第200話 じゃあ、こんなところじゃなかったらいいの?

「えへへ~♪涼羽ちゃ~ん♪」


「み…美鈴ちゃん…みんな見てるから…」




事前に二人で決めていた通り、学校で待ち合わせて落ち合った涼羽と美鈴。


そこから、二人の目的地である柊家に向かって、その足を進めている。




美鈴の家である柊家は、学校を中心とした位置から北東側に、徒歩五分ほどの位置にある。


学校から南西側にある涼羽の家とは、ちょうど反対側の位置にあるのだ。


それでも、涼羽の家からでも徒歩十五~二十分くらいでたどり着くので、涼羽と美鈴も割かしご近所さんだったりする。


涼羽に料理を教わり、家で手伝いをするようになってからの美鈴は、買い物のために涼羽が普段から御用達にしている商店街の方に出かけることも増えてきており、その商店街の中では評判の美少女として、結構な人気者になっていたりする。




店舗系は基本的に商店街の方に集中しており、あとは交通量はそれほどでもない車通りから、駅の方までにある程度で、それ以外はほぼ民家が建て並んでいて、ごくたまに、築数十年クラスの、古めかしさを感じさせるオフィス系のビルが建っている程度なので、この町は基本的に閑静な住宅街であるということが、よく分かる。




土曜日の午前ということで、人通りもまばらな状態となっているが、その少ない通行人は、どこからどう見ても、誰の目をも惹いてしまうであろう美少女達が、本当にできているんじゃないのかと思ってしまうほどのいちゃいちゃっぷりを見せ付けている涼羽と美鈴の二人に、視線を奪われている。




涼羽の左側から、涼羽の左腕をぎゅうっと抱きしめて、その手も指と指を絡めてしっかりと握る、いわば恋人つなぎの状態となっており、もう本当に涼羽のことが大好きで大好きでたまらないという想いを、そのまま行動で、そしてその幸せ一杯の笑顔で表している美鈴。


そんな美鈴にべったりとされたまま歩くこととなり、周囲の視線が自分達に集中していることに嫌でも気づいてしまい、恥ずかしくて恥ずかしくてたまらず、かといって美鈴が離してくれなくて、非常に恥ずかしそうに、困り果てた表情を浮かべている涼羽。




「(うわ~…なんだあの美少女達…あからさまに一方通行な感じだけど、すっげえいちゃいちゃしてるよな…)」


「(二人共、せっかく可愛らしさ満点の美少女なのに…あんなにもあからさまにゆりゆりしく…なんてこった…)」


「(わ~…あんなにも女の子同士でいちゃらぶしちゃってるなんて…見てるこっちが恥ずかしくなっちゃうわ…)」


「(黒髪ロングストレートの眼鏡っこちゃんは、ボブヘアーちゃんに迫られて恥ずかしがってるみたいで…ボブヘアーちゃんはそんな眼鏡っこちゃんを見て嬉しそうに幸せそうにしてて…正直可愛すぎて、見てるだけでドキドキしてきちゃうじゃない!…)」




そんな涼羽と美鈴の二人のやりとりをすれ違いざまに見ていて、思わずドキドキしてしまったりしている通行人達。


幼げな印象で本当に可愛いという言葉が似合っている二人が、どこからどう見ても恋人同士のようなやりとりをしている姿は、ある種の奇跡を目の当たりにしているようで、ついついその足を止めて、じろじろと無遠慮に二人のことを目で追いかけてしまう。




その美少女のうちの一人である涼羽が、実は男子であるということに誰も思い当たることなどなく、ただただ、見たままの美少女だという認識しか持たれていない。


今の涼羽は、それほどに童顔で可愛らしさ満点の美少女にしか見えないということなのだろう。


ましてや、あんなにもあからさまに恥ずかしがっている仕草や、困り果てている表情を見ていると、本当に意地悪したりして、困らせたり、恥ずかしがらせたりしたくなってしまう…


そんなオーラが、涼羽からは滲み出ている。




清楚で可憐で、まさに大和撫子的な雰囲気の涼羽だから、恥らう気持ちも本当に強いのだろうと、二人のやりとりを見ている通行人達は思い、涼羽のそんな様子を見ているだけで眼福な気持ちになってきてしまう。


