第197話 うちめ~~~~~~っちゃ幸せや~~~~~~~…

「あ!涼羽せんぱ~い!」




帰ってから、妹の羽月と父の翔羽にめちゃくちゃに可愛がられて、愛されて、それがそれが恥ずかしくて恥ずかしくてどうしようもなくなっていた夜が明けて、その次の日。


その涼羽が、午前中の休憩時間に教室を出て、廊下を歩いていたちょうどその時。




まるで自分にとって、滅多に会うことのできない、仲良しな親戚にでも会えたかのような、そんな嬉しそうな表情を浮かべながら、そんな声を涼羽に向けてあげる一人の少女。




そんな、涼羽に向けられた声が、涼羽の耳に聞こえると同時に、ぱたぱたとした足音が涼羽の方へと走り寄ってくる。


一体なんだろうと思ったその時には、自分の身体に軽い衝撃のような感触が伝わってくる。




「えへへ~♪涼羽先輩や~♪」




ふと、自分の胸元を見てみると、見覚えのある、小柄で幼げな、黒縁眼鏡をかけた少女が、涼羽の胸に顔を埋めて、まるで母親に目一杯甘える幼子のように、すりすりと頬ずりをしながら甘えてきている。




その少女は、少し前に膝を怪我したところを涼羽に手当てしてもらい、さらには保健室まで連れて行ってもらったことのある後輩の少女、篠塚 皐月その人である。




「皐月ちゃん…ふふ、どうしたの?」




幼げで可愛らしい容姿の皐月が、自分に目一杯甘えてくるのを見て、ついつい優しげな笑顔を浮かべてしまう涼羽。


そして、その頭を優しくなで始めると、優しい口調で自分にうんと甘えてくる皐月に問いかけの声をかける。




「えへ~♪涼羽先輩見かけたから、つい甘えたくなってもうてん~♪」


「そうなんだ…皐月ちゃん、もう高校生なのに?」


「そんなん関係あらへんの~♪涼羽先輩に甘えるんって、めっちゃ心地よくて、めっちゃ幸せになれんねん~」


「もう…いつまでもそんなに甘えん坊じゃ、駄目だと思うよ?」


「いやや~♪うち涼羽先輩のこと、めっちゃ大好きやもん♪だから、もっとうちのこと、ぎゅうってして、なでなでして?」


「…もう…皐月ちゃんったら…」




以前に膝を怪我したところを、本当に優しく手当てしてくれて、さらには保健室への付き添いまでしてくれた涼羽のことが、大好きで大好きでたまらなくなってしまっている皐月。


その涼羽のおかげで、以前はコンプレックスとなっていた関西弁も、今でも普通にさらりとみんなの前で使うことができるようになっている。




そして、高校二年生にしては非常に小柄で、おどおどとした印象だった皐月が、これまでと一転してとても笑顔よしで、可愛らしい女の子になっており、元々密かに人気はあったのだが、クラスの中でもマスコット的な存在として、さらに人気が上がっている。


幼げで無邪気な、そして天真爛漫なその姿が、他のみんなの心を掴んで離さない。


特に、女子達は皐月のことが可愛くて可愛くて、ついつい構いたくなってしまう。




コンプレックスとなっていた関西弁が、皐月の鈴の鳴るような可愛らしい声で発されるのも、周囲の生徒達からすれば非常に可愛らしいものとして認識され、いつの間にか、クラスの中でも一押しの愛されキャラとまで、なっている。




そんな皐月が、涼羽にべったりと抱きついて、涼羽の胸に顔を埋めて、これでもかと言うほどに可愛らしいおねだりまでしている姿。


口調では、本当にやれやれ、といった感じになってしまっているものの、そんな皐月の姿を見て、涼羽の顔には、本当に母性と慈愛に満ち溢れた、優しい笑顔が浮かんでいる。


そして、そんな皐月のおねだりを聞いてあげたいと思ってしまい、ついつい、皐月の望むように、皐月の起伏に乏しい幼げな身体を包み込むかのように抱きしめ、より一層繊細で優しい手つきで、皐月の頭をなでなでしてあげている。




