58.松見公園 - アーレンレンズ到着

 こっちこっち。この池のほとりよ。

 私的に松見公園の一番の名所はここ。

 すごく広い池でしょ。それでね、こうやって水際に近付くと。

 なんと!

 餌を求めて鯉が上陸してくる!!!

 しかも鯉がめちゃくちゃでかいんだ、これが。何十センチくらいあるだろうね。少なくとも五十センチはありそうだよね。

 鯉たち、上陸しすぎて腹側のヒレがすっかり擦り切れちゃってるんだ。こうして腹が平らになり、這い上るために胸ビレが発達して、陸上生物は生まれたんだろうね。進化のあゆみを感じる。

 昼の間ならレストハウスで鯉の餌も買えるのよ。毎日じわじわ上陸距離を伸ばしていけば新しい生物の誕生を誘導できそう。

 わっ、油断してたら水かかった。

 

 真っ暗だしそろそろアーレンレンズも外そうかな。

 よく茶色い眼鏡かけて歩けたなって? 私にとっては、あなたが昼間裸眼で歩いていることの方が不思議よ。あんなに眩しいのに。


 このレンズが手に入ったのは、アーレン症候群のカウンセリングから何週間後だったかしら。アメリカから船便に乗って届いたの。

 最初は眼鏡のカタチじゃなくて、ただの丸いレンズだったわ。カウンセラーさんに予告された通り赤褐色のレンズ。壊さないように中身確認だけしてすぐしまっちゃったから、特に感動はなかったかな。

 アーレンレンズの加工を請け負ってくれる眼鏡屋さんって、本当に少ないのよ。最寄は千葉県流山市の眼鏡屋さんだった。対応できるのが店長だけだって言うから、あらかじめ店長さんがいらっしゃる日を聞いて、予約を入れた。

 真夏のめっちゃ暑い日だったかな。私はレンズを持ってつくばエクスプレスに飛び乗ったわ。

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