第281話 リリィさんって、このままお家に帰ったら一人になっちゃう…よね?

≪あ~!!すっごく楽しかったわ~!!≫


楽しかったカラオケの時間も終わり…

涼羽、羽月、美鈴、沙羅、そしてリリィの五人は、会計を済ませてカラオケボックスの外へと出ている。


結局、リリィは涼羽達がいるルームに飛び入りで参加することとなり…

五人で目いっぱい、わいわいと歌いながら楽しむこととなった。


日本語が分からないと言うストレスを、涼羽が全て解消してくれるおかげで、リリィは日本に来てから思う存分、人とのおしゃべりを楽しむこともできたのだ。

そのおかげで、リリィの表情はまるで憑き物が落ちたかのような、真夏の燦燦と輝く太陽のように眩い笑顔となっている。


「リリィさん、すっごく歌上手だった!!」

「涼羽ちゃんも凄かったけど、リリィさんも凄かった!!」

「涼羽ちゃんとリリィさんが一緒に歌ってた時なんか、わたし感動して泣きそうになっちゃったもん!!」


元々カラオケ含みで、歌を歌うのを趣味としていたリリィ。

その歌唱力は折り紙付きで、しかもそのスリムな身体からは想像もつかない程の声量の持ち主であり…

歌う歌が全て英語であった為、詩の内容はまるで分からなかったけど、本場のアーティストみたいに歌が上手いと言うことは、羽月も美鈴も沙羅もすぐに分かってしまった。


しかも、リリィのリクエストで涼羽とのデュエットをした時などは、二人の飛びぬけた声量と歌唱力に三人共感動してしまった程。


三人はその感動を、思うが儘に言葉にして、リリィに伝えようとする。

そしてそれを、五人の中で唯一日本語と英語の両方を話せる涼羽が、リリィに通訳して伝える。


≪ありがとう!!ハヅキちゃん!!ミスズちゃん!!サラちゃん!!≫


三人のそんな言葉が嬉しくて、リリィは羽月達を包み込むようにぎゅうっと抱きしめる。

リリィが抱きしめてくれるのが嬉しくて、羽月達もにこにことした笑顔が浮かんでいる。


≪リョウちゃん!ほんとにごめんね!まさか財布にお金入ってなかったなんて…≫

≪いいえ、大丈夫ですよ≫

≪まさか学生の子にお金出してもらうなんて…ほんと恥ずかしいわ。リョウちゃん、お金おろしたらすぐ返すから…≫

≪いいですよ、このくらいなら。僕が出します≫

≪!そ、そんな!今日初めて会ったばかりなのに、悪いわよ!≫

≪リリィさん、まだ日本に慣れてなくていろいろ大変だと思うから…このくらいはさせてください≫

≪!リョウちゃん……ありがとう!あたしこんなにも優しくしてもらえて、ほんとに嬉しい!≫


財布そのものは持参していたのだが、まさかその中にお金がなかったことに…

会計の際にそれに気づいたリリィは愕然としてしまった。

そんなリリィの様子に、手持ちのお金がないのかな、と察した涼羽が…

どうせ羽月、美鈴、沙羅の分まで出すので、それならばとリリィの分まで全て支払うことにしたのだ。


いきなり、英語しか話せないリリィが飛び入りで自分達のルームに来たことには驚かされたのだが…

話していくうちに、独りぼっちで異国にいるリリィのことがとても気にかかり、もっと優しく接してあげたいと思った涼羽。

そのことを伝えた羽月達は、リリィが本当に凄い美人だと知って可愛らしいリスペクトまでしてくれた。


そして、最終的には五人揃ってとても楽しく過ごすことができたのだ。


いつの間にか、言葉が通じないにも関わらず羽月達はリリィととても仲良くなっているし…

リリィも、羽月達のことをとても気に入って、とても可愛がってくれていたこともあり…

涼羽としては、そのお礼も込めてここの代金は持とうと思ったのだ。


現役の高校生であるとは言え、秋月保育園でのアルバイトも、もはや涼羽がいないこれからなど考えられないと、園長である祥吾を筆頭に職員全員が常にそう思っており…

非常勤の学生アルバイトであるにも関わらず、正規の職員並の給料をもらうこととなっている。


かつて『SUZUHA』として花嫁モデルとなった時の、いち学生には法外と言える程の報酬もそのまま残っているにも関わらず…

幸介や誠一から来る、会社の業務応援及びツールやシステム構築の依頼も数多くこなしており、もはややっていることはフリーのエンジニアと言っても過言ではない程。


その為、一介の高校生であるにも関わらずその収入は、月に七桁を超えるものとなってしまっている。


