第207話 涼羽ちゃん♪そんな無駄な抵抗なんかしても、もう意味ないよ?

「えへへ~、ほんとに可愛い♪『SUZUHA』ちゃん♪」


「だ、だから違うって……」


「私、ず~っと涼羽ちゃんと『SUZUHA』ちゃんって似てるな~って思ってたんだもん♪あの写真とポスターの笑顔なんか、瓜二つだったし」


「そ、そんなことない…」




柊家の中の一室である、美鈴の部屋。


広々とした、綺麗な部屋の中にある、まるで高級ホテルのように整然とされているベッドの上に、涼羽は押し倒される形となり、美鈴はその涼羽を押し倒して、上から覆いかぶさり、じっと覗き込むかのように涼羽のことを見つめている。




可愛らしさに満ち溢れた、涼羽の童顔な美少女顔が、それを隠すかのような前髪を大きく開かれて、その全てがさらけ出されているこの状態。


ようやく、左半分だけを出している状態に慣れてきたというところなのに、その全てを晒されて、しかも鼻と鼻がぶつかるかのような至近距離でじっと見つめられていることに、まるで自分が溶けてなくなってしまいそうなほどの恥ずかしさを感じてしまっている。




しかも、涼羽にとってはあの撮影の関係者以外には絶対に秘密にしておかなければならない事実にまで、今目の前で自分を押し倒して幸せそうな笑顔を浮かべている美鈴に辿り着かれていることが、余計に涼羽の思考を混乱の渦に落としてしまう。




美鈴が確信を持って、自分のことを『SUZUHA』と呼んでくる度に、もはやごまかしにすらなっていない、儚い抵抗の言葉を声にして響かせる涼羽なのだが…


涼羽があの、美鈴自身ですら本当に理想の花嫁としてその姿をこの世に見せつけている謎の美少女モデル、『SUZUHA』であることを、美鈴は心の底から喜んでいる。




本当は少し、男子である涼羽が、どんな女子や女性が見たとしても、満場一致で女性の理想だと言い切れるほどの花嫁姿になれていることに、言いようのないもやっとした複雑な心境を抱いてはいるのだが。


しかしそれでも、そんな理想的な花嫁が、今こうして自分の下で恥ずかしそうにふいと顔をそらして、もはやこちらは確信を持っているにも関わらず、未だに無駄な抵抗を続けているその姿があまりにも可愛すぎて、美鈴は思わず涼羽のことをめちゃくちゃにしてしまいたくなってしまっている。




「涼羽ちゃん♪そんな無駄な抵抗なんかしても、もう意味ないよ?」


「ち…違うもん…」


「男の子なのに、世の中の女の子達の誰よりも素敵なお嫁さんになれちゃう『SUZUHA』ちゃん?」


「!お…俺…そんなんじゃ…ないもん……ち…違うもん…」


「もお♪ほんとに無駄な抵抗ばっかりしちゃって♪可愛すぎ♪」


「!ん、んうっ!」




あまりにも無駄な抵抗を繰り返し続ける涼羽のことが可愛すぎて、涼羽のことが愛おしすぎて、大好きすぎてたまらないその思いを抑えられなくなってしまったのか、美鈴はそんな涼羽の最後の抵抗すら封じてしまわんがごとくに、涼羽の柔らかで艶のいい唇を、自分の唇で塞いでしまう。




涼羽の唇を奪って、さらにはその口腔内にまで入り込んでこようとする美鈴。


そんな美鈴の舌が、涼羽の口の中をなぞるように這い回ってくる。


その感覚に、言いようのないぞくりとしたものを感じてしまい、思わずと言った感じでびくりとしてしまう涼羽。




どこからどう見ても、とびっきりの美少女達が禁断の愛に走っているようにしか見えないその光景。


心底幸せそうな表情を浮かべながら、美鈴は涼羽の舌に自分の舌で触れて、さらにはいとおしげに絡みつこうとまでしてしまう。


もちろん、美鈴は誰かとこんなことをすることなど、生まれて初めてであり、ただただ、自分のしたいようにしているだけなのだが。


大好きで大好きで、この世で一番愛してると言っても過言ではない存在である涼羽と、こんな風に触れ合うことができて、その表情は、ますます天にも昇るかのような幸福感でいっぱいになってくる。




