2-2 『不死王』――ギ・ジグ

 アゼルに魔王軍の設立を命じられたゾルディアによって、呼ばれて集められたのは四人の魔族であった。


 白髪と白い頭頂部の耳、豊満な肢体を晒す和服を思わせるような着物に身を包む妖艶なる女。『〈獣人族セリアン〉もどき』と呼ばれ、『人族同盟』によって淘汰されかけたという忌まわしい過去を持つ、〈獣魔族〉の長――九尾の妖狐のラン。

 筋骨隆々とした赤黒い肉体を持ち、額には一本の天を衝くような角を携え、下顎が発達した、緑小鬼ゴブリン豚鬼人オーク鬼人オーガなどを配下とする『鬼』の長、ガダ。

 先日アディストリア大陸から攻め込んできた人族に新たな恐怖を叩きつけ、武人としての誇りと矜持を持つ、巨躯を誇る金毛の〈牛魔族ミノタウロス〉の長である、バロム。

 そして、先日アゼルに大敗を喫した〈黒竜〉ヴェクターを含めた一族を率いる長であり、同時にヴェクターの父でもある、エイヴァンであった。


「それで、話ってのは一体なんだってんだい?」


 集められてみれば、この魔王国アンラ・マンユの重鎮ばかりといった面々だ。ここに何故自分が呼ばれたのかが判然としていないためか、胡乱な目をゾルディアへと向けつつも、口数の少ない他の面々に代わって訊ねたのはランだった。


「陛下からのお達しを受けた。ここにいる皆には、その一柱を担ってもらいたい」


 そう端を発して、ゾルディアはアゼルから聞かされた、魔王軍の設立と、現在の、そしてこれから先のアンラ・マンユの構想についてを共有するように語った。


 反応は様々であった。

 ランは面白いものでも見るかのように聞き入り、ガダは粛々と受け止めるかのように瞑目したまま腕を組んでいる。バロムは考え込むかのように顎に手を当て、エイヴァンは――何やら不機嫌そうに顔を歪めていた。


「エイヴァン、何か言いたい事でも?」


「軍などと言われてもな。確かに陛下は〈黒竜〉さえ赤子の手を捻るように降すだけの実力も、魔力もお持ちのようだ。儂ともあろう者が、陛下を前に抗おうなどとは思わぬ程に、な。だが、他の魔族と組むとなれば話は別だ」


 それは実に〈黒竜〉の一族らしい答えだ、とゾルディアは思う。

 突出した力を持つ魔族は幾つか存在しているが、その中でも実力に厳しい種族と言えば、彼ら〈黒竜〉だ。彼らにとって実力のない者は侮蔑の対象であり、決して庇護の対象ではない。

 今回の話はエイヴァンから見れば、実力のない――とは言え、腕っ節とでも云うべきか、そういった表面的な強さのみに限るが――者達と組まなくてはならない。当然ながらに難色を示すのも無理はなかった。


 だからと言って、ゾルディアはそれを許容するつもりもなかった。


「――図に乗るなよ」


 唐突に溢れ出る、ゾルディアの身体から溢れ出すおどろおどろしい魔力の奔流が、部屋の中を満たす。さながら泥の中に埋められたような息苦しさは、常人であればただこれだけで生命を刈り取られてもおかしくはない程の、濃密な死の気配が場を支配する中、ゾルディアは怒気を露わにエイヴァンを睨めつけた。


「陛下の足元にも及ばぬどころか、で、あの御方の案にケチを付けるつもりか? 貴様、いつからそんなに偉くなった?」


 ゾルディアの物言いも、この濃密な、どこか粘液を思わせる程の濃い魔力の奔流も、ランは知っていた。かつての魔王であるジヴォーグ――破壊の象徴、力こそ全てであった彼の右腕であった頃のゾルディアは、確かに魔族の中では幾分かは温厚ではあるが、だったのだから。

