6

 家に帰るころにはもう辺りはすっかり暗くなっていた。今日は天気が良かった。空は高く雲ひとつなく青空が広かった。光と沙那を連れていったテンはあまりにも2人には眩しかった。自分達の家に着きドアを開け家の中に入ると、暗がりからニャーと夜の小さな鳴き声が聞こえた。どことなくいつもの鳴き声が違う気がするのは、きっと光はどうしたのと2人に聞いているのだと績は悟った。すると績は小さくため息を付き、夜を抱えて頭を撫で始めた。


「夜・・・・・・ごめんな。寂しかっただろ。きっとお腹も空いてるよな。すぐ用意してあげるね」


 その績の投げかけにまた小さく夜は鳴いた。


 2人の間に会話はなく、ゆっくりと静かな夜が過ぎていった。夜はご飯を食べたらすぐ丸くなり寝てしまった。ふと績は小屋の隙間から黄色く明るい光が差し込んでることに気づいた。ドアを開けてみると、そこには大きな満月があった。今にも落ちてきそうなくらい大きく、近く感じた。績は少し吐息を出すと、空縫を呼んだ。


「なぁ、見て。満月だ」


 績の呼びかけに反応した空縫は外まで歩いてきた。

 

「おお、本当だな」

「綺麗だね・・・・・・」

「そういえば、お前と出会った時もこんな風に綺麗な月夜だったな。覚えてるか?」

「ああ、そうだったね。あの時の僕は・・・・・・」

「ブルブル震える子鹿みたいだったな」


 空縫は少し意地悪そうに笑った。


「そうそう! そんな風にいじわるなことばかり言うやつだったよな!」


 績は不機嫌に眉を寄せた。


「悪い悪い、だってあまりにもお前が可愛くてさ」

「おい! 男に可愛いはないだろ!」

「いや、だって反応がほんと・・・・・・くく」


 空縫は思い出し笑いをするように、お腹に手をおき笑い始めた。それを見た績は頬を膨らませ、顔を赤くした。

「そうそう、こんな風にほほ膨らませてさ! ははは!」

「もういいよ! そうやってからかってればいいだろ・・・!」

「ごめんって! 機嫌直せ」


 空縫はそっぽを向く績の後頭部に手を置いた。


「なぁ、こっち向いてくれ」

「断る!」

「いいから・・・・・・」


 その呼びかけにも耳を貸さない績を見兼ねて、空縫はそのまま後ろから績を抱き寄せた。


「く 空縫・・・・・・?」

「すまん、ちょっと急に怖くなった・・・・・・」

「怖い?」

「ああ、お前のことずっと守っていきたい」


 空縫の腕に力がこもる。


「な、何だよ急に・・・・・・光のことか・・・・・・」

「俺達は一心同体だ。どちらかに何かがあれば道連れだ。もし、俺になにかあってお前に・・・・・・」

「前の僕みたいなこと言ってるね。急に弱気になったのか?」

「俺だって、たまにはそういうときだってある」

「大丈夫だ。僕はずっと君のそばにいるし、何も起きやしない」

「慰めにしては都合のいい言葉並べるんだな」

「何だよその言い方は!」

「だってそうだろ。この先ずっと一緒にいれるとは限らないし、なにか起きないとも限らない。そんなの誰にもわからないんだ」

「そうだね、誰にもわからない。でも、ずっと傍にいることは確かだ」

「妹もそう言ってた・・・・・・」

「空縫!!」


 績は益々落ち込んでいく空縫を見兼ねて空縫の腕を掴むと向かい合わせになり、俯く顔を下から覗き込んだ。


「君らしくないぞ?」

「俺らしいってなんだよ・・・・・・」

「君らしいって言ったらそりゃ、強くて賢くて大人で冷静で・・・・・・それから」

「もういい、そんなの上辺だけさ。本当の俺はお前が思って言うように強くも賢くもない。ただのガキさ」

「ああ言えばこうなんだな。今、君に何言ってもダメなようだ」

「悪かったな、お前のように素直じゃないんで」


 その言葉を聞くと績はゆっくり空縫を抱きしめた。


「績?」

「怖いのは僕も同じだ・・・・・・光のことでいろんなことがわかり始めたけど、どんどん現実味が増して、この先どんなことが起きていくのか考えると不安でしかたない。だから一緒さ。君がガキでも弱いわけでもない。僕も一緒なんだよ」

「績・・・・・・」


 空縫は瞳に涙を溜めていた。今にも落ちそうになりかけたとき、空縫は上を向いた。


「悪い! かっこ悪いとこ見せちまったな」

「別に今更カッコつけるような仲でもないだろ?」


 績は少し微笑み空縫を見た。


「そうだな。もう大丈夫だ」

「ああ、ありのままでいいんだ」


 2人は並んで月を見ていた。今にも届きそうなその月は明るく2人を照らしていた。

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