第73話 た、高宮君!?
「はは…疲れた…」
昼食も終わらせた昼も過ぎた頃。
香奈と永蓮と別れ、改めて一人での散歩を満喫している涼羽。
二人にひたすらにべったりと愛され、甘えられ…
そんな風に自分を扱ってくれることが内心嬉しくはあったが…
それ以上に恥ずかしさが勝ってしまい…
ついついいやいやをするような仕草になってしまってはいたが。
ただ、そんな涼羽の仕草が余計に香奈や永蓮の心をくすぐるものとなってしまい…
もっと、もっとといった感じでべったりとされてしまっていた。
特に香奈は初めて会った時から涼羽のことが好きで好きでたまらなかったため…
もう、ずっと涼羽の胸に抱かれる状態のままだった。
その間の香奈の表情はまさに幸せいっぱいといった感じの笑顔に満ちており…
その幼い両腕が涼羽の身体から離れることは、なかった。
だから、涼羽との別れ際などはもうさんざん抵抗し…
――――や~!!りょうおねえちゃんはかなといっしょにおうちにかえるの~!!――――
とか…
――――りょうおねえちゃんとさよなら、や~!!――――
などと、ごねにごねて涼羽の身体に抱きついたまま、おおいに泣き喚いて離そうとしなかったのだ。
そんな香奈が可愛くてよしよし、と背中と頭を撫でつつ…
そっと、そのおでこに優しく唇を落としてあげたのだ。
――――かなちゃん、また今度、一緒に遊ぼうね――――
その慈愛と優しさに満ちた笑顔と、甘く可愛らしい声での台詞。
何より、大好きで大好きでたまらない涼羽から、そんな風に愛情に満ちたキスをもらってしまっては…
それまでの激しい抵抗が嘘のようにピタリと止まり…
そのおでこに触れられた唇の感触がとても嬉しくて…
もうだらしないといってもいいくらいの、幸せに緩んだ笑顔になってしまっていた。
――――えへへ♪りょうおねえちゃん、だあいすき~♪――――
天然無自覚に四歳の幼子の心をがっちりと鷲掴みにして離さない涼羽。
今回も、香奈の涼羽に対する愛情をより大きく膨れ上がらせることとなった。
そして、この日初めて会った香奈の祖母、永蓮も…
――――ねえ、涼羽ちゃん。あなたはお婆ちゃんの孫なんだから、一緒にお家に帰るのは当然のことよね?――――
などと言い出す始末。
この初めての出会いで、よっぽど涼羽のことがお気に召したようで…
孫娘の香奈同様、頑なにその両腕が涼羽を離そうとしなかったのだ。
そして、そうしているだけでもよほど幸せだったのか…
これまた、だらしないくらいに緩んだ笑顔が、絶えることはなかった。
永蓮にとっては、まさに理想が服着て歩いているような存在である涼羽。
そんな涼羽が、自分の元から離れていくのには、非常に抵抗があったのだ。
香奈と涼羽のやりとりも、見ているだけで心が癒され、幸せいっぱいな気持ちになれるもの。
ましてや、こんなにも可愛い二人が揃って自分の腕の中にいるなんて…
はたして、これ以上の幸せがあるだろうか。
そこまで、思ってしまうほどだったのだ。
――――涼羽ちゃんは、私の大切な孫娘なの。だから、お婆ちゃんから離れていくなんて、だめなのよ?――――
こんな台詞が飛び出してくるほどに、永蓮の心は涼羽に鷲掴みにされてしまっていた。
そんな永蓮に、涼羽は困った顔しか浮かんでこず…
香奈だけならまだしも、その祖母である永蓮まで、こんな駄々っ子のような振る舞いになってしまって…
どうしよう、どうしようと思いながら、なんとなくやってみたこと。
――――お婆ちゃん、今度、僕にお料理、教えてくださいね?――――
俯き、恥らいながらも、上目使いからおねだりするような仕草からの、この台詞。
少々ぎこちない感じが否めなかったが、それが却って恥じらいを強調する結果となっていた。
自分にとってもはや、可愛すぎるほどに可愛らしい…
目に入れても痛くないと豪語できる孫娘からの、こんな可愛らしいおねだり。
