第283話 リョウちゃんって、ほんとに優しくて…ママみたい…
≪美味しい!すっごく美味しいわ!≫
≪そうですか?喜んでもらえて、嬉しいです≫
≪リョウちゃんって、お料理もとても上手なのね!とっても優しいのに、でもしっかりとした味わいで…リョウちゃんのお料理なら、いくらでも食べられちゃうわ!≫
≪お代わりもいっぱいあるんで、よかったら食べてくださいね?≫
≪!ほんと!?ならいっぱい食べちゃう!≫
羽月の提案で、リリィもこの高宮家で夕飯を摂ることとなったこの日。
すでに涼羽を筆頭に羽月、美鈴、沙羅の四人でわいわいと楽しそうに料理をし…
そうして完成した料理を皿に盛り付け、リビングへと運び…
リリィを含む五人で、食卓となるテーブルを囲むように座り、それぞれが箸(リリィはスプーンとフォーク)を取り、嬉しそうに食事を始める。
急遽日本に転勤となったこともあり、ホームシックに近い精神状態になっていたこともあって、一応最低限の自炊はできるはずのリリィだったがそうもいかず、ひたすら外食やコンビニの食品に頼る日々だった。
近年の日本の食品事情もかなり欧米に近いものとなっており、リリィもハンバーガーなどのファーストフードを好んで食べていた為、日本食に触れるきっかけがなかなか得られなかったのだ。
そのモデルのようなスラリとしたスタイルは、自分で意識して作り上げていた為、それを崩してしまうような高カロリーの食事は極力避けていたものの…
母国の食事を懐かしんでしまい、ついついファーストフードの方に偏ってしまっていた。
ところが、涼羽が作ってくれた、自分にとって初めての日本食は…
それを口にして味わった、最初の一口目から…
まるで運命の人に出会えたかのような、とても自分好みの食事だったのだ。
濃すぎず薄すぎずの絶妙の味付けに、それでいてあっさりとした…
文字通りいくらでも食べてしまえそうな、極上の料理。
母国に居た頃でも、こんなにも美味しい料理に出会えたことなどないと、断言できてしまう程。
しかも、日本に来てからはずっと一人での食事だっただけに…
こうして、誰かと一緒に食事ができること自体、根がとても寂しがりやなリリィにとっては本当に幸せで楽しい時間となっている。
そんなリリィが、とても嬉しそうに幸せそうに、そして美味しそうに自分の料理を食べてくれているのがとても嬉しくて…
涼羽の顔にも、優しい笑顔が浮かんでくる。
「美味しい!涼羽ちゃんのお料理、すっごく美味しい!」
「羽月ちゃんずるいよ~!こんなにも美味しいお料理、いつでも食べられるなんて~!」
すでに自宅でも立派な戦力として、柊家の台所で料理に勤しんでいる美鈴も、涼羽の手料理は本当に美味しくてたまらないと、その顔を盛大に緩ませながら食べ続けている。
最近の涼羽は、プロの栄養士ばりにカロリー計算もしながら料理をしていることもあり、美味しいのにそこまでお腹に溜まる感じがなく、とても安心して食べることができている。
そして、この日初めて高宮家の食卓にお邪魔する形となった沙羅も、涼羽の手料理が美味しくてたまらず、幸せそうな笑顔を浮かべながらぱくぱくと食べ続けている。
沙羅は普段、どちらかと言えば小食な方で基本的に腹八分で済ませることが当たり前となっているのだが…
やはり大好きで大好きでたまらない涼羽の手料理、と言う魅力の塊のような一言には抗えない様子。
しかもそれが、普段から食べているものと比べても明らかに美味しいのであれば、猶更箸が進んでしまうと言える。
こんな美味しい料理を、毎日食べることができる羽月が羨ましくて、ついついそんな思いを言葉にしたりしてしまう。
「お兄ちゃん♡今日のお料理もすっごく美味しい♡」
「よかった…お代わりもあるから、いっぱい食べてね」
「うん!」
その羽月も、今日も美味しい涼羽の手料理を食べることができて本当に幸せだと言うことがすぐに分かる、眩いばかりの笑顔を浮かべている。
食卓に座る際の指定席となっている兄の左隣で、兄である涼羽にその笑顔を向けてついつい寄り添ってしまう。
妹である羽月がとても美味しそうに嬉しそうに、自分の手料理を食べてくれるのが嬉しくて、涼羽もとても優しい笑顔を浮かべながら、ゆっくりと食べていく。
