第205話 美鈴ったら、ほんとに涼羽ちゃんのことが大好きで大好きでたまらないのね~

「ふふ、美味しい?涼羽ちゃん?」


「はい…美味しいです」


「よかった。涼羽ちゃんに喜んでもらいたくて、私も美鈴もうんと愛情を込めて作ったの。嬉しいわ」


「そうだよ!涼羽ちゃん!私、涼羽ちゃんに美味しいの食べて欲しくて、頑張ったの!」




休日となる土曜日の、ちょうど正午を過ぎた頃。


柊家の家族三人と、その柊家がおもてなしをする対象となる涼羽の四人で、昼食の時間となっている。




美里は、涼羽が自分と娘である美鈴が作った料理をとても美味しそうに食べているのを見て、心底幸せそうに頬を緩めている。


涼羽のような、本当に天使のように可愛らしい子が、そんな姿を見せてくれることが本当に嬉しくて、美里はますます涼羽のことを、涼羽の母親代わりとして可愛がってあげたくなってしまう。


美鈴も、涼羽が自分の作った料理でふんわりとした笑顔を見せてくれていることが本当に嬉しくて、自分の右隣にいる涼羽を、食事の手を止めないままじっと見つめている。


そして、よほどやりたくてやりたくてたまらなかったのか、時折自分の料理を箸で取っては、涼羽の口に運んでいく。


その度に恥ずかしそうにその頬を赤らめながらも、自分の箸で取っている料理を口にしてくれる涼羽が本当に可愛くて可愛くてたまらず、美鈴は食事の最中であるにも関わらず、ついついぎゅうっと、宝物に触れるかのように涼羽のことを抱きしめてしまう。




正志も、最愛の妻である美里と、最愛の娘である美鈴が、本当に嬉しそうに幸せそうに涼羽のことを可愛がる姿を見て、まるで美人美少女三姉妹がいちゃついているかのようなその雰囲気にだらしないと言えるほどにその頬をゆるゆるにしてしまっている。


正志は、涼羽のことはもう、可愛い娘にまとわりつく虫ではなく、娘である美鈴がもらうことを決定させている嫁のような存在だと思っており、しかも男の子であるにも関わらず、娘の美鈴に負けずとも劣らないほどの美少女な容姿、そして健気で清楚でお淑やかな性格であるため、まるで可愛くて可愛くてたまらない娘がもう一人できたかのような、それでいて楽しそうにキャッチボールに付き合ってくれる可愛い息子ができたかのような、二重の嬉しさと幸せを感じてしまっている。




正志も美里も、この日初めて出会ったにも関わらず、ここまでのたった数時間のやりとりだけだが、涼羽のことは本当に愛すべき存在だと思わされている。




「美里さん、こんなにも美味しい料理を食べさせてくださって、ありがとうございます」


「!!…」


「美鈴ちゃん、こんなにも美味しい料理作ってくれて、ありがとう」


「!!涼羽ちゃん…」


「正志さん、こんなにも僕によくしてくださって、ありがとうございます」


「!!…」




そして、本当にはにかむような笑顔で、お礼の言葉を嬉しそうに声にする涼羽を見て、美鈴も美里も正志もますます涼羽のことが大好きになっていってしまう。


ただの社交辞令などでは決してなく、本当に心の底からそう思っているからこそ、本当に素直に純粋にそう思っているからこそ、涼羽のそんな言葉が、三人の心に染み渡るように入っていく。




「…涼羽君、最初に言っただろ?」


「?え?」


「…そうよ、最初に言ったでしょ?」


「?え?え?」


「僕のことは、お父さんと呼びなさい、と」


「私のことは、お母さんって呼んで、って」


「!え…でも…」


「いいんだよ、いや、むしろ僕がそう呼んでほしいんだよ」


「そうそう、私がそう呼んでほしいの」


「だから、僕のことはお父さんと呼んでくれると、嬉しいな」


「私のことは、お母さんって呼んでくれると、嬉しいわ」




そんな涼羽が可愛くて、しかし自分達のことを名前で呼んでいるのはだめだと思ってしまい、正志は涼羽に自分のことを『お父さん』と呼ぶように訂正を求めてしまう。


そんな正志に便乗するように、美里も涼羽に自分のことを『お母さん』と呼んでほしいと、おねだりをするように求めてくる。




さらには、そうしてくれると嬉しい、という、涼羽にとっては殺し文句とも言える言葉まで声にしてくるのだから、戸惑い気味だった涼羽も、そうして欲しいのならと思いなおしてしまう。