涼羽からすれば、ベテランとも言える主婦から、より料理のことを勉強したくてぽろっと出た台詞だったのだが…
それが永蓮の心を文字通り打ち抜くこととなってしまった。
――――分かったわ!!絶対!!絶対よ!!教えてあげるから、ぜ~ったいウチに来てね!!絶対よ!!――――
もはや鼻息も荒々しくなってしまい…
初めの貞淑な印象もすっかり壊れてしまうほどの破壊力が、この時の涼羽にはあったのだ。
向上心に満ち溢れ、一人で努力することを惜しまない孤高な性質である涼羽。
それゆえに、甘えることが下手すぎるほどに下手な涼羽。
そんな涼羽の、甘えるような仕草。
それは、まさに絶大な破壊力であると言えた。
少しでも涼羽のことを可愛いと思える人間なら、誰もがころっと落ちてしまうであろうほどの。
これで、永蓮は完全に陥落したと言っても過言ではなかった。
そういったやりとりを経て、どうにか二人と別れて再び一人になることができた涼羽。
改めて、この自然に満ち溢れた公園の中、一人解放的な感覚に浸りながらゆっくりと歩き回ることにしている。
「ふう…落ち着く…」
ちょっとしたアクシデントと言える出来事はあったものの、こうしてぶらりと散歩していると、本当に心が洗われるような気持ちになれる。
世間の煩わしい喧騒からも…
ごみごみとした、閉塞感を感じさせる建造物の集合地からも…
それらから解放され、自然に満ちた、澄んだ空気の中…
まるで、時の流れが緩やかになっている感覚さえ覚え…
自然と、その童顔な美少女顔に、幸せいっぱいの天使のような笑顔が浮かび上がってくる。
ちなみに、永蓮から借りていたヘアピンは、結局永蓮が涼羽にあげると言って、そのままになっている。
ゆえに、涼羽の顔は、そのカーテンのような前髪が開け放たれて、左半分だけではあるが、はっきりと見えている状態だ。
その状態で、そんな笑顔を振りまいているのだから…
道を歩いて、涼羽とすれ違う人一人一人が…
そんな涼羽に思わず足を止めて、目を奪われてしまっている状態だ。
まさに、今の涼羽を目にすることが出来たこと、それそのものにおおいな幸福感を感じさせる。
自然と、涼羽とすれ違う人達の顔にも、笑顔が浮かんでくる。
ある人は…
――――なんて可愛らしいお嬢ちゃんなんだろう。中学生くらいかな――――
また、ある人は…
――――とても幸せそうな、可愛らしい笑顔…素敵なお嬢ちゃんね。中学生くらいかしら?――――
と、誰もが涼羽を中学生くらいの美少女だと、認識してしまっている。
こんなにも可愛らしい美少女の、これまた素敵な笑顔…
それを目の当たりにすることができて、人々の心は、まさに癒された気分になっている。
もし、その美少女が、今年十八歳の男子高校生だと知った時の人々の反応はどのようなものになるだろう…
それほどに、今の涼羽は誰が見ても男には見えない容姿なのだ。
そんな風に、自分の意識しないところで多くの人の目を惹き…
多くの人の心を奪いながら…
ゆっくりと、その静けさ、その清浄な空気を堪能しながら散歩を続ける涼羽。
「ふふ…この時間が、すごく好き。すごく幸せ」
自身がこよなく愛するこの公園…
その公園で、こうして浸るように緩やかな、落ち着いた時間を楽しむ涼羽。
普段は素っ気無いか、もしくは困っているか、もしくは恥ずかしがっているか…
最近は、そんな表情が多い涼羽の、心からの笑顔。
そんな、本当に幸せそうな涼羽をはたと見つめる視線。
「あれって…高宮君?」
その視線の主は、涼羽の隣のクラスの生徒で、鬼の風紀委員として悪名高かった、小宮 愛理。
愛理は周囲から敬遠されていることもあり、以前の涼羽のように普段から一人でいることが多かった。
加えて、自ら好んで孤立した状況にいた涼羽と違って、どうしてもそうなってしまっていた愛理。
