6 世界一強い女と世界一か弱い男 その3

 体育館裏を目指す。そこに取りのされたはずの星野が気になっていた。

 体育館裏に着くと、星野はまだそこにいて、泣きくずれていた。

「な、な、泣いてなんてないからねッ!」すすり泣きながらも、強がる星野だった。

「泣いたなんて言ってないだろ」星野のそばに近寄る。どうせオレには、なにもできないことはわかっていたのに、そうせざるおえない。

「目にゴミが入っただけだからねッ!!」真っ赤に充血した目で睨まれた。

「わかったわかった」

 その瞬間だけ、星野の顔がとてもいとおしい存在に思えた。しゃくりあげながら涙をこらえている姿は、まるで子供だった。頬をつたう涙を懸命にぬぐい取って、泣いていることをかくそうとする姿も、けなげでかわいかった。

 だから、ごく自然に星野の肩を抱きしめていた。

「お前はよくやったよ。思いっきり泣け」

 頭をやさしくなでて、抱き寄せようとする。

「な、な、な、なっ」真っ赤な果実のように顔を赤らめる星野だった。

「なぁ、オレじゃダメか? 友達になってやってもいいんだぜ」

「なにするのよッ! ダメに決まってるでしょッ!!」

 信じられないくらいボッコボコに殴られた。

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