「…お、お父さん…」


「!そうだよ、涼羽君。僕は君のお父さんだよ!」


「…お、お母さん…」


「!そうよ、涼羽ちゃん。私はあなたのお母さんよ!」




たどたどしく、照れくさそうにしながらも、正志と美里の望むように二人のことをそれぞれ『お父さん』『お母さん』と呼んであげる涼羽。


涼羽にそう呼ばれて、正志はその柔和な顔をますますデレデレとさせてしまい、美里はその整った美人顔をはわーと言った感じの笑顔にしてしまう。




正志と美里に、本当に嬉しそうに見つめられて恥ずかしくなってしまったのか、涼羽はその恥ずかしさで真っ赤になってしまった顔を俯かせながら、もくもくと食事を再開する。




「ふふ…い~っぱい食べてね、涼羽ちゃん」


「えへへ~♪い~っぱい食べて!涼羽ちゃん!」




そんな涼羽が可愛くて可愛くてたまらない美里と美鈴は、涼羽にいっぱい食べてくれるように、とびっきりの笑顔でお願いをしてしまう。


こうして涼羽は、柊家の面々に温かな眼差しでじっと見つめられながら、美鈴と美里が作ってくれた料理を美味しく頂くのだった。








――――








「えへへ~♪涼羽ちゃあ~ん♪」


「み…美鈴ちゃん…」




柊家の面々にとっては非常に有意義で楽しい、涼羽にとっては美味しく頂けたものの、ずっと恥ずかしい思いをすることとなった昼食の時間も終わり、後片付けを正志と美里の夫婦で共同作業として始めることとなった。


当然のごとく、涼羽が自分もお手伝いをするとすぐに腰をあげるのだが、今日この日は、柊家全員で涼羽をおもてなしする日なのだからと、あくまで涼羽にはゆっくりしてくれるように言い含める。




そうして、正志や美里の言葉に従って、ソファの上に座ってゆっくりしようとしたところに、美鈴がまるで大好きな母親に甘えるかのように、涼羽にべったりと抱きついてきたのだ。


大好きで大好きでたまらない涼羽の華奢で儚げな身体を、まるで独り占めするかのようにぎゅうっと抱きしめると、露になっている涼羽の左頬に自分の頬をすりすりと摺り寄せてくる。




これも、もはや学校では日常茶飯事の行為になっているのだが、当の涼羽がいつまで経っても慣れる様子を見せることがなく、こんなことをされる度に、その幼げな頬を真っ赤に染めて恥ずかしがってしまう。


もっとも、そんな涼羽が可愛すぎて、美鈴はもっともっとと言わんばかりにべったりと抱きついて、甘えてくるのだが。




恋人と言うには、本当に幼く、仲のいい兄妹のような雰囲気の涼羽と美鈴。


美鈴自身、涼羽のことは本当に頼りになって、優しくて、絶対に自分に危害を加えないと断言できるほどの信頼と、もう片時も離れたくないと思えるほどの愛情を抱いているのだから。


いつもいつも、心は涼羽のことを想っていて、一緒にいられない時が本当に寂しくて寂しくて仕方がなく、だからこそ、一緒にいられる時はもうこれでもかというほどに涼羽にべったりと抱きついて、甘えてしまうのだ。




そんな美鈴に、涼羽は困った表情を浮かべたり、声を出したりしてしまうものの、決して邪険にしたり、ましてや美鈴のそんな好意を利用して、美鈴にヘンなことを迫るようなことは絶対にしたりしない。