 ――先代魔王の右腕は伊達ではない、って事かねぇ。

 他人事だからこそ、ランは身を強張らせるエイヴァンを睨みつけるゾルディアという光景を前に、まだどこか余裕を持って状況を見守っていた。


「そこまでにしておいた方がいいんじゃないかねぇ、ゾルディアの旦那も。陛下は配下同士のいざこざは両成敗だと仰っていたはずだよ」


「む……、そうであったな」


 魔都アンラ・マンユ建国の際、アゼルは「自らの下についた以上、多少の諍いなら目を瞑るが、それが大きな争いとなれば俺が両方相手する」と明言している。

 しかし、これは周りの勘違いなのだ。

 アゼルはただ、「種族間の違いがあるのだから、直に自分が聞いて解決できるか模索する」というつもりで告げた言葉であったのだが、これを聞いた周りの者達は「両方潰す」と言われているのだと思い込んでいるのである。

 とは言え、この勘違いによって、アンラ・マンユではお互いに折衷案を生んで自分達で譲歩しあって解決しているのだから、結果としては良い方向に転がっている。


「――魔王軍、ねぇ。アタシは賛成さね」


 空気を切り替えるように、ランがころころと笑いながら続けた。


「そもそもウチの子らは戦闘に特化している子も少ないからね。それでも、せめて得意分野じゃ役に立ちたいって言ってくれてる子も少なくない。アンタのトコもそうだろう、ガダ?」


「相違ない。オレ、戦える。弱い者、戦えない」


「だろうね。アゼル魔王陛下はそうした連中にまで無理に前線で戦えなんて言う御方じゃあないだろうさ。適材適所ってヤツで活躍する場が増やしてやれるってんなら、アタシは賛成さ」


 何より、ランは今の魔族の雰囲気にかつて抱いた僅かな憧憬を思い出していた。

 人族から淘汰され、力こそが全てである魔族の一角となり、しかし魔族の中ではそこまで身体的にも魔力的にも突出していない獣魔族は、それでもなおランがどうにか道を切り開き、まとめ上げてきた者達だ。組織立った生活、適材適所の仕事を割り振る事で、力がなくとも生きれる環境を築いてきた。

 アゼルが今目指しているものは、かつてランが人族に淘汰されてもなお憧れ、思い描いた文化的な暮らしであるとさえ言える。その第一歩がアンラ・マンユの建国であり、この瞬間もまた、これから始まる魔族の歴史の最初の一頁であると確信している。


「俺も賛成だ」


 横合いから声をかけたのは、無言を貫いていたバロムであった。

 あのアディストリア大陸――レアルノ王国の滅亡は記憶に新しい。これから先、アゼルが何を成そうというのか、その先に何があるのか。ネフェリアと共に船上で語らって以来、良くも悪くもバロムはアゼルを見届ける決意を胸にしている。

 アゼルによって、凪を迎えていた世界には新たな風が吹き、これから先は否応なく荒れるであろう。時代の変わり目という意味では、彼ら魔族がこの世界に誕生したジヴォーグ以来の大きな転換点だ。

 それを目の当たりにしたバロムの胸には、これまで燻り続けていたかつての闘志と燃え滾るような熱い戦意が、静かに、しかし確かな熱を持って、再び燃えつつあった。


「ふむ、賛同に感謝する」


「……あれだけ脅した後で感謝もへったくれもないんじゃないかねぇ。まぁいいけどさ」


 エイヴァンもまた、ゾルディアの先程の態度はもちろん、さすがにバロムまでもが同意を示した以上、否やを口にできる雰囲気ではない。ともあれ、ゾルディアの提案は満場一致に受け入れられる形となった。


「しっかし、アタシらだけでいいのかい? 夢魔の一族はもちろん、ベルファータだって実力だけならアタシとそう変わらないはずだけどねぇ」


「夢魔族は元々、諜報活動と陛下の側近という役割を担っている。ベルファータは夢魔族と共に、この魔大陸内での活動を優先するため、我らとは別行動になるのでな。そちらは陛下の指示で動く事になろう」


