57.つくばメディカルセンター病院 - 共感覚と絵画鑑賞

 はい、ご到着。松見公園です。すっかり真っ暗ね。

 久しぶり来たわ。懐かしいなー。


 ここ、隣が病院なのよ。つくばメディカルセンター病院っていう、大きな救急病院。

 お、この水色の轟音は。良いタイミングね。

 救急ヘリよ。

 メディカルセンターの屋上にはヘリポートがあるの。ヘリで患者が運び込まれたり、ドクターやナースを派遣したりしているのよ。かっこいいよね。

 今日はどんな人が運ばれてきたんだろうね。どうか幸あれ。

 メディカルセンターには怪我やら病気やらで二度ほど入院したわ。様々な機能を持つ中枢病院だけあって、スタッフみんな優秀よ。あなたも今日何かあったらここに運んでもらえるわね。安心して手術を受けるといいわ。

 いや、もちろん何もないのが一番だけどさ!


 メディカルセンターに入院している間、毎日この公園をお散歩していたの。

 松見の名の通り松林があって。大きな池の周りを庭園風の遊歩道が囲っていて。芝の広場があって。

 でも何より一番の特徴は、あの展望塔ね。

 通称、栓抜き。変な形でしょ。

 上ってみたい? 残念。もう展望塔チケット売り場は閉まってるわ。

 わざと遅い時間に連れてきたんじゃないかって? 勘の良いガキは嫌いだよ。高いところは苦手でね。

 駅からバスで十分もかからないから、気になったら別な人と来てちょうだいな。


 ここはそれほど桜多くないけれど、池に花弁が落ちていて綺麗よね。花筏はないかだなんて言葉があるけれど、水面がびっしりピンクに覆われて、いかだでは足りない気がする。

 花筏はないかだの水面は何色に見えているかって? 

 特に色は感じないわね。あ、でも花筏はないかだという言葉自体は桜よりずっと薄いピンクと水色だ。それを感じていると言えば、感じているのかな。「これは花筏はないかだだ」と思った瞬間に。

 こういうふうに景色や写真や絵を見ているとき、どうしても共感覚の色を避けられない。私が絵画を鑑賞するとき、その方法は他の人と大きく違うのかもしれない。例えば今の景色みたいな、夜の濁った池に花筏はないかだが浮かんでいる写真だって、私の中にはピンクと水色が清らかに澄み渡る。

 きっと画家やカメラマンにはなれないわね。自分が綺麗だと思って描いたものや撮ったもの、他の人には見えないんだから。


 そうそう、夜桜もいいけれど、何よりここの見どころはね。あっちあっち。対岸に行きましょ。

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