ちなみに涼羽の右隣には、この日のゲストの一人であるリリィが座っている。
この中でリリィと言葉が通じるのは涼羽だけ、と言うこともあり…
本当は涼羽の隣に座りたかった美鈴も沙羅も、渋々ながらリリィが涼羽の隣に座ることを受け入れている。
≪ああ~!もうほんとに美味しい!あたしオコメって初めて食べたけど、これすっごく美味しいわ!≫
≪お米、初めてなんですねリリィさん。よかったらお代わり、入れてきますよ?≫
≪!ほんと!?じゃあお願い!美味しくて美味しくてもっと食べたいの!≫
≪ふふ…じゃあ入れてきますね≫
人生で初めての日本食、そしてお米がとても美味しいとリリィは大絶賛している。
他のおかずも、お米が進むものばかりでひたすら食べることを楽しんでいる。
リリィの手にある茶碗から、ご飯がなくなったのを見て、涼羽がリリィにお代わりを入れてくるけど、と問いかけ…
当然ながらリリィはもっと食べたくて、涼羽にお代わりをおねだりしてくる。
そんなリリィが妙に可愛らしく見えて、涼羽はついついその母性をくすぐらされてしまい…
普段から妹の羽月にしているように、リリィの茶碗を持って、キッチンへとご飯をよそいに行く。
「もお…♡涼羽ちゃんってほんとに素敵なお嫁さんみたい♡」
「わたし、涼羽ちゃんがお嫁さんだったらすっごく幸せになれちゃう自信しかないもん♡」
「お兄ちゃん、いつ見ても可愛いお嫁さん♡」
そんな涼羽を見て、羽月、美鈴、沙羅の三人ははわ~と蕩けるような表情を浮かべながら、涼羽が自分のお嫁さんになってくれたら、を想像して悶えてしまう。
三人はもうとっくに涼羽に心奪われていることもあり、涼羽が何しても可愛く見えてしまい、めちゃくちゃに可愛がりたくなってしまう。
≪リョウちゃんって、ほんとに優しくて…ママみたい…あんなに可愛いのに…それも男の子なのにママみたいって、凄いわあ……あたし、もっとリョウちゃんに甘えたくなっちゃう…♡≫
そして、お客様としておもてなしを受けているリリィも、涼羽の母性と甲斐甲斐しさにすっかりメロメロになっており…
もっともっと涼羽に甘えたくてたまらなくなってしまっている。
≪はい、リリィさん≫
四人が涼羽に対してメロメロになってしまっているところに、リリィのご飯のお代わりをよそってきた涼羽がリビングに戻ってくる。
そして、優しく可愛らしい笑顔をリリィに向けながら、ご飯が綺麗に盛り付けられた茶碗をリリィに差し出す。
≪わあ…美味しそう≫
その茶碗をリリィは受け取り、食欲をそそられる盛り付け方を見てますます涼羽のことが好きになってしまう。
涼羽を見て、祖国の実家に住んでいる母のことを思い出してしまい…
受け取った茶碗をテーブルの上に置くと、そのまま涼羽の胸に飛び込むように抱き着いてしまう。
≪!え、え?リ、リリィさん?≫
≪ああ…ぺったんこなのに柔らかくて優しい…リョウちゃん、ほんとにママみたい≫
≪!マ、ママって…僕、男…≫
≪お願い、リョウちゃん…あたし、大好きなママがそばにいなくて、すっごく寂しいの…だから…ママみたいにあたしのこと、ぎゅうってして、なでなでしてくれる?≫
≪…リリィさん…≫
元々お母さんっ子であり、母のことが大好きなリリィ。
今は他国に転勤で暮らしていることもあり、母がそばにいないことが寂しくてたまらなくなっている。
その大好きな母を感じさせる包容力と母性、そして慈愛を持っている涼羽に甘えたくて、年下である涼羽の胸に顔を埋めて、目いっぱい甘えてしまっている。
≪…もう…仕方ないですね…≫
そんなリリィが幼子のように可愛く見えてしまい…
涼羽はふんわりとした優しい笑顔を浮かべて、リリィのことを優しく抱きしめ、その明るい金色の髪を梳くように優しく撫で始める。
≪ふああ……ほんとにママにぎゅうってされてるみたい…あったかくて、優しくて、心地よくて…幸せぇ……≫
≪ふふ…リリィさんもう大人なのに、こんなに甘えん坊さんなんて…≫
≪だってえ…ママ大好きなんだもん…≫
≪僕リリィさんのママじゃないですよ?≫
≪違うのお…リョウちゃんはあたしの日本のママなのお…もっと、もっとあたしのことぎゅってしてぇ…なでなでしてぇ…≫
≪ふふ…リリィさん可愛い…≫
普段のスラリとして大人びた容姿が嘘のように幼児退行してしまっているリリィ。
