25.アリスは緑、田中はブルー - 共感覚と遊び

 窓の外、綺麗ね。桜の花弁が降ってきてる。この敷地には桜はないのだけれど、風で運ばれてきて、上の方から優しく降るのよ。

 桜吹雪は虹色よ。何の情報でそうなっているのか分からない。ランダムに数のまとまりが離散集合するからかな? ホログラムみたい。


 桜吹雪のホログラムは、大きな電卓を思い出すわ。

 小さい子供のころ一番好きな遊び道具は電卓だったの。

 画面いっぱいに数字を並べて、ルートを連打するの。ぱたぱた移り変わる数字が、つまり色が、万華鏡かホログラムみたいでね。懐かしい光。

 お散歩も好きだったなぁ。物を見ているだけで色を感じるから、鳥や風の音に色がつくから、遊び道具なんて要らなかったわ。綺麗な色を見つけるとずっと聞いたり眺めていた。私としては理由があって立ち止まっていたのだけれど「明るい性格なのにぼーっとしてる子供」ってよく言われたわね。お散歩は今も好きよ。

 本を読むのも好きだった。対象年齢より一回りも二回りも難しい本を読んだわ。意味は解ってなかっただろうけれど、文字にも色があるから、本も絵本も楽しさはそんなに変わらなかったの。むしろ絵本はうるさく感じて苦手だった。不思議と五味太郎は好きで繰り返し読んだわね。使われてる色が鈍めだからかな?


 そして小学生のころタイピングを覚えると、いちばん夢中になった。

 文字が好きなの。何もない画面に文字が生え出てくるのが好きなの。平面に意味と色が産まれるのよ。自分の指がキーボードを叩く音に合わせて、とめどなく。色の洪水を自分で作るの。色の世界を自分で創るの。こんなに楽しいことないわ。

 できるだけ長くいつまでも文字と意味の色を産み続けるため、小説を書き始めた。それは自然なことだと思わない?


 小説で初めてもらった賞は大学の学生文芸賞ね。

 ネットで読めるよ。「アリスは緑、田中はブルー」で検索すると一番上に出る。

 共感覚の話なんだ。正直チートよね。記念冊子に最終選考の様子が載ってたんだけど「作者は共感覚に憧れがあるんだと思う」とか言ってる人がいて笑ったなぁ。まさか作者自身が共感覚者だなんて、思わなかったんだろうね。

 

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