加えて、そんな涼羽を見て本当に嬉しそうに無邪気な笑顔を浮かべながら、まるで生涯の伴侶にそうするかのようにべったりと寄り添って、まるで誰にも渡さないといわんばかりに涼羽の手を握り締めている美鈴の姿もあるため、余計にドキドキとしながらも、眼福な思いが出てきてしまっている。




「涼羽ちゃん♪」


「な…なあに?…美鈴ちゃん?…」


「だあい好き♪」


「!…こ、こんなところで…そんなこと…言わないで…」


「じゃあ、こんなところじゃなかったらいいの?」


「!!…も、もお……」


「涼羽ちゃんだいだいだいだいだあ~~~~~~い好き!」


「!!!~~~~~~~し…知らない!……」


「涼羽ちゃんほんとに可愛すぎ!えへへ~♪」




そんな周囲の視線や思惑など、まるで気にも留めていない美鈴は、今自分が寄り添って、べったりとしている涼羽に、いくら言っても尽きることのない想いをそのまま告げるように、可愛らしい声で大好きと、涼羽にぶつけてくる。


そんな美鈴のいきなりな声に、涼羽は周囲に見られていることも手伝って、ついついその顔を赤らめ、ますます恥ずかしがってしまう。




そんな涼羽があまりにも可愛すぎてたまらないのか、美鈴はついつい意地悪な反応を返してしまい、その反応にますます恥ずかしがって、困り果てた表情を浮かべる涼羽に、その際限なく沸きあがって来る想いをより強くぶつけるように、言葉に、声にしてしまう。




そんな美鈴の真っ直ぐで無邪気な想いに、ますます涼羽は恥ずかしがってしまい、とうとう美鈴から拗ねたようにふいっとその顔を逸らしてしまう。


そして、そんな涼羽も可愛くて可愛くてたまらず、美鈴は涼羽にますます寄り添って、もうとっくにゼロとなっているその距離感をさらに埋めようと、ぐいぐいと自分の身体を押し付けるようにべったりとしてくる。




周囲の人間が、そんな二人のやりとりを思わず顔を赤らめながら見ている中、美鈴は涼羽をまさにさらっていくかのように、自分の自宅である柊家へと、その足を進めていく。




そして、そう時間も経たないうちに、目的地である柊家へと、美鈴と涼羽の二人は到着することとなる。




美鈴の生家である柊家は、懐古的で和の様相を強く出している高宮家と比べると、近代的で洋の様相が強い。


鉄筋コンクリートによる骨組みはもちろんのこと、箱と箱を組み合わせた、平面的で直線的な印象の造詣をしており、二階建てとなるその建造物は、穏やかな印象を受ける白で染められている。。


そんな建造物を、同じように平面的に切り取られた敷地を区切る囲みは、比較的真新しさを感じさせるアイボリーに染められていて、ちょうど公道に面した側の、来訪者から向かって左側には、自家所有の車を格納する駐車場があり、反対の右側に、玄関へとつながる門がある。


門のすぐそばに、来客を知らせる役割を持つインターホンが設置されており、中からはモニターで来訪者の姿を見ることのできる、やはり近代的なものとなっている。




敷地そのものが、一般的な家庭と比べると広く設けられていて、なおかつ庭と自宅の、スペースの配分が絶妙に行われており、外から見ているだけでも、中の広さが伺えるものとなっている。


そのため、上流の富裕層とまではいかないものの、一般から見れば裕福に入る部類の家となっている。




「へえ~…美鈴ちゃんの家って、立派なんだね…」




涼羽も、美鈴の家を一目見てそう思ったようで、柊家の外観を興味津々という感じでじっと見つめている。


自分の家が、広さはそれなりにあれど懐古的でどちらかと言えば庶民の家、と言った感じなので、柊家のような裕福層に入るような家を見るのは初めてであり、ついつい興味が沸いてしまう。