「ふあ~~~~~~……うちめ~~~~~~っちゃ幸せや~~~~~~~…」




涼羽の身体に包み込まれて、涼羽の優しいなでなでをもらえて、もうこの世の幸せを全部独り占めしているかのような、そんな笑顔を浮かべる皐月。


この学校では、もはや誰の目をも、そして心をも奪っている、まさにアイドルのような存在である涼羽のことを、今この時だけは、と言わんばかりに独り占めしようと、涼羽の身体を抱きしめるその細い両腕に、より力がこもってしまう。




こうしていると、自分の心の中の、涼羽のことが大好きで大好きでたまらない想いが、際限なく膨れ上がっていってしまうのが、実感できてしまう。


もうずっとこうしていたい、もうずっと涼羽を自分だけのものにしたい、そんな独占欲も、際限なく膨れ上がっていってしまう。


ずっと幸せそうなにこにこ笑顔で、自分にべったりと抱きついて甘えてくる皐月が本当に可愛いのか、涼羽も皐月のことを目一杯の母性と慈愛で包み込んで、これでもかというほどに甘やかしては、皐月のどうしようもないほどに膨れ上がっていく涼羽への想いを、さらに膨れ上がらせていってしまう。




「いいなあ~…皐月、あんなにも高宮先輩にべったりと甘えさせてもらえて~…」


「皐月のこと甘えさせてる高宮先輩…もうほんとに女神様みたい…可愛い…」


「あたしも、高宮先輩に、あんな風に甘やかして欲しいよ~…」




皐月と行動を共にしていた、皐月と同じクラスの女子生徒達が、そんな涼羽と皐月のやりとりを見て、まるで後から生まれた弟妹に大好きな母親をとられて、羨ましがるかのような、そんな表情を浮かべている。




この女子生徒達も、涼羽のファンであり、涼羽とお近づきになりたいと思いながらも、お近づきになりたいと思いながらも、無意識に遠くから見つめていたいという、強すぎるファン心理から、なかなかそれができないでいる状態なのである。


涼羽と皐月の出会いのことを知らない彼女達からすれば、一体どうして皐月があんなにも涼羽に気安くべったりと甘えることができるのか、また、そんな皐月を涼羽が本当に優しく包み込むことができるのか、全く分からないままと言える。




結局、授業開始のチャイムが、校舎内に鳴り響くまで、皐月は涼羽にべったりと甘えたままとなり、皐月と一緒にいた女子生徒達は、そんな皐月を心底羨ましそうな顔で見つめることと、なったのだった。








――――








「あ~!お兄ちゃん!」


「え?」




この日も放課後を迎え、その足でそそくさと秋月保育園に向かおうとしている涼羽。


そんな涼羽を呼び止める、幼げな口調に、鈴の鳴るようなソプラノな少女声が、その場に響き渡る。




声のする方を涼羽が見てみると、その小さな肩より下まで伸びている髪を、左の方で一つにまとめてサイドテールにした、幼げだが、可愛らしい顔立ちの少女が、涼羽の方へと走り寄ってくる。


羽月と同じ中学に通っており、羽月とも親交がある少女で、前に一度、今と同じ秋月保育園に行く最中のこの道で会った事のある、牧瀬 莉奈。


その莉奈が、この世の幸せが全て自分のところに来たかのような嬉しそうなにこにこ笑顔を浮かべながら、今となっては大好きで大好きでたまらない、自分にとってはお兄ちゃんのような存在である涼羽の身体に、べったりと抱きついてしまう。