にも関わらず、自分で使うことが本当に少ない為、そのお金は溜まる一方。

なので、こうして誰かの為に使うことの方が圧倒的に多いのだ。


その為、こうして数時間のカラオケ五人分の料金など、今の涼羽としては数少ないお金の使いどころのようなものなので、むしろ出させてほしい、まである程なのだ。

それがリリィのような、異国でたった一人で暮らす人ならなおさら、支援してあげたいと思っているのだから。


そんな涼羽の気持ちと言葉が嬉しくてたまらず、リリィは涼羽のことをぎゅうっと抱きしめてしまう。

そして、これでもかと言う程に頭を撫でたり、頬ずりしたりして、とにかく涼羽のことを可愛がってしまっている。


「お兄ちゃん!わたしの分も出してくれてありがとう!」

「涼羽ちゃん!私の分も出してくれてありがとう!」

「涼羽ちゃん!わたしの分も出してくれてありがとう!」


そんなリリィに倣うように、羽月達も自分の料金を全て出してくれたことが嬉しくて…

涼羽に心からのお礼を言いながら、べったりと涼羽に抱き着いてくる。


「わ!……み、みんなでいっぱい楽しめたから、よかった……」

「お兄ちゃん、だあい好き!」

「涼羽ちゃん、だあい好き!」

「涼羽ちゃん、だあい好き!」

≪リョウちゃん!もうリョウちゃんほんっとに大好き!≫


みんなが喜んでくれて、楽しんでくれたことをふんわりとした笑顔で喜ぶ涼羽を見て、羽月達はますます涼羽をぎゅうっと抱きしめてしまう。

当然、リリィも同じように涼羽を抱きしめて離さない。


当然、みんなからべったりと抱き着かれて涼羽は、ついついその童顔でとびっきりの美少女顔を赤らめてしまうものの…

そんなことくらいでこの四人が自分を離してくれるはずなどない、と言うことも分かってしまっており、じっとその恥ずかしさに耐えながらも、好きなようにさせている。


とても見栄えのいい美少女、そして美人がとても幸せそうな笑顔で仲良く寄り添っている光景に、そこを通りかかる人はその視線を奪われ…

男はついつい鼻の下を伸ばしてしまい、女はとても可愛らしい光景にふにゃりとその顔を崩すような笑顔を浮かべてしまう。


≪ああ~…日本に来て、こんないい子達と友達になれるなんて…急な転勤が来て、それを恨んだりしちゃってたけど…でも今はよかったって思えちゃうわあ~…≫


小学生かと思える程に幼さが色濃いものの、極上の美少女と言える顔立ちに、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいるスタイル。

天真爛漫で無邪気な笑顔がとても素敵な美少女、羽月。


まだ『少女』と言った方がしっくりと来るものの、人の目を惹く美少女であることには変わりなく、日頃努力を重ねて維持しているそのスタイルのよさは『女性』として素晴らしいと言えるもの。

人当たりのいい笑顔がとても素敵な美少女、美鈴。


深窓の令嬢、と言った雰囲気であるが、実際には結構アグレッシブで喜怒哀楽もはっきりとしている。

同い年の美鈴と比べるとややメリハリにかけてしまうものの、それでも女性としての起伏ははっきりとしているスタイル。

大人しそうで活発な、そんなギャップを帯びた笑顔が素敵な美少女、沙羅。


そして、顔の右半分が前髪に隠れているにも関わらず、非常に目立つ童顔な美少女顔。

しかも、綺麗にくびれたウエストラインに丸みを帯びたヒップラインと、本物の女子でも羨むようなスリムなスタイル。

腰の位置も高く、日本人離れした脚の長さもそのスタイルのよさを際立てている。

母性的でとても人に優しく、おっとりとした優しい笑顔が素敵な美少年、涼羽。


こんな素敵な四人と知り合い、友達にまでなれたことがリリィはとても嬉しくてたまらず…

最初はこんな辞令をとても恨んだものの、今となってはむしろ日本への転勤を喜んでしまっている。


「ねえ、お兄ちゃん」

「?なあに?羽月?」

「リリィさんって、このままお家に帰ったら一人になっちゃう…よね?」

「…うん、そうだね」

「…だったら、うちでご飯、食べて行ってもらおうよ!」


唐突な羽月の提案に、涼羽は驚いた表情を浮かべてしまう。

だが、それも一瞬のこと。


実は自分でも、リリィに日本の美味しいご飯を食べてもらおうと、自宅にお招きしようと思っていたところに、まさか羽月が先にそんなことを言い出してくれて、涼羽はふんわりとした優しい笑顔を浮かべる。


