第51話 女の子になった涼羽ちゃん…ホントに可愛い♪

「うう…」


週の初めとなる月曜日。

すでに放課後となり、部活に勤しむ生徒のみが、校舎内にいるだけの状態。


クラスメイトである美鈴に連れられ、来た所。

体育の授業で使われる、女子更衣室。


涼羽と美鈴の教室のある棟の最上階に存在しているその部屋。


その中に、嫌がる涼羽を無理やり連れ込み…

美鈴が自身のロッカーを開け、中から取り出したもの。


それは、宣言していた通り、美鈴の予備の制服。


涼羽自身が普段から着ているのと同じ、紺色のブレザー。

そして、純白のブラウス。

それと、女子生徒用の赤のリボンタイ。

最後に、ブレザーと同色の膝上5cmほどのプリーツの入ったスカート。


それらを手渡され…

念を押すかのように…




――――ちゃんと、これに着替えてね♪涼羽ちゃん♪――――




…と言われ…

そのまま、外で待っていると言って、廊下の方に出て行ってしまった。


このまま逃げ出そうにも、四階まである校舎の最上階に位置するこの部屋。

窓から逃げることなど、当然ながら無理。

しかも、他の部屋とつながっておらず、完全に独立しており…

窓を除けば、出入り口と言えるところは、この部屋のドアしかなく…


つまり、そのドアを美鈴が陣取った時点で、脱出は不可能の状態となってしまうのだ。


だからと言って、着替えずに出てくればまたこの中に押し込められるのは目に見えており…

そもそも、ドアを開けてくれるかどうかすら怪しい。


すでに、女装に対する羞恥心で涼羽の頬…

いや、顔全体が真っ赤に染まっており…

しかし、それでも目の前にある、クラスメイトから手渡された制服に着替える以外に、ここを出る術はなく…


強烈と言えるほどの羞恥に襲われながらも、どうにか着替えを開始する涼羽。


漏れ出た声が、その羞恥の大きさを物語っている。


もちろん、涼羽も激しい抵抗の一環として…




――――そ、そもそも、男の俺に自分の制服を着られるなんて…嫌じゃないの?――――




…と、美鈴に訴えかけてみたものの…

当の美鈴からは…




――――え?ぜ~んぜん嫌じゃないよ?むしろ涼羽ちゃんだったら、いつでも貸してあげたいくらい♪――――




…と、まさにカウンターと言える言葉が、鈴のような弾む声で返ってきたのだ。


そんな、同学年の女子に、まるで男として扱われていない事実が、涼羽の精神をごっそりと削っていったのは、言うまでもない。


今、普段から着ている、男子用の制服を一枚ずつ脱いでいくと、それをきちんと畳んで置いていく。

そして、インナーであるタンクトップとトランクス、膝下までの黒のソックスだけになる。


「…は、恥ずかしい…」


男である自分が、女子の制服に身を包むことを強要され…

しかも、本来ならば男子禁制の場となる、女子更衣室に閉じ込められて…


普通の男子ならば、ある意味棚ぼたなシチュエーションとして、嬉々として中を物色したりするなど、欲望を抑えられなくなるのかも知れないが…

今ここにいるのは、そんな男子の思春期的な欲望とは無縁の存在である、高宮 涼羽。


むしろ、ひたすら羞恥を煽られる要因となるだけなのである。


無論、それが分かっているからこそ、美鈴もここを選んだわけなのだが。


もう目の前の女子制服に着替える以外の選択肢はないため、恥ずかしがりながらも、おずおずと渡されたものに手を伸ばしていく。


最初に、純白の長袖のブラウス。

女子用なので、合わせが逆になっているものの、一度着た事があるのもあり、戸惑うことなく着ることができている。


涼羽としては、決して慣れたくない感覚ではあるのだが。


次に、スカート。