友達ができない寂しさから、それを紛らわせようと、ちょくちょくとこの公園に来て…
その殺伐とした心を癒そうとしていたのだ。
この日も、そんな寂しさから、ついついこの公園に足を運んできていたところ。
そこに、今の自分の心を激しく震わせる存在である、高宮 涼羽を見かけた。
あの時…
この地域でも並ぶものがいない、といっても過言ではないほどの喧嘩魔である志郎に襲われそうになった時…
その身を挺して自分を護ってくれて…
あんなにもひどいことを言った自分を、あんなにも優しくなだめてくれて…
以来、涼羽のことがずっと心から離れない。
以前は、涼羽のような本来の性別にふさわしくない存在を心底忌み嫌っていたのに…
今では、涼羽に関しては、非常にその心を慌てさせられてしまうのだ。
その幼げな美少女然とした容姿も…
陽だまりのような温かく、優しい性格も…
そして、それに相反するかのような、力強さと男らしさも…
何もかもが、愛理にとっては魅力的に見えてしまう。
何もかもが、愛理の心を落ち着かなくさせてしまう。
その為、今では愛理の方が涼羽を見るとどこかぎくしゃくとした感じになってしまい…
うまくやりとりできないもどかしさから、耐え切れずにその場から逃げ出してしまう…
という状態になってしまっているのだ。
ちなみに、鬼の風紀委員と名高い彼女のそんな姿が、普段とのものすごいギャップを生み出しており…
もともとの容姿も美人で綺麗ということもあり…
周囲では愛理という人物に対する認識が改められつつある状態なのだが。
「(ど、どうしよう!?まさか、こんな誰もいないところで高宮君に会えるなんて!?って、み、見てるだけでなんでこんなに慌ててるの!?私!?)」
ただ、涼羽を見かけただけだというのに、勝手に心がテンパってしまっている愛理。
普段の冷静で理知的な…
悪く言えば冷徹な雰囲気はすでになく…
まるで、意中の人を偶然見かけて、舞い上がってしまっているような様子。
そんな風に、思考が定まらず、盛大にパニクっているところに…
「あれ?小宮さん?」
涼羽の方がそんな愛理に気づき…
近づいて、声を掛けてきたのだ。
「!!ひゃあっ!!」
絶賛混乱中のところに、不意に声をかけられておおいに驚いたのか…
ほぼ悲鳴と言えるであろう、裏返った声をあげてしまう愛理。
「!!こ、小宮さん?」
そんな反応の愛理に、今度は涼羽が驚いてしまう。
最も、最近の愛理は涼羽に対して挙動不審な反応が多く、これまでとは違う認識をされつつはあるのだが。
「も、もう!!いきなり声なんかかけないで!!」
涼羽にそんな意図はなかったとはいえ、結果的には驚かされてしまったことに腹を立てて怒り出してしまう愛理。
ただ、自分が勝手に驚いて声をあげてしまっただけではあるのだが。
「ご、ごめんね。小宮さん…そんなに驚くなんて、思わなかったから…」
そんな愛理に、しゅんとした感じで謝罪の言葉を述べる涼羽。
せっかくのまばゆいばかりの笑顔も、華が萎れてしまったかのように曇ってしまう。
「(ち、違うの!!な、何してるの、私!!高宮君にこんな顔させたかったんじゃないのに!!)」
見ているだけで幸せな気持ちになってしまうその笑顔を萎れさせてしまったことで…
内心では、こんなつもりじゃない、と、自分自身に憤ってしまう。
「ち、違うの!!いきなりだったから、びっくりしただけなの!!高宮君が悪いんじゃないから!!」
そして、あわあわとしながらも、涼羽に対してフォローの言葉を紡いでいく愛理。
せっかくの可愛らしい笑顔を曇らせたくない。
そんな思いから、ものすごく必死に涼羽に対しての弁解を声にしていく。
「ほ、本当?」
「!う、うん!本当!高宮君は悪くないから!」
「…そっか、それならよかった」
「!!」
愛理の必死の弁解が功を奏したのか…
涼羽の顔に、控えめだが、華が咲き開かんかのような笑顔が再び浮かんでくる。