「俺もそうしようって思ってたから、羽月がそういってくれて、嬉しいな」

「!よかった!えへへ…」

「でも、羽月が自分から誰かを家に呼ぼうなんて、珍しいね?」

「だって…リリィさんこんなに人懐っこいのに…お家帰ったら一人なんて、寂しそうで…」

「…そっか…羽月は優しいね」

「ん~ん…お兄ちゃんの方がもっともっと優しいもん」


羽月も、せっかくの休みの日に最愛の兄である涼羽がいないと、まるで心にぽっかりと穴が空いたかのような寂しさを感じてしまう。

そしてそれは、涼羽と触れ合うことでしか埋められない。


自分にはまだ、涼羽と言う最愛の兄がいてくれて…

寂しくなったら、涼羽がいる時はいつでも寄り添ってくれるから大丈夫。


でも、リリィには、まだ来たばかりの日本にそんな存在がいるはずもなく…

言葉も通じない日本で、たった一人で過ごすことになってしまう。


それを思うと、羽月はとてもリリィが可哀そうに思えてきて…

どうしても、リリィを一人で寂しい思いをさせたくない…

そんな思いが、心から溢れてくるかのように強く出て来てしまっているのだ。


≪リリィさん≫

≪?なあに?リョウちゃん?≫

≪もしよかったら、なんですけど…≫

≪?≫

≪夕飯、僕の家で食べていきます?≫

≪!い、いいの!?≫

≪はい。僕も、妹の羽月もリリィさんが一人で寂しい思いをするのが嫌なので…≫

≪嬉しい!あたしすっごく嬉しい!こんなに優しくしてもらって!あたし、リョウちゃんとハヅキちゃんのお家、行きたいわ!≫


涼羽と羽月の提案に、リリィは驚いてしまうものの…

すぐにその美人顔に子供っぽい無邪気な笑顔が浮かんでくる。


涼羽と羽月の優しさがとても嬉しくてたまらず、リリィはぜひ涼羽の家にお邪魔したいと言い放つ。


「お兄ちゃん、リリィさん、なんて?」

「『来たい!』って言ってくれてるよ」

「!えへへ…リリィさんすっごく嬉しそう…」

「よかったね、羽月」

「うん!」


リリィがとても喜んでくれているのを見て、涼羽も羽月もとても嬉しそうな笑顔を浮かべて、二人で喜ぶ。


「涼羽ちゃん!もしかしてリリィさん、涼羽ちゃんのお家に来るの!?」

「うん、そうだよ」

「じゃ、じゃあ私も行きたい!」

「わたしも!」

「え?でも二人、今からいきなりで大丈夫?」

「大丈夫!私は涼羽ちゃんのお家に行くって言ったら絶対許してくれるもん!」

「そっか…沙羅ちゃんは?」

「わたしも今、家に連絡したけど大丈夫って!」

「そっか、ならいいよ」

「わ~い!」

「やった~!涼羽ちゃんのお家~!」


リリィが涼羽の家に来ることを、涼羽と羽月の会話とリリィの雰囲気で察した美鈴と沙羅も、涼羽の家に行きたいと便乗してくる。


美鈴は割と頻繁に涼羽の家に行っていることもあり、すぐに両親の承諾は取れると豪語しており、沙羅はたった今、自宅に連絡したら承諾が返ってきた、とのこと。

沙羅の家では沙羅が日頃から涼羽のことをこれでもか、と言う程に家族に話していることもあり、実際に会ったことがないにも関わらず、涼羽がとてもできた子だと言う認識になっている。

その為、涼羽の名前を出したら一発OKが出たのだ。


リリィ、美鈴、沙羅の三人が子供のように喜んでくれているのを見て、涼羽は美味しいものをいっぱい作って、いっぱい食べてもらおうと、優しい笑顔を浮かべるのであった。

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