3
玄関の外で待機していたお爺さんは沙那の泣き声に気づき慌てて家へ戻ってきた。心配そうに沙那に駆け寄り抱きしめ背中を擦った。
「どうしたんじゃ、そんなに泣いて。お爺ちゃんに言ってみろ。なぁ、大丈夫だから」
「お爺ちゃんごめんなさい、私・・・・・・私・・・・・・」
沙那は大粒の涙をボロボロと流し、お爺さんの胸に顔を埋めた。お爺さんの胸で泣き声が篭もる。
「よしよし・・・・・・お爺ちゃんがついてる。だからそんな泣かないでおくれ」
もう昼過ぎだった。雨は来る前よりも強まり外から雨粒の音が聞こえた。時はゆっくりと進むように部屋には雨音と沙那の泣き声だけがこだましていた。
沙那の泣き声が啜り泣く方に変わると、空縫はテーブルにあったコップに水を注ぎ沙那に渡した。沙那はゆっくり空縫の顔を見ると、持たれたコップに手を伸ばし口にもっていった。空縫は沙那の顔を覗き込み大丈夫そうなのを見ると質問した。
「聞くが、お前の病気ってなんだ。治るのか?」
沙那は持っていたコップを抱えるようにした。残りの水がユラリと動く。蒼白い顔は沈痛な色を浮かばせる。
「それが・・・・・・原因は不明なの。お爺ちゃんのLASにいる知り合いでお医者さんがいて、その方に診てもらったんだけど、わからなかった。一応お薬は貰ったけど、吐気止めよ」
それを聞くと空縫は眉をひそめ、もう一度沙那に聞く。
「吐気意外になにか症状は出てるのか? 例えば吐血とか・・・・・・」
「いいえ、ないわ」
「いつから体調が悪くなった?」
「えっと・・・・・・でもここ最近のことよ。時々すぐれない時もあったけれど」
空縫は唇を噛み、なにかが引っかかるように表情を変えた。
「光は最近血を吐いてる」
「え」
「目の前で見たんだ。血を吐くとこを」
「も、もしよ。わたしの病気が原因で、今、彼がなにかしら感じているのであればわかるわ。でも、血を吐くって・・・・・・エニシだからといって目に見えるような症状は出ないはずよ。例えば彼自信が病気じゃない限り・・・・・・!? まさか!!」
沙那に突然、動揺が走った。部屋の中が突然時間を止めたようだった。
「そうだ、もしかしたら光自信が病気にかかってるのかもしれない」
空縫は顔をしかめ強く目を瞑った。沙那は憂わしげな顔で何かを考えているようだった。
「そ、そんな・・・・・・」
績は2人の会話を聞くと危惧するように眉に力を入れた。
「績、帰ろう。光が心配だ。沙那、色々わかったらまたここに来る」
「わかったわ。待ってる」
空縫の忙しない話し方に重たい空気が一変した。時間の流れる速度が急に変わったようだった。
「良かったらこれ、持っていきなさい」
お爺さんは2人に傘を差し出す。
「平気です。ありがとうございます。行くぞ、績!」
空縫はそう言うと、2人は外に飛び出した。雨は思ったより強かった。績は走ってる道中、雨を凌ぐのにちょうど良さそうなダンボールを道の片隅で見つけた。それを2人で頭の上に持ち急いで小屋へと向かっていった。
小屋に着く頃には雨は弱まっていた。雨雲で覆われた空の隙間からは太陽の光が
2人は小屋のドアを開け放ち中へ入ると、そこには信じられない光景が待っていた。
「光!!!」
2人は光に駆け寄った。側にいた夜がニャーと鳴く。光は口から血を流し倒れていた。空縫は慌てて光の胸に耳を当て心臓の動く音をきいた。
「大丈夫だ、死んでない」
空縫は少しほっとすると、光に呼びかけた。
「おい、光! 目を開けろ!」
光の頬を軽く叩きながら呼びかける。すると、瞑っていた目を薄っすらと開けた。
「光! 大丈夫か?」
「空縫・・・・・・俺は一体」
光の少しかすれた声が小さく発せられた。
「績、水を持ってきてくれ」
績はそれを聞くとすぐさまコップに水を注ぎ空縫に渡した。
「とりあえずこれを飲め」
空縫は光に水を飲ませた。光はゴクンと喉を濡らすように一口飲むと、また苦しそうに咳き込み顔を伏せ、側にあった毛布をググッと掴んだ。
「なぁ、光。お前のエニシに会ってきたぞ」
光はゆっくりと顔を上げる。少し驚いた表情をみせている。そして、小さくこう言った。
「彼女はどうだった? やっぱり俺のこと・・・・・・」
「いや・・・・・・今から話すことちゃんと聞いてくれるか? 光に伝えないといけないことがあるんだ」
空縫は真剣な眼差しでそう言う。
「・・・・・・ああ、わかった」
光が頷くと、さっきまであったことを空縫はすべて話した。
「まさかそんな・・・・・・俺のほうが病気だったのか?」
「わからない、この症状のことも医者にちゃんと診てもらわないと」
「でも、俺には医者にかかれるような金もねーし。それにVENNYじゃ・・・・・・」
「彼女のお爺さんのLASにいる知り合いに医者がいるらしい、すぐにその人に診てもらえるよう頼んでみる」
「・・・・・・なぁ、空縫。ごめんよ・・・・・・」
「なんで謝る」
「この前、俺が血を吐いたとき、それまで体調は悪くなかったって言ったけど。前からあまり良くなかったんだ。でも、血を吐いたのはあれが初めてでまさかと思った。俺は馬鹿だ・・・・・・」
「そんなこと気にするな。気をしっかり持つんだ」
光は涙を溜めて身体を震わせた。空縫はそんな光の肩を支えるようにして、また寝床に休ませた。すると、そろそろと夜が光の元へ行き、寄り添うようにそこで身体を丸めた。
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