24.講義棟 - 大学と教育と共感覚
そう、大学に入ってからは、みんな服の色も髪の色も違って、それが講義中つねに視界に入るようになった。
茶色い頭の人が固まってるとその人数が色に見えちゃう。2人で頭を寄せ合ってれば黄色、1人でぐらぐら居眠りしていれば赤、みたいにね。そして皆好きな服を着ているじゃない? 講義も黒板じゃなくてパワーポイントになったから、文字や図がカラフルだったりもする。そうやって、共感覚の色と、見えてる服の色と、パワーポイントの文字の色が、ぐるぐるに混線しちゃって。
そのうえ、私語や内職に厳しくないから、けっこう皆ごそごそやってる。その音の色がうるさいのなんの。
がさがさごそごそクスクスことん。緑緑青黄黒白白赤黄橙白。疑似的に表現してみたけど、同じ漢字の色も全部微妙に色調が違うよ。
特にいつも私語してる子がすごく鮮やかな碧の声で、まー迷惑だったよね。
余分な情報を少しでも減らすために、私は最前列で講義を受けるようになったわ。
人の頭が視界に入って数の色がちらつかない、雑音も小さくなるから、すごく楽になったよ。先生にも顔覚えてもらえるし。目の前でサボるわけにもいかないから居眠りもしなくなるし。同じように集中したい仲間が周りに集まってるし。最前列はいいことづくめだった。
それでも集中できるかは先生の声の色次第だったかな……。高校までと違ってすごく沢山の先生が講義をするから、たまに相性悪い色の先生にもあたったわ。一度だけ単位を落としたことがあるのだけれど、その担当の先生はすごく濃い桜色の声で、何言ってるか半分も聞き取れなかったのよね。板書もよく見えてなかった。
むしろ義務教育で濃い色の先生に当たらなかったのは、幸運だったかな。特に小学校なんか全部の教科を同じ先生が教えるものね。下手したら丸まる一年勉強できなかったわよね。そしたら今、大学には居なかったかもね。
もし英語圏で生まれたとしたらもっと悲惨だっただろうね。色が眩しくて教科書を読みたくない。黒板に書いてある指示も見たくない。そうして作られるのは、俗に言う、文盲。
そうそう、教育の影響を排除してなお日本語より英語の方が文盲率が高いって知ってた? 脳卒中などの後に残る言語障害も、英語の方が発生率が高いみたい。バイリンガルだと表音言語から先に失語して、表意文字の能力は残りやすいそう。不思議よね。
ちょっと話が逸れたけど、共感覚を持ちながら日本に生まれて義務教育を無事に終えたのは本当にラッキーだったわね。人生どうなるか分かったもんじゃないわ。思わず遠い目をしてしまうよ……。
……あ、見て。窓の外。
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