第282話 えへへ…お料理楽しい!
「涼羽ちゃん!お野菜洗うの終わったよ!」
「うん……綺麗に洗ってくれてありがとう、沙羅ちゃん」
「(涼羽ちゃんが褒めてくれた!嬉しい!)えへへ…お料理楽しい!」
「お兄ちゃん!お米洗うの、これくらいでいい?」
「どれ……うん、これでいいよ。後は水を張り替えて、炊飯器にセットしてね」
「わかった!」
「ありがとう、羽月」
「!えへへ……お兄ちゃん♡……」
「涼羽ちゃん!ネギ切り終わったよ!」
「うん……美鈴ちゃん、すっかり上手に切れるようになったね、ありがとう」
「!えへへ……涼羽ちゃんだあい好き!」
涼羽、羽月、美鈴、沙羅の四人に、飛び入りで加わったリリィも加えてのカラオケが終わり…
一向は揃って、涼羽と羽月の家である高宮家に来ている。
仕事の為とは言え、言葉も通じない異国でたった一人で生活しているリリィが、このまま解散してまた一人になるのがすごく可哀そうに思えた羽月が、リリィを自分の家に呼んで、一緒にご飯を食べたいと言い出した。
今までなら、何があっても兄と二人きりになれるこの自宅に、他の誰かを…
それも、女子を呼ぶなど一切してこなかった羽月が、まさか自分からリリィに来てほしい、などと言い出したことには、実の兄であり、これまでの羽月のことをよく知っている涼羽は驚きを隠せなかった。
だが、驚いたのも少しの間であり、すぐに羽月が人に優しくなってくれたことを喜び、その優し気な笑顔を向けながら、妹である羽月を優しく抱きしめながら頭を撫でて、よくできましたと言った感じで、羽月のことを褒めていた。
もちろん、兄のことが大好きで大好きでたまらない羽月は、兄の胸の中に優しく包み込まれて褒められて、とても嬉しくて天真爛漫な笑顔を浮かべていたのは、言うまでもない。
「えへへ……涼羽ちゃんと一緒にお料理……楽しくて、嬉しくて……♡」
この日は涼羽もこれといった予定があったわけではなく、平日なら並の社員では間違いなく溺れてしまう程の作業量となる請負仕事も特になく…
いつもと違い、早朝からの仕込みもしていなかった為、カラオケから帰ってきて、そこから夕飯を作り始めることとなったのだ。
以前から涼羽のお料理教室でしっかりと料理を学び、今となっては自宅でも毎日母親である美里と一緒に料理をする程上達した美鈴。
ここ最近から、普段から非常に多忙な涼羽を少しでも助けたくて、涼羽と一緒に料理をするようになった羽月。
この二人は、当然のように涼羽を手伝うと言い出し、普段は涼羽の城となっている、高宮家のキッチンに意気揚々と入ってきた。
そこに、どうせなら涼羽のお手伝いをしながら、自分も料理を学びたいと思った沙羅までもが加わって…
今、高宮家のキッチンは傍から見れば、それぞれタイプの違う見目麗しい美少女達が、揃って和気あいあいとしながら料理に勤しむ光景となっている。
沙羅は以前から涼羽に料理を教わりたくてずっと涼羽にお願いしていたものの…
普段から非常に多忙な涼羽自身、なかなかその為の時間が作れなかったのと、兄のことを独り占めしたくてたまらないブラコン妹である羽月が、とにかくそれを許してくれなかったこともあり、ずっと実現されることはなかったのだ。
だが、この日ようやくそれが実現された為、沙羅はとても楽しくて嬉しくてたまらず…
その美少女顔に満面の笑顔を浮かべて、一つ一つを涼羽に教わりながら、涼羽にお願いされたことに取り組んでいっている。
「お兄ちゃんとお料理、楽しい!」
「涼羽ちゃんとお料理、やっぱり楽しい!」
そして、羽月も美鈴も涼羽と一緒に料理できることがとても楽しくてたまらず…
キッチンの中では、とても幸せそうな笑顔が浮かび、とても幸せそうな雰囲気に包まれている。
≪ああ……リョウちゃんもハヅキちゃんもミスズちゃんもサラちゃんも……めっちゃくちゃ可愛いわあ……あたし、みんなと友達になれてほんとに嬉しい……≫
そんな四人を、この日のゲストとしてお呼ばれされたリリィがキッチンの入り口で、まるでその人並み以上に整った美人な顔が蕩けてしまいそうな程の、幸せそうな笑顔を浮かべながら見守っている。
掃除や洗濯は普通に自分でできるのに、なぜか料理だけは大の苦手と言うリリィ。
この日は羽月がお招きしたお客様と言うこともあり、涼羽からリビングの方でくつろいで待ってて、と言われ、最初はリビングの方で待っていたのだが…
きゃっきゃうふふととても楽しそうな声が聞こえるキッチンが気になって来てしまい、そこからはずっと、四人で可愛らしく楽しそうに幸せそうに料理に勤しむ涼羽達を眺めている。
こんな可愛い子達が自分の友達になってくれて、とても幸せ。
見ているだけで、言葉も通じない異国に急に来たことでややふさぎ込んでいた心がとても癒されるその光景。
それを、リリィはもっと見たくて、結局料理ができるまでずっとキッチンの入り口から涼羽達のことを見ていたので、あった。
――――
「…うん、味も丁度いいね」
「お兄ちゃんのお料理、もう何食べても美味しいもん!」