ましてや、これまで友達の家にお邪魔するような交流もなく、ただただ、自宅と学校の往復だった涼羽には、他所の家にお邪魔するという機会がまるでなかったから。


知人の家にお邪魔したことがあるのは、学校の音楽教諭である四之宮 水蓮の家に、その水蓮の母である永蓮に料理を教わるという名目で、本当に最近行ったくらいのもの。


その水蓮の家にしても、一戸建てではなく、様相こそ綺麗で整っているものの、あくまで一般家庭的な集合住宅であったため、一戸建ての家にお邪魔するのは、本当にこれが初めてであったりする。




「そお?嬉しい!でも、涼羽ちゃんのお家はすっごくあったかくて、優しくて、いつまでもいたくなるから、すっごく好きなの!」




自分の自宅を、本当に素直な言葉で涼羽に褒められて、嬉しそうな笑顔を浮かべる美鈴。


そして、今となっては事あるごとにお邪魔している高宮家のことを思い浮かべて、まるで涼羽を始めとする住人達の、幸せで穏やかで、優しい雰囲気がそのまま家にまで乗り移っているかのような感じが非常にお気に入りで、毎回帰ることを渋ってしまうくらいに好きだと、言葉にする。




「ふふ…ありがとう、美鈴ちゃん」




自分の家をそんな風に褒められて、本当に純粋に、嬉しそうな笑顔を浮かべて、美鈴に感謝の言葉を贈る涼羽。


そんな涼羽を見て、美鈴の笑顔もますます嬉しそうなものとなる。




「ほら!早く入ろ!涼羽ちゃん!」


「うん、じゃあ、お邪魔するね」




今から、自分の家に大好きで大好きでたまらない涼羽が入ってくれるということで、嬉しさに気が急いて、涼羽をぐいぐいと引っ張って入ろうとする美鈴。


そんな美鈴が可愛いのか、涼羽は優しげな笑顔を浮かべて、美鈴に引かれるままに、柊家に入ろうとする。




日頃から常に持ち歩いている、自宅の鍵を取り出すと、囲いに設置された門を開けて、そのまま涼羽を引っ張り込むかのように敷地の中に入り、門を閉じて鍵を閉める美鈴。


そして、そこから少し足を進めて、自宅の入り口となる玄関のドアの鍵を開ける。




無機質だが、決して無骨ではなく、洗練された無駄のないデザインとなる木目調の彩が施されているドアの鍵を開けると、美鈴は早く早くと言わんばかりに、涼羽に少しでも早く自分の家に入って欲しくて、ドアのノブに手をかけて回すと、そのまま引っ張ってドアを開ける。




「えへへ!いらっしゃいませ!涼羽ちゃん!」




美鈴に引かれるがままに、柊家の中へと、足を踏み入れる涼羽。


初めて入ることとなる、クラスメイトの家に、興味津々と言った感じで、きょろきょろと周囲を見回している。




「……綺麗……」




まるで陽だまりのなかの様な穏やかさを感じさせる白を基調とした室内。


玄関から正面右手側には、上の階へとつながる、それが出来上がってからそれほど時間が経っていないことが分かる、木の板を一つ一つ、空間に貼り付けたような階段がある。


廊下は真っ直ぐ正面に向かっており、その突き当たりには扉が開いたままの、小さな部屋が見える。


中には洗濯機と思われるものがちらりと見えたので、洗面所とバスルームなのかも知れない。




突き当たりからは向かって左に折れて廊下がつながっており、その先に何があるのかは、入ってからでないと見えない。


家自体が築からそれほど経っていないのもあるが、見る限り目立ったゴミなどもなく、決して埃っぽくもなく、常日頃から家の住人が綺麗に掃除などをしているのが、涼羽にはすぐに分かった。




この空間を飾りつけるような、インテリアの類のものは置かれておらず、少し殺風景な印象を受けるものの、無駄なものを置くことを好まない涼羽からすれば、必要最低限でさっぱりとしていて、むしろ好感を持てるものとなっている。