そんな美鈴に唇ばかりか、その中まで奪われてしまっている涼羽は、抵抗らしい抵抗をしようにも、美鈴が与えてくる言いようのない感覚にすっかり身体の自由を奪われてしまい、もはやなすがままとなってしまっている。


この、身体の中まで味わわれているかのような感覚に、どうしようもないほどの恥ずかしさを感じてしまっており、しかし抵抗らしい抵抗もできず、早く終わって欲しいと願う以外に、今の涼羽にはなかった。




「ん…」


「んっ!……んうっ!……」




早く終わって欲しいと願う涼羽に対し、ずっとこのままでいたいと思う美鈴。


その美鈴が主導権を握っているのだから、美鈴の気の済むまで、この行為は続けられることとなってしまう。


涼羽が『SUZUHA』であることが分かってから、ますます涼羽のことが愛おしくて愛おしくてたまらなくなってしまっている美鈴。


まさにダムが決壊して、溢れかえらんばかりの美鈴の涼羽に対する愛情が、この甘美で心地の良い行為を美鈴にやめさせてくれない。




この可愛いの化身のような男の子を、絶対に誰にも渡したくない。


この誰が見ても理想のお嫁さんになれる男の子を、絶対に誰にもとられたくない。




その愛情と同じように溢れかえってくる、激しい独占欲。


その独占欲が満たされるこの感覚を、いつまでも味わっていたいとさえ、思ってしまう美鈴。




「(えへへ…涼羽ちゃんとちゅーするの、ほわほわして、あったかくて、気持ちよくて…幸せ~♪)」




本当に心の中が、隅から隅まで満たされていくようなその感覚に、美鈴はもっと、もっとと言わんばかりに涼羽の唇、そしてその中を貪るように味わい続けてしまう。


涼羽が家族以外でこんなことをしたのなんて、美鈴が初めてだと言ったその時、美鈴は涼羽のその初めてをもらうことができて本当に嬉しくて嬉しくてたまらなかった。




大好き。


愛してる。




そんな想いが、とめどなく美鈴の心の中から溢れてくる。




この可愛すぎる男の子を、もっと愛してあげたい。


この可愛すぎる男の子を、もっと恥ずかしがらせてあげたい。


この可愛すぎる男の子を、ずっとこうして自分だけのものにしてしまいたい。




自分が、その唇の奥まで味わうように触れるたびに、その小柄で華奢な身体をびくりと震わせて、抵抗らしい抵抗すらできずにただただ、恥ずかしさに身悶えている涼羽を見て、感じているとますますそんな想いが美鈴の心の中で際限なく膨れ上がっていく。




そんな、美鈴にとってはこの世に生まれてきて最も幸せだと言える時間もようやくと言った感じで終わりを迎えることとなり、渋々名残惜しく、と言った感じで、涼羽の唇から自らの唇を離していく。




「ん…はあ…」


「んっ…はあ…はあ…」




お互いの唇から、美鈴の名残惜しさをそのまま形にしたかのようなブリッジが伸び、お互いの唇をつないでいる。


まるで蹂躙するかのように唇を美鈴に奪われていた涼羽の方は、桃色に染まった顔がとろんとした表情を浮かべており、身動き一つ取れないと言わんばかりにくたっと、仰向けのままその身体をベッドに預けている。


そんな涼羽を見て、美鈴はすでに幸せ絶頂の笑顔を、ますます幸福感に満ち溢れたものとし、嬉しくて嬉しくてたまらない、そんな想いが膨れ上がっていくのを自覚しながら、上からじっと涼羽のことを見つめ続けている。