それどころか、常に美鈴の身を案じて、異性である自分にこんなに気安く抱きついたりなんかしたらだめだと、こんこんと言い聞かせようとするのだから、いかに涼羽が自分のことを大切に想ってくれているのかを、美鈴は嫌と言うほどに感じてしまう。


さらには、その女神の化身と言えるほどの母性と慈愛、そして包容力を惜しみなく発揮して、美鈴のことを優しく包み込んでくれる涼羽なのだから、少々男嫌いの気がある美鈴にとっては、涼羽はまさに理想の相手となるのだろう。




「涼羽ちゃん♪」


「な、なあに?美鈴ちゃん?」


「涼羽ちゃんって、ほんとにいつ見ても可愛い!」


「!そ、そんなこと…」


「だって、女の子の私が羨ましくなっちゃうくらいに清楚で可憐な美少女なんだもん。涼羽ちゃんって」


「!ち、違うよ…そんなこと…」


「も~、涼羽ちゃんのこと見る人見る人におんなじこと言われてるのに~…違うって言ってるの、涼羽ちゃんだけじゃない」


「ち、違うもん…」


「えへへ~、そんな意地っ張りな涼羽ちゃんも、可愛い~」


「!み、美鈴ちゃん…そんなにべたべたされたら、恥ずかしいよ…」


「だって~、涼羽ちゃんが可愛すぎて、大好きすぎてたまんないんだもん。涼羽ちゃんは、私だけの涼羽ちゃんなんだから、こうやって私にぎゅうってされてないと、だめなの♪」


「!そ、そんなことないってばあ…」


「涼羽ちゃんだいだいだいだいだあ~~い好き!」


「!!~~~~~~~~~……」




傍から見れば、どう見ても十人いれば十人とも振り向いてじろじろと見てしまうような美少女達が、見てるだけで恥ずかしくなってしまうようなやりとりをしているようにしか見えない涼羽と美鈴のやりとり。




自分の一言一言に過剰に反応して、その顔を羞恥に染めてふいと逸らしてしまう涼羽があまりにも可愛すぎて、美鈴は涼羽のことを逃がさないようにと、ますますぎゅうっと涼羽のことを抱きしめてしまう。