 ランの懸念はすでにゾルディアがアゼルに確認を取っていた。

 現在、人族の大陸から一斉に引き上げる形となった無魔族ではあるが、今後は必要に応じてのみ町への潜入を指示する予定だ。同時に、今もまだアゼルと恭順を示していない魔大陸の魔族らとの接触、条件や希望の折衝役も担ってもらう必要があった。同時に、ベルファータ率いる蜘蛛魔族は、対魔族用のアンラ・マンユの防衛という役割を担っているため、魔王軍の管轄からは外れているのである。


「――では、ここに魔王軍の設立を宣言する。皆、それぞれの人数や得意とする役割などを割り出し、私に報告してくれ」


「了解。それで、肝心の陛下はどうしたんだい?」


「陛下ならば、今頃はサリュ殿と鍛錬を行っている頃であろう。邪魔をすればサリュ殿の機嫌を損ねるぞ」


「あぁ、そうかい……。なら、邪魔したらアタシらが危ないだろうねぇ……」


 その一言には十分過ぎる威力があったのは、サリュの日頃の行いのせいである。

 サリュにとって、アゼルは唯一無二の自分を理解わかってくれる存在だ。そんなアゼルに向ける愛情は、いっそ執着にも近い何かがあるため、周囲の者がアゼルとの二人の時間を邪魔しようものなら、即座に殺意を向けられる。その被害に遭った者は決して少なくなく、この場にいる誰もが一度はアゼルに用事があろうとも、サリュと二人きりでいる際には「邪魔しないで、刈り取るよ?」と満面の笑みを向けられながら宣言されている。


「ところでラン。外からやって来た者達はどうしている?」


「あぁ、今の所はウチで面倒見ているけどね。どうにもクセの強い連中もいるみたいだねぇ」


 ゾルディアが指したのは、魔大陸の外からやって来た〈獣人族セリアン〉や〈巨人族タイタン〉などといった者達である。彼らは一様に『人族同盟』からは疎遠にされ、それでも彼らが持つ固有の能力といったものを戦力として欲していた人族らによって、隷属を強要されつつあった一族などであった。

 そんな彼らとて、ならば魔族に忠誠を誓うかと言われれば答えはノーである。彼らはあくまでも安住の地を求めるかのようにこの魔大陸へとやって来た者達であり、魔王アゼルの庇護は欲してこそいるが、それだけだ。


「我々としては、やはり陛下に忠誠を誓ってもらいたいところではあるのだがな」


 ゾルディアとしては、本来ならばそういった態度を取る者らを見逃しておくつもりはないのだが、肝心のアゼルが一切気にしてはいない以上、自分が動くのは早計であると考えている。

 もどかしさに歯噛みするゾルディアの耳朶を打ったのは、ランの噛み殺しきれない笑みが零した声であった。


「クックククッ、そうは言っても陛下がそんなものを望んじゃあいないからねぇ。そもそも、あの御方がわざわざ従わせようとしなくたって、勝手に惹かれてついて来る事になるだろうさ。アタシらのように、ね」


 ランの言葉に深く頷いたのは、ゾルディアだけではなくバロムもまた同じであった。

 先のアディストリア大陸侵攻時も、その前の勇者との戦いで見せたあの姿。まさしく強く惹きつけられるだけの芯の強さ、修羅として道を歩む者の背というものを物語り、あの一件で魔大陸の多くの者が魔王を――アゼルを認めつつあるのだ。当然、バロムもまたその一人である。


 これから先に待つであろう、人族との戦争。

 かつて衝動に駆られるばかりで、その先を見据えようともせずに戦いに身を投じた際とはまた異なる、未来を賭けた戦い。

 賽が投げられた今、世界は大きな変革を迎えつつあるのだろうと、その場にいる誰もが口には出さずともひしひしとその身で変化を感じ取っていた。


  





 そうした話し合いが起きている中、魔王城の裏手にあるリリイの庭園近くの開けた地では、大気が鳴動するかのように激しい音が響き渡り、その様子を見ているリリイは顔を引き攣らせていた。


