させてくれた一句と言ってもいい。それまで私は、別の結社に十年以上在籍していたのだが、次第に保守化していくその句風になじめずに悶々とした日々を送っていた。結社を共にする人々の句には、見ても何の真新しさも感じなくなり、ほとんど刺激も受けなくなっていた。そして自分自身の存在はそれらの無味乾燥な作品群の中に埋没されているような気がして鬱屈していた。




このまま俳句を続けていても仕方ないし、結社を変えるのもそれまでの様々な恩や縁があるから忍びない。いっそのこと俳句をやめてしまおうか、とも考えていた。




とにかく一度環境を変えてみるしかない。それでも俳句が面白くなかったら、その時は俳句をやめてしまえばいい。そう思い至り、前々から気になる存在であった銀化の購読を開始した。その中にあったのが掲句である。




私は目の前で火花の弾けるのを見た気がした。これほどの鮮やかな驚きと感動を、人の俳句作品から受けたのは実に珍しいことだった。




冷蔵庫が発するあの微かな唸り声を、宇宙と交信しているのだ、と捉える発想の自由さと飛躍のあざやかさ。私の中で忘れかけていた俳句表現に対する意欲が目覚めた。




掲句と出会い銀化に入会させて頂き、中原主宰の厳しくも公平、寛大な選句によって、お陰様で今では張り合いをもって俳句に取り組ませて頂くことができている。もし仮に掲句に出会うタイミングを逃していたら、今頃の私がどうなっていたかは定かではない。




連載一回目ということで、今回は個人的に特に思い入れの強い句を紹介させて頂いた。

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