第72話 可愛らしいお嬢さん達ですなあ…

「どお?おいしい?」

「うん!おいしい!」


世間的に休日となる土曜日のちょうどお昼時。

町の中心から少し離れた、自然に満ち溢れた風景。


その風景をたっぷりと詰め込んだ、美しい公園。


その公園を愛し、この日も散歩に来ていた高宮 涼羽。

その涼羽と偶然出会うこととなった、涼羽が大好きな幼子の水神 香奈。

その香奈の祖母である四之宮 永蓮。


たまたま対面することとなったこの三人。

香奈にべったりと懐かれ…

その母親であり、自らが通う高校の教師でもある四之宮 水蓮にも非常に気に入られ…

そして、その水蓮の母親であり、今ここで涼羽の膝の上にいる香奈の祖母である永蓮にまで…

これでもかと言うほどに気に入られてしまい…


今は、こうして公園の中心となる噴水の…

その近くに設置されているベンチに座り…


ちょうどお昼時になったこともあり、お互いが持ち合わせた弁当をそれぞれ開いて…

一緒にお昼ご飯の時間を過ごすことになったのだ。


そして、大好きな涼羽の膝の上にちょこんと座り…

大好きな涼羽が作ってきた弁当…

その中にある玉子焼きを一つ、その優しい笑顔であ~んしてもらい…

料理上手な涼羽が作ったそれを目いっぱい咀嚼し、味わっているところなのだ。


「そう、それならよかった」


自分の作った料理を美味しいと言ってくれた香奈の顔を見て、幾分緊張が和らいだのか…

ホッとした表情を見せる涼羽。

天真爛漫な笑顔を惜しげもなく晒し、美味しそうに自分の作ったものを食べている香奈の頭を、優しく撫でることも忘れずに。


「りょうおねえちゃんのおりょうり、す~っごくおいしいの!」

「そ、そお?」

「うん!」

「はは…よかった」


こんなにも可愛くて。

こんなにも優しくて。

こんなにも料理上手で。


香奈にとっては、大好きな要素しかない涼羽。

その涼羽の膝の上に乗せてもらい、涼羽の身体にべったりと抱きつきながら、涼羽の作った美味しい料理を食べさせてもらう…

そんな幸せなひと時。


「おかあさんのおりょうりより、りょうおねえちゃんのおりょうりのほうがおいしい!」

「え?…そうなの?」

「うん!」


だから、こんな風に香奈の口から、比べる言葉が出てきてしまう。


香奈の母親である水蓮は、普段から仕事中心の生活となってしまっており…

実は、家事全般を苦手としている。

それでも、全く作れないということはないのだが…


時間のある時に、母親である永蓮に教えてもらい…

それで少しずつは作れるようになってはいるものの…

基本的に大雑把で、味付けも雑なので、なかなか上達しない今日この頃なのだ。


普段から高宮家の母親代わりとして、家事全般に勤しみ…

父である翔羽も、妹である羽月も、毎日食べたくなる、と言い切るほどに涼羽の料理は美味しい。

それも、日々精進し、より美味しく食べてもらえるように努力を欠かさない。


そんな涼羽の料理であるがゆえに、香奈の口からそんな言葉が出てしまうのだろう。


「ええ、本当に美味しいわ」


香奈と同じく、涼羽の料理を口にした永蓮も、香奈の言葉に同意する。

実の娘であり、不肖の弟子である水蓮と比べると、雲泥の差だと思ってしまう。


一口食べて、その美味しさに頬を緩めている。


「そ、そうですか?」

「本当よ。こんなに可愛くて、こんなに優しくて…それに、こんなに美味しい料理が作れるなんて…」

「そ、そんなこと…」

「涼羽ちゃんったら、絶対にいいお嫁さんになれるわね」

「!だ、だから僕は男なんで…」

「うふふ…可愛いわ~…それに比べて、ウチの娘と来たら…見た目のよさばっかりで、中身は…」


涼羽に対する賞賛の声と同時に、この場での比較対象となっている水蓮への愚痴が出てしまっている永蓮。

思わず、はあ、と溜息をついてしまう。


「し、四之宮先生は仕事で忙しいのもあると思いますから…」

「だめだめ、あの子本当に仕事だけなのよ。だから家事とかからっきしなのよね」

「でも、仕事できる女性って、かっこよく見えますよ」

「そりゃあ、家のこともちゃんとできてれば、ね。でもあの子家のことは全然だめだもの」

「あ、はは…」

「涼羽ちゃんなんか、学校のお勉強もちゃんとして、帰ったら家のこともちゃんとして…あなたの方が、よっぽどかっこよく見えてくるわ」

「はは…あ、ありがとうございます…」


娘からの又聞きであるとはいえ、ある程度は涼羽の家庭事情を知っている永蓮。