その顔を見て、一向に落ち着く気配を見せることのない愛理の心が、よりいっそうざわついてくる。
「(も、もう!!なんでそんなに可愛い笑顔見せるのよ!!こんなの見せられたら、私…私…)」
そんな涼羽の笑顔が愛理にとっては恐ろしいほどの破壊力だったらしく、思考が何やら妙な方向へと行きそうになる。
「(高宮君のこと、あんな風に…こんな風に…えへへ…!!って、違う!!違うの!!)」
明らかによからぬ思考…
というよりは妄想に耽り始めた愛理。
それに伴い、表情までだらしなく崩れそうになるが…
寸前で正気に戻り、ハッとして、顔を引き締める。
「小宮さん?」
急に黙り込んでしまった愛理を怪訝に思ったのか…
きょとんとした表情で、愛理の顔を覗き込むかのように声を掛ける涼羽。
きょとんとした表情も天然で可愛らしく…
そんな表情が間近に見えてしまった愛理は…
「!!な、なんでもないの!!なんでも…!!」
「?どうしたの?」
「た、高宮君!!」
「!!な、なに?」
「どうして…どうして男の子なのに、そんなにも可愛いの!!」
「!!え…いきなり何を…」
「高宮君がそんなにも可愛いから、いけないんじゃない!!」
「!!そ、そんなこと言われても…」
「高宮君が可愛すぎるから、私もヘンな事考えちゃう…!!」
「?ヘンな事?」
「や、やっ!!ち、違うの!!違うの!!今のナシ!!ナシ!!」
もう完全に挙動不審な愛理の立ち振る舞い。
思わず、その脳内で妄想してしまっていたことまで口に出しそうになり…
大慌てで違う、違うと連呼し続ける。
言えるはずもない。
愛理が、心の中で涼羽のことをめちゃくちゃに可愛がってしまっている妄想をしてしまっていたなんて。
普段の理知的で落ち着いた雰囲気は影も形もなく…
その美人な顔を真っ赤にしてあわあわとしながら、しどろもどろに言い訳をしているようなその姿…
「(最近の小宮さん、俺と話す時って、何かおかしいんだよなあ…なんでだろ?)」
自分がその身を挺して彼女を護ったあの時…
それ以降から、妙に自分に対する愛理の態度がおかしいと、さすがに思ってはいたのだが。
「ねえ、ヘンな事って?」
思わず愛理が口走ってしまった、『ヘンな事』。
それが気になったのか、ついつい追求するように聞き返してしまう涼羽。
その可愛らしい顔で覗き込むように問いかける涼羽の姿に、またしても愛理の動揺が大きくなってしまう。
「!!な、なんでもないの!!なんでも!!」
「え、でもさっき、『ヘンな事』って…」
「ほ、本当になんでもないの!!」
「もしかして、俺の事?『ヘンな事』って…」
「!!ち、違うの!!そ、そりゃあ高宮君っておかしいところ多すぎるけど、ヘンなんてことは…」
「…俺、おかしいの?」
「!!だ、だから違うのー!!」
もうひたすらに『なんでもない』を連呼し、とにかくさっきのうかつな台詞をなかったことにしたい愛理。
そんな愛理に対し、自分が抱えてしまった疑問を解消しようと、追及してくる涼羽。
そんな涼羽に、思わず『おかしいところ多すぎる』なんて台詞をぶつけてしまい…
そんな愛理の台詞に思わずショックを受けて、またしてもその顔を曇らせてしまう涼羽。
「小宮さんが俺のこと、よく思ってないのは分かるけど…」
「!!だ、だから違うの!!そうじゃないの!!」
「…やっぱり俺、小宮さんに嫌われてるのかな?」
「!!そ、そんなことあるはずないじゃない!!」
「え?」
「だって私、高宮君のこと…!!」
愛理の先程の台詞に、どんどんネガティブな方向に思考がいってしまう涼羽。
そんな涼羽の、後ろ向きな台詞にさらに大慌てで是正しようとする愛理。
その為、思わずその本心を告げようとしてしまうが…
間一髪でハッとしてしまい、口をつぐんでしまう。
「(あ、あぶなかった!!私今、何を言おうとしてたの!?)」