「むぅ~~っ! アゼル、ズルいっ! 当たって!」


「そう言われても困るんだけどな」


 言葉のやり取りはまるでじゃれ合い。しかし先程からサリュは手に自らの力を具現化した大鎌を振り回しており、一方アゼルもまたサリュとは異なる漆黒の大鎌を振るっている。互いに互いの魔力を具現化し、武器とした模擬戦の最中である。

 リリイが顔を引き攣らせているのは、お互いの武器に込められた魔力が、暴走しようものなら近隣一体を灰燼に帰す程の濃密さで作られた代物であるから――ではない。魔力の扱いに関しては、亜神ルーシェに作られたアゼルはもちろん、『歪み』として魔力そのものであるサリュの右に出る者などいるはずもなく、暴走する可能性など考えるだけ無駄である。


 それでも、お互いがお互いを殺してしまいかねない程の、鋭く、研ぎ澄まされた一撃を打ち合いながらも、先程から二人が本気を出しているようには一切見えない事が、リリイの顔を引き攣らせている原因であった。


 アゼルの動きは、もはや演舞を見ているかのように自然で、洗練さえされている程に美しい。無駄な動きを排したアゼルは、時に自ら大鎌の遠心力に身を任せて体勢を崩したかと思えば、そのままぐるりと身体ごと捻って反撃に出る。


 一方、サリュの方はまさに力押しといった動きではあるのだが、如何せんサリュの力は華奢な身体のそれとは異なる。

 一撃に込められた力はバロムですらあっさりと吹き飛ばしかねない程度に強烈なのだが、アゼルはそれをいなし、力を逃しながら受け止め、時にはサリュ以上の力を込めてサリュの身体ごと押し込む。


「これ程のもの、なのですね……」


 リリイの口から漏れたのは、純粋なアゼルの力に対する賞賛であった。


 かつての魔王ジヴォーグと同等の力を有するサリュを相手に、未だに涼しい顔をして舞い続けるアゼルの動きは、つい数ヶ月ばかり前までならば魔力の扱いすら十分にできていなかったと言うにも関わらず、今では自分の手足と同等に、或いはそれ以上に無駄も淀みもなく操っているではないか。


 神が求め、神によって生み出された魔王。

 その本質を断片的ながらに理解しているリリイだからこそ、アゼルの強さからは神の本気度というものが窺える。


 そしてそれは、アゼルと今なお激しく打ち合っているサリュにも言えた。


 かつてのジヴォーグとほぼ同等の力を持つサリュとあそこまで余裕を持って対峙していられる者など、アゼル以外にはいない。今のサリュは、全盛期のジヴォーグの力の断片としての力のみならず、更にはアゼル自身の魔力によって染め上げられ、かつてのそれを徐々に上回りつつある。


 周囲に張られた結界のおかげで庭園やリリイやフェアリーのいる場所まで直接被害が及ぶ事はないが、それでさえ片手間程度に結界を維持しているのは目に見えており、リリイを以ってしてもアゼルの結界を破るには全身全霊を懸ける必要すらある。もしもこれ程の魔法を操れる者が他に魔族にいるとすれば――


「『不死王ノーライフ・キング』ぐらい、ですわね」


 ――リリイの口から漏れたのは魔族きっての大魔導を操る不死の王、ギ・ジグの存在であった。


 生命の摂理から離れた存在、魔力を糧に久遠の時を生きる彼の者の在り方は、皮肉にも世界が生み出した精霊であるリリイのそれに近い。




 ――――故にこそ、リリイは気が付いた。




「……まったく。あなたはいつだって神出鬼没ですね――ギ・ジグ」




「さすガは精霊。気が付いテイたのカ」


「もちろんです。それより、その物騒な死の気配を引っ込めてくださいませ。フェアリーあの子達が苦しんでしまいます」


「おっト、それハ失礼」


 まるで闇そのものが、リリイの真横に、ただただそこに存在していたとでも言わんばかりに現出していた。襤褸を纏い、黄金と宝玉であしらわれた装飾品をじゃらりと鳴らしながらもカタカタと笑い、伽藍堂の眼窩には青い焔を揺らす死の王。しわがれた奇妙な声は実に愉しげなものであった。


