38.科学万博記念公園 - 共感覚の弱い時間

 夕暮れ未満のこの時間。黄色っぽくて、いい感じに優しい視界だわ。アーレンレンズなしでも痛くない時間。共感覚も弱くて、すべてがクリアに見える時間。

 人混み酔いも収まってきたわ。待たせてごめんね。良い風も吹いているし、もう一か所くらいお散歩しようか。

 子供は撤収する時間だから、あそこもそろそろ空いてくるはず。

 万博記念公園行きましょ。



 ああ、よかった。やっぱり裏手は空いてるね。

 大阪に連れていかれるかと思った? 残念。つくばにもあるのよ。つくば万博の記念公園が。

 万博跡地だけあってめちゃくちゃ広いでしょ? しかも起伏が激しい。人工の針葉樹林とか、菖蒲の川辺とか、芝生の広場とか、雑木林とか、バラエティに富んでいてなかなか楽しいわよ。敷地の反対端にはテニスコートもあるわね。

 万博らしいものなんて残っていない、名前だけの公園だけれど、広々として気に入っているの。


 おっ、川にガチョウおるじゃーん絡もう!

 わっ威嚇された。こわっ。これだから大型鳥類は。嘴の牙まで見せつけて。本気出せば私たちなど倒せるって余裕が感じられるわね。

 鶏見ましょ、鶏。あそこの藪の中で誰かが放し飼いにしてるのよ。

 ……あれ、いない。

 まさか鶏……誰かのご飯に……。


 今日の夕焼けは本当に優しいわね。

 アーレンレンズがあるとはいえ、やっぱり裸眼の方が気持ちいい。これが加工されていない私の世界って感じで、さ。

 でもあなたと同じ世界ではないのよね。

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