そんな風に、柊家の玄関から見える空間を物珍しそうにきょろきょろと見回しているところに、ぱたぱたとした足音が聞こえてくる。


その足音は、涼羽と美鈴がいる玄関の方にどんどん近づいてきており…


その足音が聞こえてからそう経たないうちに、シルエットだけではっきりと女性だと分かる人影が、廊下の突き当たりに姿を現す。




「おかえりなさい、美鈴」




大人びた女性を思わせる、少しハスキーな、それでいて穏やかで上品さを感じさせる綺麗な声。


その声の主は、玄関の方へと近づいてきて、人影の状態ではっきりとしなかったその姿が、はっきりとその場に露に映し出されることとなる。




ふんわりとした、少しウエーブのかかった、黒色から少し色の抜け落ちた感じの、茶系色の髪。


その髪は、伸ばすと面倒になることを嫌っているのか、ボーイッシュな印象を受けるショートヘアとなっている。




顔立ちは、美鈴が大人っぽくなったらこんな感じになるのか、と思わせる、誰が見ても美人だと言えるであろうもの。


美鈴と比べると、目は吊り気味で、鼻も『ちょん』というよりは、『スラッ』という方が適切な、筋の通ったものであり、明らかに『可愛い』よりも『美人』の方にバランスが寄っていて、意志の強さを感じさせる。


だが、全体的に若作りな造詣となっており、せいぜい三十代前半か、見る人によっては二十台後半くらいに思われるであろうものとなっている。




縦編みのクリーム色のセーターに包まれた上半身は、スポーティなスリムさで、ほっそりとしたボディラインだが、女性の象徴である膨らみは、しっかりと自己主張を果たしており、嫌でも異性の目を惹くものとなっている。


そして、薄い水色のスリムタイプのジーンズに包まれた下半身は、女性的な魅力をかもし出す、丸みを帯びたヒップラインに、少し肉付きがいいのか、むっちりとしていて、しかしそれでも太いとも、たるんでいるとも感じさせない、引き締まった脚のラインが、そのままジーンズの布地を形作るように浮かんでいる。




そんな彼女の名前は、柊 美里(ひいらぎ みさと)。


美鈴の生みの母親であり、近所でも評判の美人な奥さんである。




「ただいま!お母さん!」




そんな美里に、本当に無邪気で嬉しそうな笑顔を浮かべながら、自宅に帰ってきた時の定番の挨拶を返す美鈴。


最近は、自分から積極的に家のお手伝いをしてくれて、料理の腕もめきめきと上がってきた美鈴のことを、美里は本当に可愛がっており、その愛娘の愛らしい笑顔を見ただけで、その大人びた、意志の強そうな顔に、ふんわりとした笑顔が浮かんでくる。




そして、その愛娘が、まるで片時も離れたくないと言わんばかりにその腕を抱きしめて、べったりとしている、娘と同年代か、それよりも少し幼げな美少女――――もとい、美少年に視線が行くと、その穏やかな笑顔が、今度はぱあっと花が咲き開かんばかりの笑顔になり、美里はすぐさま、廊下を早足で歩いて、その二人のそばまで近寄ってくる。


もう手を伸ばせばすぐに触れられる距離まで近づくと、非常に興味津々で、それでいて子供のように嬉しそうな笑顔を浮かべながら、美鈴がずっとべったりとしている涼羽の方にそのきらきらとした視線を向け、じっと見つめている。




「あ…あの…お、お邪魔します…それと…はじめまして…」




じっと見られていることに居心地の悪さを感じるという、いつもの人見知りが表に出ている涼羽が、この日初めて顔を合わせることとなった美鈴の母である美里に、たどたどしくも懸命に挨拶をする。


そのおどおどとした様子や仕草が、本当に小動物的な可愛らしさをかもし出しており、そんな涼羽に、ますます美里の目がきらきらと輝いていく。




「あなたが、涼羽ちゃんね!」




そして、空いている涼羽の左手を取ると、美里はまるでここまで長旅をしてきた旅人を労わるかのように、その両手で涼羽の手をすりすりとすると、そのままぎゅっと握り締めてしまう。




「は…はい…」




いきなり、この日初めて会ったばかりの、クラスメイトの母親にそんなことをされて、思わずびくりとしながらも、どうにか声を返す涼羽。


そんな涼羽を見て、美里の顔はふにゃりととろけるかのように緩んでしまう。




「もお~!美鈴からいっつも話は聞いてるの~!でも、今日初めて見たけど、話に聞くよりもず~~~っと可愛い~~!私は、美鈴の母親で、柊 美里っていうの!よろしくね!涼羽ちゃん!」


