蝉たち、他
憎くはない。こいつが死ぬ時にどんな声を出すのか興味がでたので、台所に包丁を取りに行った。夏の午後だ。蝉がうるさくて、探すのに手間取った。台所でガチャガチャやっていると、何してるんですかと言って、そいつが包丁を持って寄ってきた。こいつも蝉がうるさかったんだな。
物腰が死んだ父に似ている。顔や体型は似ても似つかないけど、動作の端々が父だ。ペットショップで父の面影をみるとは思わなかった。4,980円(税別)の陸亀。割引価格なのがなんか嫌。
18の息子が「俺は人間をやめる」と言い出したので、役所に相談に行った。手続きをすれば今後は犬や猫と同じ扱いになるようだ。ただ、野良になると保健所で捕獲した後、殺処分との事なので、今度、息子とじっくり話し合おうと思う。たぶん失恋かなにかだろう。
「僕のポエムを聞いてください!」立ち上がった谷くんが、訳の分からないポエムを歌っている間に、今の状況を説明しよう。原因は不明だがガスか何かによって人類は芸術に目覚めた。ほとんどは谷くん状態なので問題ないが、たまにいる本物は本当に爆発するので危なくてしかたない。
鈴木君と佐藤君がお菓子を食べる横で、世界経済を俯瞰的に眺めながら嘆息する僕にとって、彼らは犬畜生と変わらない。いや、犬の方がまだマシかもしれないと思っていると、「君も食べるかい」とお菓子をくれる。いつもこのタイミングでお菓子をくれるのが不思議といえば不思議だ。
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