前の週末に羽月から手渡されたスカートよりも、さらに丈の短いそれ。


「…女の子って、よくこんな短いの、履けるなあ…」


ウエスト部分のホックを外し…

足の下から通して、腰の方まで持ち上げ…

ウエストの部分で、きっちりと合わせてホックを留める。


クラスメイトや、同年代の女子から常に羨ましがられている美鈴のスタイル。

当然、ウエストもその努力の甲斐あって、見事にほっそりとしたもの。


そんな美鈴のスカートであるにも関わらず、何の問題もなく履くことができている。


加えて、ほとんど同じくらいの身長である涼羽と美鈴。

だが、日本時離れした脚の長さを持つ涼羽の方が腰の位置が高くなり…

ゆえに、スカートを合わせる位置も本来の持ち主である美鈴よりも高くなってしまう。


そのため、本来なら膝上5cmほどの長さなのだが、涼羽がそれを履くと…


「…こ、こんなの…ちょっとしたことで中、見えちゃう…」


膝上7~8cmくらいのさらに短いスカートになってしまうのだ。


前の週末にも、多くの人間の目を惹いた、その脚線美。

それが、より強調される形で晒されることとなってしまう。


それでも、それらを着ない、という選択肢が存在しない以上は、それらを着ていくしかない。


そのスカートの短さにより羞恥を煽られることとなりながらも、リボンタイを首に巻き…

最後に、その紺色のブレザーを着て、ボタンを留める。


「…また、女の子の服、着ちゃった…」


いつも通り、野暮ったく、もっさりした感じでその顔を隠す前髪。

背中の方まで伸びている後ろ髪は、無骨な感じでヘアゴムで一つに束ねられている。


首から上がいつものままなのだが…

首から下は、まさに女子と言っても問題ない着こなしとなっている。


そのせいでちぐはぐな感じになってしまっているが…

その美少女顔を露にするだけで、完全無欠の美少女のできあがりとなるだろう。


「…き、着替えたよ…美鈴ちゃん…」


もう絶対にしない、と決めていたはずの女装。

それをしてしまったことで、おどおどとした、儚げな雰囲気に満ちている。


そんな雰囲気に満ちた声で、ドアの前で待っているクラスメイトに、声をかける。




――――




「うふふ♪もう、楽しみ♪」


涼羽に自分の予備の制服を押し付け…

さらにはこの女子更衣室に閉じ込めて…


あとは涼羽が逃げられないようにこのドアを…

と、した上で…


もうそれは楽しそうな表情で今か今かと、涼羽の着替えを待っている美鈴。


偶然、その場に居合わせたクラスメイトの男子から得ることのできた、あの写真。

そこには、驚くほどの完成度で、その可愛らしさを惜しげもなく晒している…

大好きで大好きでたまらない、クラスメイトの男の子。


女の子の服を着ただけで、驚くほどの美少女に変身できる、まさに美少年。


そんな姿を、自分に見せてくれないなんて言うのは、絶対にありえない。

そんな想いが、美鈴に、涼羽に女装を強要させる、ということを実行させてしまった。


その恥ずかしがる姿だけでも、眼福と言えるほどなのに…

この写真みたいに、可愛い女の子になって、そんな風に恥ずかしがってくれたら…


もう、考えただけでおかしくなっちゃう。

もう、考えただけでめちゃくちゃにしたくなっちゃう。


そんな涼羽が、見たくて見たくてたまらない。


そう思えば思うほど、涼羽の着替えが待ち遠しくなってしまう。


一日千秋って、こういうのを言うんだ。

昔の人って、言葉の作り方がすっごく上手ね。


などと、そんな四文字熟語の意味を実際に体験し、その言葉を作った人に関心しながら…

今か今かと、女の子になった涼羽を待ち続ける美鈴。


ああ、まだなの?

もう、いいでしょ?