よほど涼羽に甘えるのが心地よくて幸せなのか、涼羽のことをぎゅうっと抱きしめて離そうとしない。
涼羽はそんなリリィに苦笑しつつも、甘えてくれるのが嬉しいのか…
リリィのことを優しく抱きしめ、その頭を優しく撫でてとにかく可愛がっている。
涼羽が甘えさせてくれると、異国に独りぼっちと言う寂しさが癒されていく。
ここにはいないはずの母と触れ合えているかのような感覚を覚えて、とても心地よく、幸せな気持ちになっていく。
リリィはもう、涼羽がそばにいてくれないと何もできなくなってしまいそうな…
そんな感覚さえ、覚えてしまう。
≪リョウちゃあん…リョウちゃあん…≫
≪どうしたんですか?リリィさん?≫
≪もうあたし…リョウちゃんがそばにいてくれないと嫌あ…リョウちゃんが甘えさせてくれないと、寂しくて死んじゃう…≫
≪もお…何言ってるんですか全く…だめですよ?そんなこと言っちゃ≫
≪嫌なのお…リョウちゃんがそばにいてくれないと嫌なのお…リョウちゃんがいない生活なんて、もう考えられないのお…≫
かなりの寂しがりやで、かなりのお母さんっ子であるリリィにとって、涼羽の甘やかしは…
異国に一人でいる寂しさを埋め、とても幸せにしてくれる…
もう何があっても手放せないものとなってしまっている。
この五人の中で一番大人であるはずなのに、今は一番幼い子供になってしまっている。
母国にいる母を思い出し、その母と触れ合えているような…
そんな触れ合いをしてくれる涼羽とは、もう片時も離れたくなくなっており…
今日、この幸せ過ぎる食事を終えて、この家から出て自宅となっているマンションに帰るのがとても恐ろしくなってしまう。
涼羽がいないと考えるだけで、極寒の地に一人置き去りにされたかのような、恐ろしい孤独感を感じてしまう。
もう二度と、この温かく心地いい触れ合いができなくなってしまうような、そんな絶望感を覚えてしまう。
この幸せを手放したくなくて、リリィは涼羽の華奢な身体を抱きしめて一向に離そうとせず…
その顔を涼羽の胸に埋めて、ひたすら甘えている。
そんなリリィを見て、涼羽はリリィが相当な寂しがりやで、ホームシックのような状態になっていると思い…
困ったような顔をしながらも、リリィの望むままにリリィを抱きしめている。
「お、お兄ちゃん…リリィさん、どうしたの?」
「あ、羽月…なんか、実家のお母さんを思い出しちゃったみたいで…」
傍から見れば異様なリリィの様子に、羽月が涼羽に問いかけてくる。
その問いかけに涼羽が、簡潔にホームシックになっていることを回答として返す。
そんな兄の言葉を聞いて、羽月は思ってしまう。
もし、お兄ちゃんにずっと会えなくなっちゃったら。
もし、お兄ちゃんがわたしの前からずっといなくなっちゃったら。
そう思っただけで、羽月は背筋が凍るような感覚を覚えてしまう。
そして、リリィは今まさにそんな思いを感じているのだと、察してしまう。
「リリィさん!わたしも、リリィさんが寂しくならないようにぎゅうってしてあげる!」
そして、羽月も涼羽に寄り添いながらリリィのことをぎゅうっと抱きしめ…
リリィが少しでも寂しくならないようにと、目いっぱいの親愛を持って触れる。
「リリィさん!私も!」
「リリィさん!わたしも!」
そして、それを見ていた美鈴と沙羅も…
リリィが少しでも寂しくならないようにと、リリィを包み込むように抱きしめてその寂しさを癒そうとする。
≪ハヅキちゃん…ミスズちゃん…サラちゃん…嬉しい…≫
とても温かくて心地のいい触れ合い。
この異国で、こんなにも寂しくてたまらない自分を、孤独から救ってくれる人がいることに…
リリィは言いようのない喜びと幸せを感じている。
≪ふふ…リリィさんが寂しくならないように、もうちょっとぎゅうってしてあげますね≫
≪!リョウちゃん…嬉しい…大好き…♡≫
そして、もはや自分にとって日本での母となっている涼羽が、とても優しい笑顔で包み込んでくれているのが幸せで嬉しくてたまらず…
リリィはますます、この高宮家から出たくないと思うようになってしまうので、あった。
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