7
次の日の早朝、ある老人が小屋を訪ねてきた。
その老人の身のこなしはとてもVENNYに住んでいるようには見えなかった。黒いハット帽に黒いスーツを着て白い手袋と革靴を履いていた。どれも汚れやシワひとつなかった。長く伸びた白いヒゲは綺麗に整えられていて、華奢な眼鏡をかけている。LASでもかなり裕福な所に住んでいそうだった。
績はその老人を前に少し瞬きをみせた。老人は帽子を取るとこう言った。
「突然の訪問失礼致します。こちらに虹乃 績様は居られますでしょうか」
「えっと・・・・・・僕ですが」
空縫は話し声が聞こえたのか裏口から少しドアを開けた。
「おお、貴方様が緋莉様のお坊ちゃんですか」
「お坊ちゃんて・・・・・・あのどうして僕のことを?」
突然のことに困惑している績はその老人に問いかけた。
「これは失礼しました。伊佐地 樹という方はご存知でしょう?」
「はい」
「その方から貴方様がこちらに居られると聞いたので、失礼を承知で尋ねてまいりました。私は貴方様のお父様である
「蒼子 峡・・・・・・あ、あの。僕の父親って」
「そうでございます」
ますます績の頭は混乱していた。言われたことを何度も頭の中で唱えるように考えた。
「流石に戸惑っているのでしょう。まずはこれをお読みになってください」
老人は績に白い封筒を渡してきた。
「これは?」
「峡様からのお手紙でございます。とにかく一度これに目を通していただきたい」
「僕のお父さん・・・・・・??」
績は戸惑いながらもその封筒から取り出した手紙を読み始めた。
その頃、空縫は裏口のドアをそっと閉め空を見上げ目を瞑っていた。今日も雲一つない良い天気だった。菜園には何匹かの蝶々がヒラヒラと躍るように舞っていた。
手紙にはこう書いてあった。
――突然の手紙にきっと驚いていると思う。お前の心境を考えると胸が痛むが私のことを書かねばと思う。お前の母親である緋莉とは14年前に出会いそして付き合っていた。しかし、結婚を間近に緋莉は私の前から消えてしまった。私は探し回ったがその時は、見つけ出すことができなかった。理由を知ることもなく消えていった緋莉を私はずっとどこかで気にかけていた。すると、最近になりある一通の手紙が届いた。そこには緋莉が亡くなったことが書いてあり、そして、一人の息子がいることもその時わかったのだ。年齢も書かれていて、お前が13歳だということを知った。その時ハッとしたのだ。丁度、緋莉が消えたのもそのくらいの時期だった。もしかしたらその子は私の息子ではないのかと。私は居てもたっても居られず、お前達のことを調べた。今、VENNYにいること。色んな情報を頼りに今回お前を見つけ出すことができた。本当は私から尋ねたかったのだが、なにせ仕事が多忙な上、時間が取れなかった。そこで私の使用人を行かせたのだ。短い文ですまないが、一度こちらへ遊びにきてはくれないか。お前のことを色々知りたいのだ。もちろん私の事ももっと知ってほしい。どうか私のわがままを聞いてほしい。いい返事を待っている。 蒼子 峡――
績は手紙を読み終えると、眉を顰め持っていた手紙を強く握りしめた。
「績様、どうでしょうか。一度、峡様のお屋敷に来られてはいかがでしょうか」
「あの・・・・・・突然そんなこと言われても僕は・・・・・・僕の家はここだし、これからもそうです。だから・・・・・・」
バタン!!
突然裏口から大きなドアの開ける音が聞こえた。
「行きます!! な? 行くだろ??」
「空縫!?」
「あの、お願いします。こいつをその・・・・・・連れて行ってやってください」
「空縫! 何言ってんだよ! それは僕が決めることだし、君にとやかく言われることじゃない」
「いいから!! もうさ、いい加減うんざりだったんだよ。お前はほんと世話が焼けるしさ。父親が見つかってよかったじゃないか。これでお前もこんなひもじい生活をおくらないですむし、俺も肩の荷が軽くなる。お互いいい事尽くめだ」
「おい、そんなの冗談だろ?? 昨日言ってたじゃないか、あれは嘘だったのか??」
「まぁ昨日の俺はちょっとおかしかったんだ。本当のこと言うと、俺はお前と居たくないし、一人が好きなんだ」
「そんなの嘘だよ!!」
「なんでお前が嘘だったわかるんだ。俺は本音を言ったまでだ」
空縫の強引で冷ややかな態度にとにかく績は焦っていた。なにがしたいのかわからなかった。
「では、そちらのご友人もそう言っていることですし、今からではどうでしょうか。峡様はまだお仕事ですが、夜には帰ってこられます。そこで色々会話をしてはいかがでしょう」
「はい! お願いします」
「空縫っ!!!」
空縫は勝手に決めていき績を困らせた。
そして、強引にもその使用人の車に乗せられドアを閉められた。
「空縫!! 嫌だよ!! どうしてこんなことするんだ・・・・・・!!開けてください!! 僕は行きたくないんだ!!」
「おやめください! もう出発いたします。危険です」
一気に車は動き出した。車の窓からはどんどん小屋が小さく離れていくのが見えた。そしてそこには空縫の姿もあった。
「空縫・・・・・・どうして・・・・・・」
空縫は遠く離れていく績を乗せた車をじっと見つめていた。
「これでいいんだ・・・・・・あいつの為だ」
績は車の中でずっと考えていた。どうして空縫があんなことをしたのか。もしかして、本当に自分のことをうんざりに思っていたのか。一心に考えた。
そして突然にも2人に別れがきたのだ。それは本当に荒々しく状況を受け止めることさえ出来る時間はなかった。
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