8.ウエストハウス - 共感覚と感情
はい、ウエストハウスご到着。
そこの桜、見事でしょ。すごく花が大きいよね。ソメイヨシノじゃない品種なのかな。この桜が見たくて春はしょっちゅうウエストハウスに来るの。
待ち人数は、ああ、よかった、空いてるね。
メルヘンなお店でしょ? カウンターや窓辺に所狭しといろいろ置いてあってさ。ごちゃごちゃしてるけれど、なんだか落ち着くのよね。
え? テーブルクロスが赤ギンガムだからじゃないかって? そうかもしれないね。
はい、メニューどうぞ。私はこっちのデザートメニューを見るから。
あーあーパフェ食べたーい。大学で身につけた栄養の知識をかなぐり捨てて甘味を貪りたーい。
ここにビックリサンダーマウンテンっていう商標アウトな巨大パフェあるでしょ。頼んでいい? 一緒に食べない? ダメ? ダメか。
分かった。素直にファザットを頼むよ。これすごいのよ。半斤トーストにハチミツをたっぷりかけて、バニラアイス乗せてあるの。私これにする。
そっちも決まった? じゃあ店員さん呼ぶね。砂糖堕落の使者、いでよ。ピンポーン。
ファザット来た! んー、いただきます!
焼き立てサクサクのトーストにバニラアイスが染み込んだ、この感触。歯触りどころかナイフごしの触覚まで心が震えるようだわ。そしてこの、バニラと蜂蜜とバターのコンビネーション。深く染み入るような甘味と旨味。ああ、よい……。スイーツは人を幸福にするよ……。
でかいって? トースト半斤だからね。そんなに食うのかって? 食うわよ。スイーツは正義だからいくらでも入るの。少なくとも私はそういう胃をしているわ。
ところで、Q-pot.ってブランド知ってる? あ、深刻な話じゃないから食べながらでいいよ。本物そっくりのスイーツアクセサリーを作るブランドなの。本当にクリームをしぼったみたいなブローチとか、食べられそうなマカロンのペンダントとか。
ググればすぐ出るわね。はい、画像。
Q-pot.のアクセサリは、スイーツの外見を忠実に再現することにより、食べた時の甘さを、そしてその時の幸福を「強制的」に呼び起こすアイテム――ある種の共感覚を利用したデザインなんじゃないかと思うの。
この場合は視覚と味覚の共感覚ね。
共感覚はスペクトラムってさっきも口走ったけれど。そう、共感覚は
クロスモダリティって言葉もあるけど、共感覚との違い、私にはよく解らないな。これは単純に勉強不足だろうから、もし詳しかったら教えてね。
……え? Q-potのアクセを見ても、甘さも幸福感もない?
弱ったな。ごめん、その辺は、専門家に任せよう。私は面白がってもらうのが目的だからね。
そうそう、流しちゃったけど、共感覚は結果に強い感情が伴うらしいわ。なんで伝聞系かって、どれが共感覚由来の感情でどれが関係ない感情か私自身には弁別できないからね。
ああ、なんて素敵な歌声! ……ってときに、声色とメロディーは切り離して考えないでしょう? 同様に私は声色・メロディー・『音の色』を切り離せない。震える心が『音の色』、共感覚のせいだったところで、私には共感覚抜きで考えることなどできない。
できないは言い過ぎね。難しいわ。
可愛い女の子をみた時に仕草抜きで考えろって言われてるようなもんじゃないかしら。どうしても情報が入りこんじゃう。
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