自分のしようとしていたことに、ドキドキが止まらない。
心臓が飛び出しそうなほどに、激しく動いている。
息も苦しくなるほどの動悸が、愛理を襲う。
その動悸が、愛理の顔を羞恥に染める。
「…小宮さん?」
言いかけていた言葉を止めて、急にだんまりになってしまった愛理。
しかも、その顔を湯気が出てきそうなほどに真っ赤にして。
そんな愛理が気になって、彼女を呼びかける声を放つ涼羽。
「(や…やだ、私…でも、でも…高宮君のこと…)」
そんな涼羽の声も全く届いていない今の愛理。
自分が涼羽のことをどう思っているのか…
それを考えるだけで、この激しい動悸が止まらない。
その顔が、どんどん真っ赤に染まっていく。
「(高宮君…私…私…高宮君のこと…)」
自分でうまく言葉にはできないものの、確かな思いがその心の中にある。
そして、それは、決して以前のように涼羽を嫌悪していた時のものではない。
それだけは、絶対だと言える。
その確かな思いを、自分ではっきりとした言葉にすることは、今の愛理にはできない。
当然、音にして目の前の涼羽に伝えることなど、できるはずもない。
だから、どうしても涼羽に対して、挙動不審な感じになってしまう。
どうしても、涼羽と向き合うと、言葉も行動もうまくできない。
「…小宮さん!」
「!ひゃ、ひゃいっ!?」
世話しなく表情をコロコロ変え、何かを思いつめるようにして一言も発さなくなった愛理を心配して…
涼羽が先程よりも強い口調と声で、もう一度呼びかける。
混沌としてぐちゃぐちゃな意識のところに、不意に鼓膜に届いた強い声。
驚いて発した声も、呂律がうまく回らないものとなってしまっていた。
「小宮さん、大丈夫?」
「え?」
「急に黙り込んで、思いつめるようにして…どこか、具合でも悪いの?」
「………」
心底心配そうな顔で、ものすごく気づかうような声をかけてくる涼羽。
そんな涼羽を見て、愛理の心に、心地の良いものが染み込んでくる。
「(もう…高宮君ったら…本当に優しい…)」
周囲から敬遠されていたこともあり…
こんな風に自分を気遣ってくれる存在など、いなかった愛理。
そんな中、こんな風にいつだって自分を気遣って…
時には、その身を挺して護ってくれて…
自分に対してそんな風に接してくれる涼羽のことを思うと…
それだけで、ものすごく心がざわついてくる。
「だ…大丈夫。私は、なんともないから」
でも、そのざわつきは、ものすごく心地のいい…
どこか、幸せを感じるもの。
それが、愛理の顔に、うっすらと笑顔を見せてくれる。
「本当?本当に大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ」
「それなら、いいけど…」
「…ありがとう、高宮君。心配してくれて…」
根っこが過保護な涼羽は、ついついしつこく確認してくるが…
それが、そこまで愛理を心配してくれている、ということが本当に伝わってくる。
そんな涼羽の温かく、優しい心が本当に嬉しくて…
愛理の顔に、華が咲き開かんばかりの笑顔が浮かんでくる。
そして、ごく自然に涼羽と会話ができていることが本当に嬉しくて…
その笑顔が、よりまばゆいものになっていく。
「(えへへ…高宮君が私のことすっごく心配してくれてる…す~っごく嬉しい♪)」
絶対に自分を邪険にしない…
絶対に自分を独りにしない…
絶対に自分を大切にしてくれる…
うまく言葉にはできないものの…
愛理の、涼羽に対する想いは、その心の中では絶対のものとなっている。
「(高宮君…大好き…)」
それを言葉にできる時が来るのか…
それは、愛理自身が決めること。
それがいつになるのか…
それは、神のみぞ知る、ということなのだろう。
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