「は…はい…僕…高宮 涼羽っていいます…いつも、美鈴ちゃんにはお世話になってます…」


「あら~!ちゃあんとご挨拶してくれて~!本当にいい子なのね~!」




ずっとずっと娘の美鈴から話を聞かされて、こうして涼羽と会うことを、一日千秋の思いで待ち望んでいた美里にとって、こうして涼羽と会えたことは、本当に喜びと幸せに満ち溢れたものとなった。


その喜びが全面に出ているのか、非常にデレデレとした様子で、涼羽に自己紹介をする美里。




そんな美里に戸惑いながらも、おどおどとしながら自己紹介をする涼羽。




ずっと話に聞いていた涼羽は、自分が思っていたよりもずっと可愛らしくて、清楚さと健気さに満ち溢れていて、美里はもう本当にぎゅうっと抱きしめて、涼羽のことを可愛がりたくなってしまっている。


自分の自己紹介に自己紹介を返してくれた涼羽に、頬を緩めながら涼羽の頭を優しくなで始める。




「!あ…あの…」


「ん?なあに?涼羽ちゃん?」


「ぼ、僕…そんなちっちゃい子供じゃ…ないですから…」




幼子のように、クラスメイトの母親に優しく頭を撫でられて、ついつい恥ずかしがって、儚い抵抗の声をあげてしまう涼羽。


それももはや、いつも通りのこととなっている。




しかし、この日初めて会ってすぐに、涼羽のそんな姿を見せられた美里は、とっくに涼羽に奪われていたといってもいい心を、まさに撃ち抜かれてしまうのを、感じてしまった。




「!!~~~~~~~~~もお~~~!!この子ほんとに可愛い~~~!!」


「!!ひゃ、ひゃあっ!!……」




ずっとずっと、涼羽のことを可愛がってあげたくてたまらなくなっていた美里は、もはやその心を抑えられなくなってしまい、娘の美鈴から奪い取るかのように涼羽を自分の方に抱き寄せて、べったりとくっついてしまうと、その露になっている涼羽の左頬に、自分の頬を摺り寄せて、思う存分に涼羽のことを可愛がろうとする。




当然、いきなりそんなことをされて、涼羽は驚きの甲高い声をあげてしまう。




「涼羽ちゃんって、なんて可愛らしいの!ほんとに!私、こんな可愛い子、初めて!」


「ひゃあ…あ、あの…み、美鈴ちゃんの…お母さん…」


「!!いい!いいわ、それ!」


「!?え?」


「涼羽ちゃん!私のこと、『お母さん』って呼んでくれる?」


「????え?え?」


「ねえ、呼んで?」


「??え?え?………お、お母さん?……」




驚きと戸惑いの表情を隠せず、おろおろとしている涼羽がまた可愛らしいのか、美里はもうこれでもかと言わんばかりに涼羽のことをぎゅうっと抱きしめ、めちゃくちゃに可愛がってしまう。




そして、涼羽に自分のことを『お母さん』と呼んで欲しいとおねだりまでしてしまう。




そんな美里のおねだりに、挙動不審と言えるくらいにおたおたとしながらも、美里のことを疑問符交じりではあるものの、『お母さん』と呼んでしまう涼羽。




「もお~~~!この子ほんとに可愛すぎ!もうほんとにウチの子になってくれないかしら!」


「え?え?…」


「涼羽ちゃん!今日は私があなたの『お母さん』になってあげるからね!う~んと可愛がってあげるからね!」




この日、それも今初めて顔を会わせることとなった涼羽のことを、もうほんとに自分の子供にしたいと思えるほどに気に入ってしまった美里。


ぎゅうっと、まるで幼子を包み込むかのように涼羽のことを抱きしめ、優しく頭を撫でながら、至福の表情を浮かべている美里。




そんな美里の行為に、戸惑いながらも顔を恥ずかしさに赤らめ、しかしそれでも抵抗らしい抵抗などできずに、しばらくの間思う存分に可愛がられてしまうこととなる。涼羽なのであった。

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