それだけに、自分の娘である水蓮と比べると、がっくりときてしまうものがある。


水蓮曰く、成績は十分いいと言えるレベルであり、しかもそれを少しずつながら右肩上がりで伸ばしていっている、とのこと。

で、学校が終わったら父と妹のためにご飯を作り、後片付け、洗濯、掃除までしっかりと行なう。

朝も、誰よりも先に起きて昼食の弁当と朝食を用意し、二人を起こして…と、まさに母親代わりな毎日。


そんな涼羽を見て、本当に自分の子だったらいいのに…

そんなことを思ってしまう永蓮なのであった。


「涼羽ちゃんは、今時珍しいくらい、本当にいい子なのよ」

「そう、でしょうか…」

「だって、人見知りが激しいこの香奈がこんなにも懐いているなんて…それだけでもいい子だと思えるもの」

「…そんなに人見知り激しいんですか?かなちゃんって」

「ええ。私達家族以外には、本当に近寄ろうともしないもの」

「…そうなんですか…」

「それに、水蓮からある程度は聞いてるもの。あなたの普段の生活」

「!な、なんか…恥ずかしいですね…」

「恥ずかしがることなんてないわ。あなたは、どこに出しても恥ずかしくない、本当にいい子だもの」

「…ありがとう、ございます」


慈しみをこめた目で、涼羽を見つめながら…

ひたすらに涼羽をベタ褒めする永蓮。

彼女から見れば、涼羽がどれほどに可愛らしく、どれほどにいい子なのか…


実際に会ってみて、本当にそう思えるほどに。


「ね?だから、お婆ちゃんの孫娘になってくれない?」

「!だ、だからそれは…それに僕、男だってさっきから…」

「そんなにも可愛い顔と容姿して男の子だなんて言ってもね~」

「で、でも…男ですから…」

「うふふ…可愛い可愛い」


その話はまだ終わっていなかったようで…

涼羽に対して、自分の孫娘になってほしいとおねだりする永蓮。


しかし、その『孫娘』という言葉に、顔を恥じらいに染めて是正しようとする涼羽。


そんな涼羽が可愛くてたまらず、永蓮は優しく頭を撫でてしまう。


「りょうおねえちゃん、おとこのこなの?」


涼羽の膝の上で、二人の会話を聞いていた香奈から、こんな素朴な疑問。

涼羽が自分自身を男だと主張している言葉を、何気なくだが、聞いていたようだ。


「そ、そうだよ。ずっと言おうと思ってたんだけど…俺、男なの」


そんな香奈に、降って湧いた好機と思い、自分が男であることを明確に伝える涼羽。

これで、香奈の勘違いも正すことができれば…

そう思ってのことだったのだが…


「そうなんだって、香奈。涼羽お姉ちゃん、こ~んなに可愛いのに、男の子なんだって」


その横から、永蓮がニヤニヤとした含み笑いを見せながら言葉を発する。

まるで、どうせ信じてもらえるわけがない、とでも言わんばかりに。


「!…ほ、ほら、胸もなくてぺったんこでしょ?俺、『お姉ちゃん』じゃなくて、『お兄ちゃん』なの。かなちゃん」


そんな永蓮の表情に少しムッときたのか、必死に自分が男であることを主張する涼羽。


いつもその胸にべったりと抱きついている香奈に、これは男の胸であるということを強調しながら。


だが、そんな涼羽の懸命さも空しく…




「え~、うそだ~」




一言で嘘だと、バッサリと切って捨てる香奈。

その純真無垢な瞳は、涼羽が女の子であることをまるで疑わず…

完全に、信じきってしまっている。


「!え…か、かなちゃん?」

「ふふふ…」


一言で嘘だと断言されてしまったことで、あっけに取られた表情を晒してしまう涼羽。

そんな涼羽と香奈を見て、楽しそうに微笑む永蓮。


「りょうおねえちゃんがおとこのこだなんて、うそ!」

「な、なんで!?」

「だって、こ~んなにかわいいのに」

「!う…」

「それに、おむねだって、ぺったんこだけど、やわらかくてやさしいもん」

「!え…」

「それに、おかあさんよりもおかあさんみたいだもん」

「!そ、そんな…」

「こえも、す~っごくかわいいし」

「!あう…」

「おりょうりもおじょうずだし」

「!そ、それは…」

「りょうおねえちゃん、だあ~いすきなの♪」


その小さな身体を使い、つたないながらも一生懸命に、涼羽がどれほどに女の子であるかを伝えようとしてくる香奈。

こんなにも純真無垢に、涼羽が女の子であることを信じて疑わないその姿。


その姿を見て、涼羽は愕然とした表情になってしまい…

永蓮は、実の母である水蓮よりもお母さんみたい、という孫娘の言葉に一瞬残念そうな表情を浮かべたものの、すぐに、ほら、見なさい、といった、してやったりの表情になってしまう。