 溢れ出る死の気配は、生命の権化である精霊には酷く不快ではあるのだが、耐えられない代物ではない。だが、下級精霊とでも言うべきフェアリーには猛毒になりかねないためか、リリイが剣呑な空気を宿しつつ告げれば、素直に自らの力の余波を留めてみせた。


「あレが、魔王カ」


 豪奢な指輪を嵌めた骨の指で顎を擦りつつ、ギ・ジグはアゼルとサリュを見つめながら呟いた。奇妙な声を持つギ・ジグの声色からでは感情は読み取り難いが、それでもリリイは僅かなギ・ジグの声に篭もる感嘆に気が付き、小さく笑みを浮かべた。


「珍しい。貴方でもあの御方に挑もうとは思わないのですか?」


。あレは儂以上ニ


「狂っている……? はて、理知的な御方ですわよ?」


「クカッ、そレは上辺だけヨな。敵対すル者は須らク滅ぼシ、それでモなお止まらヌであろウ。儂などガ不用意にちょっかいヲかけレば――ホレ」


 ギ・ジグが再び身体から、先程以上の死の魔力に殺意を載せてアゼルへと向けた――刹那、一陣の黒い疾風がリリイの視界を横切ったかと思えば、硬質な衝撃音と強烈な力の余波が周囲に吹き荒れた。


 咄嗟に吹き荒れた余波から腕で顔を覆ったリリイが腕を下げると、そこには大鎌を振り下ろしたままギリギリと虚空で激しい火花を散らさせ、犬歯を剥き出しにしたサリュと、それを魔力で編んだ結界で防ぐべく骨の手を翳すギ・ジグの姿があった。


「……今、アゼルに殺気を向けたよね? 向けたね? 敵だよね?」


「クカカカッ、此奴モまた狂っテおる。なるホど、確かニこの力――先王ノそれと同ジ。すまヌな、娘。少々悪戯が過ぎタ」


「悪戯? 悪戯で私のアゼルに殺気を向けたの? ――あはっ、死んじゃえ」


「おうおう、儂ハとうに死ンでおルでな。それハできヌ相談よノ」


 からからと――ならぬ、カタカタと笑ってみせるギ・ジグのそれは、まるで童女を相手に揶揄して笑う爺と言ったところであるが、しかし相変わらずギチギチと音を立て、大鎌を突き立てんとするサリュの攻撃はギ・ジグによって確かに防がれたままだ。その光景は、お世辞にも微笑ましいとは言えない。


 とは言え――いくら魔力を糧に生きていようとも、サリュの一撃を前にこうして障壁で防いでみせつつ笑っていられるかと問われれば、リリイとて首を横に振らざるを得ないだろう。全てを喰らおうと襲いかかる『歪み』の力こそ使ってはいないものの、余波の魔力だけでも凄まじいものがあった。


 このままでは埒が明かないのでは――とリリイが途方に暮れそうになった頃、ようやく悠然と歩み寄ってきたアゼルに気が付き、サリュがアゼルの元へと一飛びで戻った。

 仕切り直そうと再び腰を落としかけたサリュの頭に手を置いて、アゼルが誰何の声をあげた。


「噂に聞く『不死王ノーライフ・キング』――ギ・ジグかな?」


「如何にモ」


「初めまして、魔王アゼルだ」


 不死の王と魔王の邂逅。

 互いにしばしの沈黙を貫いたまま睨み合っていたかと思えば――ふと、ギ・ジグが再びカタカタと笑う。


「実に良イ。あの道化モ、たまにハ面白イ情報を齎せテくれるもノだ」


「道化……、アラバドか?」


「うム。――魔王ヨ、儂はお主ニつこう・・・


 傲岸不遜なる『不死王ノーライフ・キング』は、きょとんとした様子で自らを見つめるアゼルに向けて、更に言い放った。


「すデにイレイア嬢――『陽を跨ぐ者デイウォーカー』は動キ出しておるゾ、魔王。彼奴は享楽的デ狂信的、そしテ強欲ダ」

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