「えへへ…涼羽ちゃんすっごく可愛くて、おいしかった~♪」


「!そ…そん…な…こと…い…言わ…ない…で…」


「涼羽ちゃんと、ひとつになれたみたいで、私すっごく幸せだったよ?」


「!!は…恥ず…かしい…」


「涼羽ちゃんは、こんなにも愛されちゃう可愛すぎるお嫁さんなんだから、私がぜ~~ったいにもらってあげないと、だめなんだもん♪」


「!!!ち…違…う…よお…」


「だあめ♪涼羽ちゃんは、私のお嫁さんになるの♪もうこれ、決定事項なんだからね?」




美鈴の愛情爆発の口付けに、完全に身体の機能を奪われてしまっている涼羽。


身動きらしい身動きがまるでできず、しかしその恥ずかしさにその頬を真っ赤に染めている。




そんな涼羽を、まるで初めて生まれたわが子にべたべたと擦り寄るかのように抱きしめ、すりすりと頬を寄せて可愛がる美鈴。


あんなにも理想的なお嫁さんになれる涼羽であるがゆえに、いつ誰に涼羽をとられてもおかしくないという危機感が、美鈴の中で芽生えてしまっている。


美鈴の一言一言に、まるでいやいやをするかのような、それでいて儚い抵抗の言葉を声にする涼羽がまた可愛すぎて、美鈴はこんなやりとりも楽しくて嬉しくてたまらなくなってしまっている。




「えへへ、私涼羽ちゃんだけじゃなくて、『SUZUHA』ちゃんにもこんなことできてるんだ~♪嬉しい♪」


「!だ…だか…ら…ち…違う…って…」


「もお~、まだそんなこと言ってるの~?だったら、あのブライダルキャンペーンやってる会社に涼羽ちゃん連れてって、直接聞いてみようかな~?」


「!そ…それは…」


「もう私、確信持っちゃってるんだから。だから今更無駄な抵抗はなしにしよ?ね?涼羽ちゃん?」


「!う…うう…」


「それとも…無理やり大人しくさせられる方が、いいの?」


「!…や…やだ…」


「安心してね、涼羽ちゃん。涼羽ちゃんが『SUZUHA』ちゃんだってこと、誰にも言わないから」


「ほ…ほんと?…」


「うん♪だって、あんなにも綺麗で可愛くて、誰が見てももらいたくなっちゃう素敵なお嫁さんを、私だけが独り占めできるって思ったら、誰かに言っちゃうなんてもったいないもん♪」


「そ…そんな…こと…い…言わないで…」


「涼羽ちゃん♪涼羽ちゃんみたいな可愛くて、健気で、清楚で、誰にでも愛されちゃう天使みたいな子があんな素敵なお嫁さんな姿見せちゃったら、誰だって涼羽ちゃんのこと、欲しくなっちゃうんだからね?だめだよ?気をつけないと」




自分の下で、その可愛らしい顔を真っ赤にしながらくったりとしている涼羽をじっと見つめながら、美鈴は涼羽が『SUZUHA』であることを心底喜んでいる。


そして、自分が意地悪なことを言う度に可愛らしい抵抗をしてしまう涼羽が可愛くて可愛くてたまらず、もっともっとと言わんばかりに、意地悪なことを言ってしまう。




あんなにも素敵なお嫁さんになれちゃう可愛すぎる男の子のことを知っているのは、あのキャンペーンの関係者以外では自分だけなのだと思うと、こんな秘密を誰かに言ってしまうなんてもったいなく思えてしまい、むしろそんな秘密と共に涼羽のことをますます独り占めしたくなってしまう美鈴。


そして、可愛い盛りの幼子に、知らない人について言ってはだめだと言うかのように、美鈴は涼羽がどれほど周囲から愛される存在なのかを言い聞かせようとする。




「お…俺…そんな…」


「涼羽ちゃんだあい好き♪涼羽ちゃんは、私だけの涼羽ちゃんなの♪」


「!ち…違…」


「違わないもん。こんなに可愛くて、こんなに素敵で、天使みたいな涼羽ちゃんなんだから…私涼羽ちゃんのこと大好きなんだもん。ぜ~ったいに、私だけの涼羽ちゃんにするんだもん」