「私も今は普通にお料理するようになったから、もっと涼羽ちゃんのお料理がほんとに美味しいって分かるようになったもん!」
「美味しい!涼羽ちゃんほんとにお料理上手で凄い!憧れちゃう!」
この日は四人で取り掛かったこともあり、割とすぐに夕飯の準備を終えることができた涼羽。
最後にできた料理を味見して、味付けもばっちりだと頬を緩める。
同じように味見した羽月、美鈴、沙羅からは絶賛の言葉が飛び出し…
その言葉に涼羽は思わず顔を赤らめてしまう。
「はは…ありがとう。じゃあみんなでお皿に盛りつけて、リビングに運ぼうね」
「うん!」
「は~い!」
「はい!」
そして、涼羽の言葉でみんなができた料理を皿に盛りつけていく。
涼羽は茶碗にご飯をよそっていき、全員の食器も用意していく。
箸を使う文化がない国の住人であるリリィには、スプーンとフォークを用意している。
この日の献立は、
・白ご飯
・豆腐とわかめの味噌汁
・自家製ポテトサラダ(きゅうり、ハム込み)
・豚生姜焼き
・だし巻き卵
・グラタン
となっている。
人数が多いので、量をかなり多く作っている。
余れば翌日にでも食べられるので、それならそれで大丈夫と涼羽は思っている。
ちなみに父、翔羽はこの日も仕事が忙しく…
取引先に気に入られていることもあり、専務である幸介を交えた会食込みの接待で遅くまで帰ることができないと、すでに涼羽の方にも連絡している。
最愛の息子である涼羽…
最愛の娘である羽月…
誰よりも愛していると断言できる家族がいる自宅が、翔羽にとっては最も寛げる場所であるにも関わらず、ここ最近はあまりにも仕事が忙しいのと…
その類まれなる実力で取引先からも絶大な信頼を得ており、それゆえに他社から交流を深めようと、接待の場を設けられることも非常に多くなっている。
さすがに取引先との顔合わせの場を、自分の家族優先で断るわけにもいかず…
翔羽は泣く泣く、最愛の子供達と触れ合う時間を削って、取引先との顔つなぎの場などに積極的に参加するようになっている。
「(お父さん…今日も忙しいから…帰ってきたら、気楽に寛げるようにしないと…ただ、最近俺の事ちっちゃい子供みたいにべったり可愛がってくるのがすっごく多くなってるけど、なんでかな?…)」
そんな状況もあって、翔羽は家にいる時は以前よりも涼羽と羽月のことを可愛がるようになっている。
甘えるのと可愛がられるのが好きな羽月は、そんな父の愛情を素直に喜んでいるのだが…
その容姿に不相応な程に長男気質で、甘えることも愛されることも苦手な涼羽は、翔羽にべったりとされて可愛がられるとついつい、恥ずかしくなってツンツンとした態度をとってしまう。
だが、そんな態度をとるとすぐに翔羽が、まるでこの世の終わりとでも言わんばかりの悲し気な表情を浮かべてしまう為…
結局無闇に邪険にできず、恥ずかしいと言う気持ちを堪えながら翔羽の好きなようにさせてしまっている。
「(もう俺、高校三年生なのに…あんな小さい子にするみたいに可愛がられるのって、すっごく恥ずかしいから…やめてって言ってるのに…お父さん…全然やめてくれないよね…ほんとになんでなんだろ?)」
なんてことを考えてしまう涼羽なのだが…
父、翔羽からすれば、亡くなった今でも最愛の妻だと断言できる程に愛している水月の生まれ変わりだと言ってもいい程瓜二つな容姿…
しかも、とても健気で家族思いで優しくて、それでいて恥ずかしがりやと言う…
どこからどう見ても可愛がる要素しかない息子であることに、相変わらず全く自覚がない。
しかも、かつての理不尽な転勤によって引き離され…
翔羽は子供達と共にいられた時間の方が遥かに少ない。
そのうえ、その子供達が天使のように可愛らしく、愛すべき存在であるならなおさら、その空白の時間を埋めるべく、父親としての愛情をこれでもかと言う程に注ぎたくなってしまう。
だからこそ、全てを取り戻す勢いで翔羽は、涼羽と羽月の二人をめちゃくちゃに可愛がってしまうのだ。
「お兄ちゃん!全部お皿に盛りつけて、リビングに運んだよ!」
そんな父、翔羽についてなんやかんや考えながら、それでも手はしっかりと出来立てのご飯をよそっていた涼羽に、羽月が声をかける。
気が付けば、完成した料理は全て、リビングの方へと運ばれている。
「ありがとう、羽月」
「えへへ…お兄ちゃん!これも持ってくね!」
「うん、ありがとう」
美鈴、沙羅、リリィはもうリビングで、涼羽が来るのを今か今かと待っている。
もうすでに美味しそうな匂いが、彼女達の食欲をそそり続けている。
涼羽がご飯をよそい終えた茶碗を、羽月が嬉しそうに運んでいく。
そんな妹の姿に、とても優しい笑顔を浮かべながら、涼羽はエプロンを取り去って、ポニーテールにしていた髪もほどくと…
みんなが待っているリビングへと、ゆっくりと歩いて行くのであった。
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