5.錯誤行為 - 色で数を間違える


 ……大学、医療系の学部なんだけどね。

 医療系に進学したことを後悔はしてはいないわ。知的好奇心と遊べたし、生きるのが楽になった。良い出会いもあった。

 でも、講義で数値データを睨むのはかなりしんどかった。ミスも沢山した。

 高校までの数学は好きで得意だったから、乗り切れる気がしていたの。数字に色を感じるのが有利性となって、素早く的確な計算ができた。

 けれど、百や二百の数値の羅列、大量の実験データは色の奔流となって、処理しきれなくなったわ。数字を扱うたびに何かしらのミスが出る。数字に色を感じない人にとってあり得ないミスが出る。


 データ処理だけじゃない。実験そのものもあり得ないミスを連発したわ。

 自分のミスには自分で気付けないから、憶測でしかないのだけれど。

 例えば実験書に「②の試薬を20ml入れる」と書いてある。

 机の上には①の試薬瓶が2本、②の試薬瓶が1本置いてある。

 実験書には2,2,0で強い黄色の情報がある。黄色はすごく眩しくて目立つわ。

 それで私は「黄色の瓶」と思いながら机の上を見る。2本置いてある①の瓶、「2本」という情報に黄色を感じ、私はそれを掴みとって入れてしまう。

 こんなふうに変な事してるんじゃないかって、ね。

 今は実験室だから良いけれど、臨床検査技師になったら患者さんのデータや検体でそんなことやらかすかもしれないのよ。危ないでしょ?

 だから私は臨床検査技師の免許を取らないことにしたわ。医療者になるのを諦めたの。突然フリーライターなんて始めたのは、医療で食うのを諦めたから……。

 辛気臭くなったね。気の利いたジョークでも挟めればいいのだけれど。よたがらすの部屋にある布団吹っ飛ばす? それだとフットバスか。何言ってんだ私。


 ふう。まぁいいや。

 お昼が近付いてきたわね。一緒に食べに行かない? つくばって意外と美味しくて安いお店たくさんあるのよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る