まるで、人見知りで恥ずかしがりやな姉にべったりと甘えてくる妹のように、美鈴は涼羽にべったりと甘えてくる。


どこまでも可愛すぎる涼羽のことが、もっともっと大好きになっていってしまう。




涼羽の左側から美鈴が抱きついているため、涼羽が美鈴から顔を逸らそうと思うと、どうしても右の方を向く形になってしまう。


そのため、どうしても露になっている左側の方が、美鈴の方に向けられてしまうのだ。


その向けられている、涼羽の左頬に、これでもかというくらいに美鈴は唇を落として、涼羽が自分だけのものだというアピールをしている。




こうやって、涼羽のことをぎゅうってしてるだけでも幸せになってしまう美鈴。


こうやって、涼羽の頬に唇を落としているだけでも幸せになってしまう美鈴。




こうすることで、美鈴はますます涼羽のことが大好きで大好きでたまらなくなってしまい、ますます涼羽のことを独り占めしたくなってしまうのを実感してしまっている。




「涼羽ちゃん♪」


「な、なあに?美鈴ちゃん?…」


「愛してる♪」


「!!~~~~~~~~~~み、美鈴ちゃん…」


「涼羽ちゃんのこと、私がぜ~~~~ったいに幸せにしてあげる♪」


「!!!!~~~~~~~~~…」


「だから、涼羽ちゃんは私にめっちゃくちゃに愛されて?」


「!!!!!!~~~~~~~~~~~~~~~~~」


「ううん、涼羽ちゃんは、私にめ~っちゃくちゃに愛されないと、だめなんだからね?」


「!!!!!!!!~~~~~~~~~~~~~~~~~~も、もお!知らない!…」




もうこれでもかというほどに執拗に繰り返される、美鈴の涼羽に対しての愛情表現。


同じソファの上で、べったりとくっついて完全にゼロ距離となっているところに、涼羽の耳元で言葉で容赦なく愛してるアピールをしていく美鈴。




そんな美鈴の真っ直ぐで一途な愛情表現が、涼羽はあまりにも恥ずかしすぎて、その一言一言が耳元で響く度に、背中をなぞられたかのようなぞくっとした感覚を覚えてしまう。


その感覚が、涼羽の羞恥心をこれでもかというくらいにくすぐることとなり、ますます恥ずかしくなって、まるで自分が溶けてなくなってしまいそうな錯覚すら、覚えてしまう。




「ははは、見てるこっちが恥ずかしくなってくるくらい、いちゃいちゃしてるね」


「ほんとね~。美鈴ったら、ほんとに涼羽ちゃんのことが大好きで大好きでたまらないのね~」




もう一方的に、涼羽のことを可愛がって、愛して恥ずかしがらせて、それを見てまた楽しみながらも愛し続ける美鈴と、そんな美鈴にめちゃくちゃに愛されて、恥ずかしすぎてまともに美鈴の顔を見ることすらできずに困り果てている涼羽の二人を見て、正志も美里もまるで自分達が涼羽みたいにされているかのような恥ずかしさを覚えながらも、二人がこれでもかというくらいに仲睦まじく寄り添っている姿に、思わずと言った感じで幸せそうな笑顔が浮かんでくる。




どう見ても、誰の目をも惹いてしまう美少女同士の甘くてとろけてしまいそうなほどのやりとりにしか見えないのだが、こんなやりとりをしているのが高校生の男女だと言うのだから、驚きだ、と正志も美里も思ってしまう。




「えへへ~♪涼羽ちゃんは私だけの涼羽ちゃんなんだもん♪」


「み、美鈴ちゃん…お願いだから…離して…」


「や~。涼羽ちゃん可愛すぎて、大好きすぎるから、ぜ~ったいに離してなんかあげないから~」


「うう…恥ずかしいよ…」


「恥ずかしがってる涼羽ちゃん、ほんとに可愛い♪男の子なのに、こんなに可愛いなんて反則だよ~」


「そ、そんなこと…ない…もん…」


「そんなことあるもん♪女の子ぎゅうってしてるみたいな感じしかないし、すっごくいい匂いしかしないし」


「!そ、そんなこと…言わないで…」


「だあめ。涼羽ちゃんって、ほんっとにこういうところ分からずやなんだから、い~っぱい言って、ちゃんと教えてあげないとだめだもん」


「や…やだ…」


「いい?涼羽ちゃんは誰が見てもこんなことしたくなっちゃうくらいに、可愛くて可愛くて、愛されオーラでいっぱいなの。クラスの女の子達も、涼羽ちゃんが可愛すぎて、大好きすぎるから、こんな風に可愛がって、愛してあげたくなっちゃうんだよ?」


「そ、そんなの知らない…離して…」


「や。そんないけずなこという涼羽ちゃんなんか、ぜ~ったいに離してなんかあげないもん」


「うう…美鈴ちゃんの方が…いけずだよお…」




自分の両親が、本当にバカップルを見ているかのような視線を自分に向けていることなどまるで気にも留めず、美鈴はひたすらに涼羽にべったりとしながら、涼羽のことを可愛がり続けている。


絶対に離さないと言わんばかりに涼羽の身体をぎゅうっと抱きしめながら、涼羽の頬にすりすりと頬ずりしたり、唇を落としてその抑えられない愛情を伝えようとしたり、とにかく涼羽のことを愛してあげたくてたまらない、というのが顕著に出てきてしまっている。




涼羽は、そんな美鈴の愛情攻撃が恥ずかしすぎて、かといってどうすることもできず、ただただ、美鈴の愛情攻撃をただただ、その身に受け続けることとなっている。




その愛情攻撃にただただ攻められ続けるだけの涼羽があまりにも可愛くて、さらに美鈴の愛情が大きくなってしまい、ますます涼羽は美鈴に愛されてしまうこととなる。




そんな二人のやりとりは、涼羽が涙目になりながら懇願しても美鈴にやめてもらえず、美鈴の気の済むまで続けられることと、なるのであった。

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