53.awakening - レンズ色決定

 エビマヨ待つ間にレンズの続きを話しましょうか。


 三回通って、最終的に四枚のレンズが重なったわ。四つの色の情報を合成して、一枚のレンズにするんだって。スタッフさんが「合成するとこんな色になると思います」って赤茶色のレンズを見せてくれた。

 そのあと、レンズのない状態とある状態で読み速度が変わるかどうかの検査をした。検査の内容は、さっきも言ったように練習されちゃ困る事かもしれないから、内緒ね。

 裸眼状態はともかく、四枚の剥き出しレンズを重ねて目に当てて検査してる様子はかなりシュールだったと思うわ。

 結果? 全然違った。本当なら「有意差」っていう、効果があったか比べるための数値を計算するのだけれど、そんなの必要ないくらい差が出たわ。レンズがあった方が、ずっと速く正確に読めたの。

 レンズの効果よりも、自分がどれだけ不正確にちんたら読んでいたかの事実に愕然としたわ。読書は好きだったし、大学入れるくらいには勉強もできたから、まさかこんなに読めてないとは思わなかった。

 今まで私が好きだったもの・得意だったものは何だったんだろうって、ぐらついた。治そうとすることで、自分の不具合を見つけてしまう。気付いてしまう。それで自我が揺らいでしまう。

 それまでは「病院に行くのが怖い」って言う人、正直意味不明だなと思っていたの。でもやっと、検査結果を――信じていたのと違う自分の姿を――見るのが怖い気持ち、少しだけ分かった気がした。

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