「!わ……り…莉奈ちゃん?」


「うん!お兄ちゃん、会いたかったよ~♪」




いきなり妹と同じ中学の制服に身を包んだ、自分よりも明らかに小柄な少女に抱きつかれて、驚きの表情を隠せないでいる涼羽。


そんな表情の涼羽も可愛いのか、そのにこにことした笑顔をますます輝かせて、嬉しそうにべったりと涼羽に甘えてくる。




「あ~!お兄ちゃん、眼鏡かけてる~!どうしたの?それ?」


「え?あ、ああ…最近急に目が悪くなってきて…それで…」


「そうなんだ~…でも、すっごく似合ってて可愛い~!」


「べ、別に可愛くなんて…」


「えへへ~♪お兄ちゃんは誰が見たって可愛いの♪だから、あたしもお兄ちゃんのこと、だあ~~~~~い好きなんだもん♪」




初めて会った時にはかけていなかった、涼羽の眼鏡を見て、嬉しそうなにこにこ笑顔はそのままに、その眼鏡のことを問いかける莉奈。


そんな莉奈の問いかけに、少し戸惑いながらも、眼鏡をかけ始めた理由を素直に答えとして返す涼羽。




眼鏡のデザインが、涼羽の優しげで可愛らしい容姿や雰囲気を崩すことなく見せており、涼羽によく似合っているため、前とはまた違った可愛い涼羽を見ることが出来て、莉奈の可愛らしく整った顔に浮かんでいる笑顔が、ますます無邪気に可愛らしくなっていく。


そして、自分に可愛いと言われて、その顔を赤らめながら儚い抵抗の声をあげる涼羽のことがますます可愛らしく見えてしまい、涼羽のことがますます大好きになっていく。




涼羽と会う前の莉奈は、表面上では妹のことを優しく甘えさせてはいたものの、やはりどことなくいやいや感が出ており、それを妹も敏感に感じ取っていたため、一時期を境に、二人の仲は悪くなっていったのだ。


さらには、姉妹二人揃って同じタイプと言うこともあり、それが磁石の同極のようなものとなってしまっていたため、言ってしまえば同属嫌悪のような状態になってしまっていた。


妹の方は、自分は甘えさせてもらって当然だという思いがあり、無自覚に両親の愛情を独り占めしてしまっていたところがある。


そして、それが本来は甘えん坊タイプである莉奈の嫌悪感を誘っていたのだ。


莉奈からすれば、なんでいつもあの子だけ、といった感じで、まるで自分だけが蚊帳の外に置かれているような感覚に陥ってしまっており、そのためにどうしても、妹に対していい感情を持つことができないでいた。




それが、涼羽と初めて会うことが出来て、涼羽に本当に包み込まれて、優しく甘えられて、莉奈はまさにそれまでの嫌な感情を全て消し飛ばしてもらえたかのような感覚を得ることができたのだ。


それからは、涼羽の顔を思い浮かべるだけで、その時の幸せな雰囲気と感覚がよみがえってくるようになり、それが、どことなくぎこちなくなっていた妹との関係を、修復するきっかけを生んでくれた。


妹も、それまでの姉の不満ありありな感じが嘘のようになくなって、何かを思い浮かべるような仕草をする度に、本当に幸せそうな笑顔を浮かべるようになったのを見て、一体それはなぜなのかを、聞いてみようとした。


そうして、ずいぶん久しぶりに自分のそばまで来ることになった妹を見て、なんだか自分が涼羽にしてもらえたことを、この妹にしてあげたくなった莉奈は、何も言わずにふわりと、それまで嫌悪の対象だったはずの妹のことを、まるで本当に大切な存在であるかのように抱きしめたのだ。


当然、妹はそんな姉のいきなりな行為に驚き、慌てふためくものの、以前と違って、本当の意味で自分を包み込んで、優しくしてくれる、そんな姉の抱擁が本当に温かくて、優しくて、これまで嫌っていたはずの姉のことが、こうしている間にどんどん好きになっていくのを、自覚することとなった。




莉奈の方も、自分が涼羽の見よう見真似でしてみただけのことで、妹がこんなにも嬉しそうな顔をして、さらにはもっともっとと言わんばかりにぎゅうっと自分のことを抱きしめてきてくれるのが、なんだかとても嬉しく、幸せに思えた。


涼羽にしてもらえたおかげで、自分も妹をどうやって甘えさせればいいのかを知ることができ、そのおかげでずっと仲の悪かった妹と、今では家にいる間はずっとべったりとするほど仲が良くなっており、その変化には両親も驚きを隠せないでいる。




今では、近所でも評判の仲良し姉妹となり、同じ中学に通っていることもあって、そんな牧瀬姉妹の本当に仲睦まじい姿を、学校ではもちろん、通学途中でも多くの人間が目にすることとなっていて、姉妹の容姿が可愛らしさに満ち溢れているのも手伝って、それを見た人間は、決まって頬を緩めて、心が癒されるかのような感覚を与えてもらっているのだ。