涼羽と触れ合うようになってから、日に日に大きくなっていく涼羽への愛情。


初めは自分だけが涼羽と触れ合うことができていたのが、いつの間にかその童顔な美少女顔を露にするようになり、気がつけば周囲の誰からも愛されるようになっていた涼羽。


そうして、日に日にその可愛らしさを増していく涼羽のことを、自分一人だけのものにしたくてしたくてたまらなくなっていくのを、美鈴は常に自覚させられている。




それと同時に、いつも誰にでも優しい涼羽であるがゆえに、いつ涼羽が誰かにとられてしまうのか、気が気でない状態も、ずっと続いている。


だからこの日、涼羽が自分の家に来てくれるということが嬉しくて嬉しくてたまらず、しかも今、こうして涼羽と自分の部屋で二人っきりになれていることが嬉しくて嬉しくてたまらない美鈴なのだ。




涼羽のことを、めちゃくちゃに可愛がってあげたい。


涼羽のことを、めちゃくちゃに愛してあげたい。


涼羽のことを、めちゃくちゃに幸せにしてあげたい。




もうすでに、お互いの唇の初めても交換することができているだけに、なおさらそんな想いが強く強く心の中に満ち溢れてくる。


大好きで大好きでたまらない涼羽のことを、全てを独り占めしたくてたまらない。




「えへへ~、涼羽ちゃん」


「な…なあに?…」


「私、涼羽ちゃんにこうしてぎゅうってしてるだけで、すっごく幸せな気持ちになれるの♪」


「!も…もう…」


「涼羽ちゃんのぜ~んぶが、大好きで大好きでたまらないの♪」


「!み…美鈴ちゃん…」




狂おしいほどに溢れかえってくる涼羽への想いを、本当に嬉しそうに幸せそうに一つ一つ言葉にして、涼羽に伝えていく美鈴。


そんな美鈴に、くったりとしたまま、顔をさらに赤らめてしまう涼羽。




「涼羽ちゃんこんなに可愛いのに、こんな地味な服装なんて、だめだよお~」


「だ…だめじゃないよ…俺…こういうのがいいんだもん…」


「だあめ~。涼羽ちゃんはほんとに可愛いんだから、もっと可愛いかっこしなきゃだめなの~」


「だ…だめじゃないってば…」


「だめ!『SUZUHA』ちゃんはあんなに綺麗で可愛いんだから!涼羽ちゃんももっと普段から可愛いかっこしないと、だめ!」


「み…美鈴ちゃん…」


「だから、涼羽ちゃん♪私が涼羽ちゃんの服、コーディネイトしてあげるから、お着替えしよ?」




素材がものすごくいいのに、それをひた隠しにしようとして、とにかく地味で野暮ったい服装を選んでしまう涼羽。


今となっては、その顔を左半分のみとはいえ晒すようになっているので、それだけでも人の目を惹いてしまうのだが、やはり普段から涼羽のことをずっと見ている美鈴からすれば、もっと涼羽を可愛らしく着飾らせて、その魅力を最大限に引き出してあげたくてたまらないようだ。




普段から好んで着る、地味で野暮ったい服装がいいと言ってしまう涼羽に、強い口調で美鈴はだめだと言い切り、さらには『SUZUHA』があんなに綺麗で可愛いんだから、涼羽も普段から可愛い格好をしないとだめだと言い切ってしまう。


むしろその『SUZUHA』と別人の印象を出したいからこそ、今の涼羽は地味で野暮ったい格好を以前よりも好んでするようになっているのだが、美鈴にはそれも通用せず。




自分のベッドの上で、くったりと仰向けになっている涼羽を上から覗き込むように見つめてくる美鈴は、自分の手で涼羽のことをコーディネイトしたいと常日頃から思っており、今こうして涼羽が自分の家に来ているこの時は、絶好のチャンスと言えるタイミング。




押し倒された状態で上から覆いかぶさられ、力が抜けて身動き一つ満足に取ることもできない涼羽は、抵抗らしい抵抗をすることもできず、そのままなし崩しに、美鈴にコーディネイトされることと、なるのであった。

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