「か、かなちゃん…それでも俺は…」

「!めっ!」

「!え?」

「おんなのこが、『おれ』なんていったら、めっなの!」

「!だ、だから俺は…」

「!りょうおねえちゃん、わるいこなの!」

「!か、かなちゃん…」


その上、涼羽が自分を『俺』と呼ぶことに対して、怒り出してしまう有様。

そんな香奈に、涼羽も二の口を告げられなくなってしまう。


「そうね、涼羽お姉ちゃんったら…こんな男の子みたいな口の聞き方しちゃって、悪い子ね」


そんな孫娘に便乗するかのように、祖母である永蓮も、涼羽の一人称に対して怒るような言葉を口にする。

あくまで、表情は微笑ましいものを見るような温かい目ではあるが。


「!お、お婆ちゃん…」

「だめよ、涼羽ちゃん。香奈はあなたのこと、本当に女の子だと信じきっているから」

「で、でも…」

「ほら、言ったとおりでしょ?本当の女の子でも、こんなに女の子らしくて可愛らしい子なんて、そうはいないもの」

「!うう…」

「だから、お婆ちゃんもあなたのこと、だあいすき、なのよ」

「…で、でも…俺…」

「あら、香奈がめっ!してくれたところなのに、まだそんなこと言うの?」

「りょうおねえちゃん!おんなのこが『おれ』なんていったら、めっ!なの!」

「そ、そんな…」


状況は完全に二対一。

もはやどうすることもできない状態の涼羽。


そんな涼羽を見て、永蓮の頬がますます緩んでしまい…

その愛情が、さらに膨れ上がってしまう。


「涼羽ちゃんったら、本当に可愛いわ~」


もう我慢ができなかったのか、涼羽の頭をそっと抱きしめ…

幼子をあやすかのように優しく頭を撫で始める。


「りょうおねえちゃん、す~っごくかわいいの♪」


涼羽の膝の上にいる香奈も、そんな涼羽を見て可愛いと思ったらしく…

涼羽の華奢な身体にその幼い両腕をまわして抱きつき…

その胸に顔を埋めて、頬ずりしながら甘えてくる。


「!お、お婆ちゃん…」

「ふふふ…涼羽ちゃんったら、本当に可愛いわ」

「りょうおねえちゃん、す~っごくかわいくて、かな、だあ~いすきなの♪」

「か、かなちゃんまで…」

「えへへ♪りょうおねえちゃん♪」


心底嬉しそうで、幸せそうな笑顔で…

大好きなお姉ちゃんである涼羽の胸元から、じっと涼羽の顔を見つめてくる香奈。


しかし、今の恥ずかしがっている顔をじっと見つめられることに抵抗があるのか…


「あ、あの…かなちゃん…」

「?なあに?」

「…そんなに…見られたら…恥ずかしい…」


四歳の幼子にじっと見つめられて、こみ上がってくる羞恥に耐え切れず…

思わず顔をふいっと逸らして、そっぽを向いてしまう涼羽。


しかし、それでも真っ赤に染まっている頬や耳が丸見えになっており…

恥ずかしがっていることが丸分かりだ。


「…えへへ~♪」


そんな涼羽を見て、少しの間呆けていたものの…

すぐにまた、嬉しそうな笑顔を取り戻す香奈。


羞恥に耐え切れず、目を逸らしてしまった涼羽の顔を見て、どんどん香奈の幼さに満ちた頬が緩んでいく。


「りょうおねえちゃん、かなのこと、みて?」

「!え?…」

「かなのことみてくれないの、や」

「!で、でも…」

「りょうおねえちゃんのかわいいおかお、い~っぱいみせて?」

「うう…」


花をも恥らう乙女のように恥ずかしがる涼羽の顔を覗き込むように見つめながら、そんな涼羽の顔を自分に向けて欲しいとおねだりする香奈。


そんな香奈のおねだりに対し、どうしても恥ずかしさが勝ってしまって、どうすることもできずに困り続ける涼羽。


そんな涼羽の困り顔がよほど可愛いのか…

少しいたずらっ子な、意地の悪い表情を含めながら、涼羽の恥ずかしがる顔を嬉しそうに見つめている。