甘えん坊なはずの自分が、こんなにも妹に喜んでもらえるほどに妹を甘えさせることができるようになったのは、間違いなく涼羽のおかげだと確信している莉奈。


そして、やっぱり本質は甘えん坊であるため、妹に甘えてもらえることに喜びを感じるようになったとしても、自分も誰かに、いや、涼羽に甘えたいと心では常に願っている。




そして、その願いが今、現実となり、莉奈はこれまで涼羽に会えなかった分まで取り返すかのように涼羽にべったりと甘えて、その幸せな気持ちで心を満たそうとしている。




「えへへ~♪お兄ちゃんだあ~~~~~~~い好き♪」


「り、莉奈ちゃん…」


「ほら~、お兄ちゃんも、あたしのことぎゅうってして、なでなでして?」


「…………」


「だめ?」


「………ふふ」




天下の往来であるにも関わらず、まるで実の妹である羽月のようにべったりと自分に甘えてくる莉奈を見て、驚きと戸惑いに満ち溢れていた涼羽の顔から、少しずつ、そんな固さが抜けていっている。


そして、本当に実の妹である羽月と同じように、自分を抱きしめて、頭をなでてほしいとおねだりまでしてくる莉奈が本当に可愛く思えたのか、涼羽のその顔に、自然と母性と慈愛に満ち溢れた、いつもの誰かに甘えられる時の笑顔が浮かんでくる。




そして、まるで初めて授かることのできた、命に代えても惜しくないと思えるほどに可愛い自分の子供を、本当に宝物のように包み込む母親のように、涼羽は莉奈のことをふわりと抱きしめ、その頭を優しくなで始める。




「!ふあ~~~~~~……」


「莉奈ちゃんは、本当に甘えん坊さんだね」


「お兄ちゃんは、甘えん坊な子は、嫌い?」


「ううん、大好きだよ?」


「!えへへ~♪だからお兄ちゃん、大好きで大好きでたまらないの!」


「ふふ、莉奈ちゃん可愛い」


「!嬉しい!お兄ちゃんだいだいだいだいだあ~~~~~~~い好き!」




まるで本当の妹のように、自分のことを甘えさせてくれる涼羽のことを、莉奈はもうどうしようもないほどに大好きに大好きになっていってしまう。


もう涼羽のことは、自分にとっての本当のお兄ちゃんなんだと言わんばかりに、本当のお兄ちゃんなんだから、自分が独り占めすると言わんばかりに、莉奈は涼羽の身体にべったりと抱きついて、離れようとしない。




自分にとって、本当に欲しいものをいっぱい与えてくれる涼羽のことが、どうしようもないほどに大好きになっていってしまい、その涼羽にこんな風に甘えさせてもらえるだけで、まるでこの世の幸せを独り占めできているかのような、そんな幸福感まで感じることができるようになっている。




やっぱり、涼羽のことを、自分の家の子にしたいと、そして、本当に自分のお兄ちゃんになってほしいと、心から思ってしまう莉奈。




そんな莉奈を、まるでわが子をその両腕で包み込む母親のように、涼羽は時間の許す限り包み込むように抱きしめ、その頭を優しくなで続けるので、あった。








――――








「………」


「あ、あの…羽月?」




アルバイトの時間を終えて、家に帰ってきた涼羽を待っていたのは、もうこれでもかと言うほどに不機嫌な様子が一目で分かってしまうほど、ぶすっとした、むくれた表情をその顔に浮かべていた羽月の、まるで涼羽をこの世でたった一人の運命の人だと思いこんで、絶対に手に入れようとするかのように、その小柄な身体を目一杯使って拘束しようとするかのような抱擁だった。




最も、こんな風に羽月が涼羽を出迎える時にこうして自分だけの兄であることをアピールするかのようにぎゅうっと抱きしめるのは今に始まったことではないのだが。




だが、その時は基本的にこの世の幸せを全て自分だけのものにできたかのような、本当に幸福感に満ち溢れた笑顔を浮かべながらの抱擁となっている。


ゆえに、こんなにもあからさまに不機嫌な表情を見せながらの抱擁と言うのは、たいてい羽月が、涼羽が自分以外のほかの女の子や子供に、まるで自分と同じように優しく接して、包み込んで、そのおかげでその相手が、まるで自分が抱いているのと同じような好意を抱いてしまったことを知ってしまった時であること。