もう、今すぐにでも見たいの。


その着替えを覗くことになっちゃうことを期待して、今すぐこの中に入っちゃうかな。


などと、非常に危ない思考になっていることに気づかない美鈴。

そんな美鈴の邪念がさらに膨れ上がりそうなタイミングで…




「…き、着替えたよ…美鈴ちゃん…」




…今か今かと心底待ち望んでいた、涼羽からの声。

その声が聞こえたその瞬間…


「ホント!?」


その声がすると同時に、ドアをバンと開けて、更衣室の中に入ってきている美鈴。


そして、その美鈴の目に映る、涼羽の姿。


「!わ~~~~~…」


髪型がいつも通りなので、ややちぐはぐな感じはあるが…

涼羽の素顔を知っている美鈴から見れば、これでも驚くほどの完成度となっている。


「うう…あ、あんまり見ないで…」


この学校の女子の中でもかなり華奢な部類に入る美鈴の制服。

それらが、決して無理なく…

それどころか、いたって自然に着られている。


しかも、自分が履く時よりも、さらに短くなっているスカート。

そのスカートから伸びる脚の綺麗なこと。


写真で見るよりも、ずっと綺麗なその脚線美。


こんなのが男の子の脚だなんて、本当に反則だと。


美鈴の中で、そんな想いが湧き出てくる。


胸がないのは当然なのだが…

それが却って清楚さ、儚さを強調しているのだから…

少なくとも、胸のことで男だと疑われることはないだろう。


そして、その幼さの色が濃い輪郭の頬を染めて恥らうその姿。


可愛い。

可愛すぎる。


「すっご~い!!何これ!!可愛すぎるよ~!!」

「!!ひゃあっ!!」


そんな可愛すぎる女子に変身した涼羽に、勢いよくべったりと抱きついてしまう美鈴。

いきなり抱きつかれて、思わず甲高いソプラノボイスを漏らしてしまう涼羽。


そして、ほとんどゼロと言える距離で、まじまじと涼羽の顔を見つめる美鈴。


「…や、やだ…見ないで…」


そんな風にじっと見つめられて、恥ずかしがりやの涼羽が耐えられるはずもなく…

すぐに、儚い抵抗の声を響かせ、そっぽを向いてしまう。


「や。こんなに可愛い涼羽ちゃん、いくらでも見たくなっちゃうもん」


もちろん、そんな涼羽の抵抗もあえなく撃沈。

こんなに可愛い涼羽なら、もっとじっくりと見ていたいと、よりじっくりと見つめる美鈴。


「うう…」

「えへへ♪涼羽ちゃんをも~っと可愛くしてあげるね♪」

「え?…」


そういって美鈴が制服のポケットから取り出したのは、ハートの形が刻み込まれた、可愛らしさを強調するデザインのヘアピンが二つ。


「ほら、涼羽ちゃん。じっとしててね♪」


一度涼羽から離れて、少し距離を取ると…

涼羽の顔の左側にある分け目を基点に、後ろのものを覆い隠すカーテンのような前髪を開く。

そして、その開いた状態を固定すべく、取り出したヘアピンを使って、涼羽の顔を露にする。


どうみても恥らう美少女にしか見えない涼羽の顔。

その顔の左半分が、完全に露な状態となってしまう。


「…は、恥ずかしいよ…」


もうひたすら恥らうことしかできない涼羽。

そんな涼羽に、美鈴の頬がさらに緩む。


「後は…こ~んなに綺麗な髪なんだから…えい♪」


背中まで伸びていて、飾り気のないヘアゴムで一つに束ねられている涼羽の後ろ髪。

その後ろ髪を束ねているヘアゴムを、涼羽の髪から取り去ってしまう。


抑えるものがなくなって、綺麗に霧散する涼羽の後ろ髪。

さらりとして、艶のいいその髪が、涼羽の小さく細い背中に広がって…

まさに清楚な美少女を演出するかのように、重力に従って、真っ直ぐに垂れ下がっていく。


「うわ~…涼羽ちゃん可愛すぎるよ~」


美鈴の目の前にいる涼羽…

まさに、大和撫子を思わせる…

黒髪セミロングの、清楚で貞淑な美少女そのものとなっている。


普段は見ることのできない、涼羽の童顔な美少女顔。

校内でもトップクラスの美少女である美鈴ですら羨んでしまいそうになるほどの。


そんな涼羽の顔が、可愛く飾り付けられたヘアピンによって、露になっている。


「…み…見ちゃ…やだ…」


自分のこんな姿を見られることで、その身を溶かされそうなほどの羞恥を感じてしまっている涼羽。

もう目線を合わせることもできず、ひたすらそっぽを向いてしまっている。


それでも、儚い言葉での抵抗は続けてしまうのだが。


だが、美鈴にとっては…

いや、誰が見てもそんな涼羽の姿は、見ている者の加虐心を煽るものにしかなっておらず…

そんな涼羽を見て、美鈴がこれ以上の我慢ができるはずもなく…


「~~~~~涼羽ちゃん可愛すぎ!!」


自分と同じ制服に身を包んだ、クラスメイトの男の子の身体を、ぎゅうっと抱きしめてしまう。

そして、その頬に頬ずりまでしてしまう。


「!!や、やっ…み、美鈴ちゃん…」

「も~…なんでこんなに可愛いの~?涼羽ちゃんたら~」


あまりにも可愛すぎる涼羽に、もはやデレデレの美鈴。


もうこれでもかというほどに、涼羽にべったりと抱きつき…

ひたすらに涼羽の可愛らしさを堪能してしまっている。


「み、美鈴ちゃん…お願いだから…離して…」

「や。そんな意地悪言う涼羽ちゃんなんて、絶対に離してあげない♪」


そういって、ついには涼羽の羞恥に染まった幼げな頬にキスまでしてしまう美鈴。


もうどう見ても女の子同士の行き過ぎた愛情表現になっているその光景。

それは、涼羽が恥ずかしすぎて涙目になるまで、続くこととなった。

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