四歳の幼子にいじめられる、一見美少女にしか見えない男の子の図…

それがあまりにも可愛らしく、微笑ましいやりとりに見えて…

横でそれを見ている永蓮も、その頬をだらしなく緩ませて…


「も~、なんて可愛いのかしら。この子達ったら」


涼羽の胸の中にべったりと抱きついている香奈もろとも、涼羽をぎゅうっと抱きしめてしまう。


「もう、本当に涼羽ちゃんが私の子供だったらって、思っちゃうわ~」


出会ったばかりであるにも関わらず…

永蓮の中では、高宮 涼羽という存在はもう、我が子もしくは我が孫とも言えてしまうほどのものとなってしまっている。


「りょうおねえちゃんのはずかしいおかお、す~っごくかわいいの♪」

「涼羽ちゃんはもう、お婆ちゃんの孫なの!もう、決めたから!」

「か、かなちゃん…見ないで…それに、お婆ちゃんも…困ります…」

「や~♪りょうおねえちゃんのかわいいおかお、い~っぱいみせて~♪」

「だめよ、涼羽ちゃん。お婆ちゃん、あなたのことい~っぱい可愛がってあげたいんだもの」


ひたすらに香奈や永蓮からそっぽを向いたままの涼羽の顔を…

永蓮の手が、半ば無理やりに自分達の方へと向けさせてしまう。


「や…やめて…ください…」

「えへへ~♪かなだけのおねえちゃん、す~っごくかわいいの~♪」

「ああ~、私の可愛い可愛い孫娘、可愛すぎてたまらないわ~」


今の恥じらいに満ちた顔を無理やり見られて、よほど恥ずかしいのか…

頬どころか、顔全体を真っ赤にして、懸命に目だけでも逸らそうとする涼羽。


そんな涼羽にべったりとしながら、その顔を見て頬を緩ませる永蓮と香奈の二人。


「はずかしがってるおねえちゃん、かわいいの~」


心底嬉しそうな弾む声をあげながら、その胸の中にべったりと抱きついている香奈。

もうまさに、自分だけのお姉ちゃんを独り占めしたいという…

そんな意思表示が、明確に見られるものとなっている。


「可愛い可愛い私の涼羽ちゃん…ああ~、可愛いわ~」


そんな孫娘、香奈と同じように、心底嬉しそうな声をあげ…

文字通り、独り占めしたそうにぎゅうっと抱きしめている永蓮。


もはや涼羽がどれほどに自分を男だと主張しても…

この二人は、まるでそれが初めからないかのように、女の子だと認識してしまっている。


「りょうおねえちゃん、だあ~いすきなの~」

「可愛い可愛い涼羽ちゃん、大好きよ~」


これほどに可愛らしい子が、男の子なわけがない。

まさにそんなノリで、ひたすらに涼羽を可愛がる香奈、永蓮の二人。


「おやおや、可愛らしいですね」


そんな三人に、不意にかかる声。


声のする所には、一人の通りすがりの…

老人と言える男性がいた。


その年月がそのまま刻まれたかのような皺。

その役目を終えたかのように、寂しくなっている頭頂部。

残っている髪も、すっかり白くなっていて、その年齢が高齢だということを象徴している。


人のよさそうな柔和な顔を、この三人の可愛らしいやりとりを見たせいか、より緩ませている。


「あらあら、こんにちは」

「ええ、こんにちは」


そんな男性に対し、永蓮がご機嫌な表情のまま、幸せそうな声で挨拶をする。

そんな永蓮の挨拶に、同じく笑顔で返してくる男性。


「その子達は、あなたのお孫さんですか?」


そして、永蓮がぎゅうっと抱きしめている幼子と美少女を見て…

興味津々な様子で問いかける。


「ええ、そうなんですよ」


そんな男性の問いに、顔を綻ばせて答える永蓮。

香奈の方はともかく、涼羽の方は赤の他人ではあるのだが…

そんなこと関係ないと言わんばかりに、自分の孫だと主張してしまっている。