つまり、やきもちを焼いているときなのだということを、最近になってようやく涼羽は知ることとなった。




だから、今こうして自分を縛り付けるかのように抱きしめているこの妹は、やきもちを焼いているのだと言う事はよく分かる。


分かるのだが、肝心の『どうしてやきもちを焼いているのか』というところは、全くと言っていいほどに分からない。


今こうして自分にべったりと抱きついているこの妹が、やきもちを焼いているということが分かるようになっただけでも、この高宮 涼羽という少年にとっては大きな進歩だと言えるものなのだ。


もともと、人と争うとか、競い合うとか、ましてや目の前のものを自分だけのものにしたいなどという思いなど一切なく、とにかく分け隔てなく、誰にでも優しく、という穏やかな性格であり、自分の好きな食べ物ですら、目の前で他の人間に食べられたとしても、むしろそれを喜んでその人間にあげるという、本当に博愛主義で、母性と慈愛に満ち溢れている…


今の涼羽はそんな人格なのである。




だからこそ、そういう『やきもち』という感情がある、ということは知っていても、どうしてそんな感情を抱いてしまうのか、ということが全くと言っていいほどに分からない。


ゆえに、なぜ妹の羽月が、こんなにもちょっとしたことでやきもちを焼いてしまうのかが、一向に分からない、というのが涼羽の本心であり、実情なのである。




「…お兄ちゃん、またわたし以外の女の子のこと、わたしみたいに甘えさせてた…」




実はこの日、羽月はこの最愛の兄である涼羽が、自分の学校の友達である莉奈を、目一杯の母性と慈愛で優しく包み込んで、うんと甘やかしていたところを、たまたま学校からの帰り道の途中で目撃してしまっていたのだ。


見かけた時は、もう涼羽もアルバイトに向かおうとしていたところであり、莉奈も名残惜しそうな表情ではあったものの、その雰囲気はまるで幸せ一杯に心が満たされていたかのような、そんな雰囲気だった。




そんな莉奈の雰囲気だけで、羽月は涼羽が莉奈のことを優しく包み込んでいたというのが、すぐに分かってしまった。


そして、妹の自分だけの特権であるはずのものを、他の子にとられてしまったかのような、そんな思いを抱いてしまった。


特に莉奈が、本当に涼羽にご執心で、いつだって涼羽のことを本当に自分だけのお兄ちゃんにしたい、などということを学校でおしゃべりしているのを聞いているため、余計にそのやきもちの心が強く、こうして行動に出てしまうのだ。




「え?……あ!莉奈ちゃんのこと?」




そんな妹の心境など、やはり知る由もなく、涼羽は羽月の言葉に、自分が今日、莉奈のことを優しく包み込んで、甘えさせていたことに思い当たる。


そして、それをそのまま声に出してしまう。




やはりどこまで行っても、誰に対しても優しい兄、涼羽であるため、妹である自分のやきもちいっぱいの声に対しても、こんなさらりとした反応となってしまうことも、今に始まったことではないのは羽月は重々承知している。


でも、だからこそ、いつまで経ってもこんなにもお兄ちゃんのことが大好きで大好きでたまらない自分のことをないがしろにしているかのように感じてしまうのも、羽月なのだ。




「~~~~もお!!お兄ちゃんったら!!もうぜ~~~~~~ったいに許してあげないんだから!!」




すりすり、というよりはぐりぐり、と言った感じが適切なくらいに、自分の顔を涼羽の胸の中に埋めていた羽月が、その顔を涼羽の方に向けて、その抑えのきかない感情を爆発させるかのように、大きな声をあげてしまう。




そして、そんな羽月の思いは、言葉だけでは到底足りるはずもなく、そのまま行動にまで及ぶこととなり…


この日も涼羽は、自宅に帰ってきてすぐに、妹である羽月のどうしようもないほどに膨れ上がり続けているその愛情を、これでもかというほどにぶつけられることと、なってしまうのであった。

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