「ほう…これはこれは…非常に可愛らしいお孫さん達ですねえ」

「ええ、もう目に入れても痛くないくらい、可愛らしい子達ですわ」

「羨ましい限りですなあ。ワシのところなど、孫なんて滅多に来てくれないもんですわ」


男性のところは、子供夫婦と孫とは疎遠のようらしく…

こんな可愛い孫達にべったりとできて羨ましい、と言わんばかりの羨望の視線を向けている。


「お、お婆ちゃん…僕は…」

「しーっ…涼羽ちゃんはお婆ちゃんに黙ってぎゅうってされててね」

「りょうおねえちゃん、だあ~いすきなの~」


さすがにこのまま永蓮の孫だと思われるのはまずいと思ったのか…

涼羽が訂正の言葉を発そうとするのだが…

それも、永蓮に止められてしまう。


涼羽にべったりと抱きついたままの香奈も、ひたすらに涼羽に甘えて懐いている状態だ。


「いやあ、こんなにも可愛らしいお孫さん達がいて、お幸せそうでなによりですな」

「そうなんですのよ。もうこの子達が可愛くて可愛くて…」

「上のほうのお嬢さんは、中学生くらいですかね?いやはや、可愛らしいお嬢さんですな」


その童顔な美少女顔のこともあり、本当は高校生で、しかも最上級学年であるというのに…

見知らぬ年老いた男性からは、中学生の美少女にしか見られていない涼羽。


その恥じらいに満ちた、清楚でおとなしい雰囲気もあり…

本当に可愛らしい女の子に見られてしまっている。


「うふふ…この子は、こう見えても高校生なんですよ~」

「え?そうなんですか!?こんなにも可愛らしいのに、高校生!?は~…」

「ええ、もう本当に可愛らしくて、いい子すぎて…ついついこんな風に可愛がりたくなりますのよ」

「いや~分かりますよ~。高校生でこんなにも可愛らしいなんて…そりゃあ、可愛くて可愛くてたまらないでしょう。ましてや、その小さい子は、下の子ですか?こんなに小さな子が、こんなにも懐いてべったりとしているなんて…お姉ちゃんが大好きで大好きでたまらないんでしょうなあ、この子」


ついつい、本当の孫娘のように涼羽のことを話してしまう永蓮。

涼羽が実年齢よりも幼く見られたことも嬉しいのか…

嬉々とした表情で、通りすがりの男性との会話に花を咲かせている。


「お、お婆ちゃん…」


そんな中、永蓮と男性の会話に水を差すように声を出す涼羽なのだが…


「あら、涼羽ちゃん、どうしたの?」

「も、もう離して…」


実際には赤の他人である永蓮にこんなにべったりとされているだけでも恥ずかしいのだが…

そのやりとりを、見知らぬ通りすがりの人に見られることで、さらに恥じらいが増していっている。

だから、それに対するかよわい抵抗を見せるのだが…


「うふふ、だあめ。お婆ちゃんね、涼羽ちゃんのこと大好きだもの」

「そ、そんな…」

「うふふ、涼羽ちゃん可愛いわ~」


もう涼羽のことを離したくなくて、ひたすらにべったりとし続ける永蓮に、バッサリと断られてしまう。

そして、さらに涼羽のことをぎゅうっと抱きしめてしまう。


「いやあ、お婆ちゃん孝行な孫娘さん達ですなあ。羨ましくて、妬けてしまいますなあ」


そんなやりとりに、通りすがりの男性も、頬を緩めてじっと見つめてしまう。


「りょうおねえちゃん、えへへ~♪」


涼羽の胸にべったりと抱きついている香奈も、より涼羽にべったりと抱きついて、幸せそうにしている。


そんな幸せいっぱいの可愛らしいやりとり。

まるで、周囲に幸せをおすそ分けすると言わんばかりのそのやりとり。


そんな誰もが微笑ましくなる雰囲気の中、その中心にいる涼羽だけが、ひたすらに困り果てた顔を見せてしまうのだった。

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