3 シロちゃん大好きクラブと口なし女 その3

「結局、星野さんとふたりっきりになれなかったね」

 今日の授業が終わって放課後になったとたん、間城がガクッと肩を落とす。

「そんなこと言って、星野に声すらかけてないだろう」

「だって、いざとなったら、その勇気が……」力なく目を伏せる間城だった。

「まだ放課後があるだろ。あきらめるな」

「でも、星野さん授業が終わるとすぐに帰っちゃうよ」

「あとをつけるんだよ」そっと間城に耳打ちする。

「さすがにそれは……」

「大丈夫、バレたら熱川みたいにびっくりさせようと思ったと言えばいい」

「そうだね!」一瞬で間城の顔が明るくなる。

 バカ。その言いわけが通用するのは、世界広しといえども、お前だけだよ。

 そんなことを話しているうちに、星野が教室の戸をくぐりぬけようとする。

「ほれ、早くあとをつけないと、見失っちゃうぞ」

「う、うん」速やかに帰宅の用意を済ませると、間城は立ち上がった。

「行ってらっしゃい」手を振って見送った。

「あれ、江久保は一緒に行ってくれないの?」オレの服の袖をいじらしくつかむ間城。

「なんでオレが行くんだよ。ふたりっきりなるのが目的だろッ!」

「途中まで行ってくれない?」上目使いで見つめてくる。

「今日は用があるから、無理だ」すげなく断る。

 ホントは星野をストーキングするのが恐ろしいだけなのだが。星野にバレたら、なにされるか、わかったもんじゃないからな。

「そんなこと言わず、行こうよ。ね、ね、ね」服の袖をしつこくひっぱる間城。

「ダメだダメだ。ぜったい……って、わっ、わっ、わっ」

 なんの前触れもなく、地球の重力に解放されたように体が宙に浮かぶ。

「わっ、すごいね。黒井くんて力持ちなんだ」

 どうやら黒井にかつぎ出されてるみたいだった。がっしりとした感触を背中に感じる。

「お、お前どうやって?」

「少し乱暴だが、ほしいちごを見失ってしまいそうだったので強硬手段に出た。あんまり暴れると落ちるから、おとなしくした方がいいよ」

 黒井に持ち上げられたまま、教室の外まで運び出された。その間、ずっと天井にぶつかりそうだった。

「あれ、星野さん、どこに行ったんだろう?」

「おい、江久保。そこから星野の姿見えないか?」すぐ下から黒井の声が聞こえてくる。

「天井しか見えない。高すぎだ」

「しかたない。少し下ろしてやるか」

 視線が下がると、黒井の顔が間近に見えた。ケガでもしたのか、黒井の鼻には絆創膏が貼られている。

「なんでお姫様だっこなんだ!?」

「ちぇっ、江久保がぐずぐずしてるから、見失ったぞ」

「どうでもいいから早く下ろせ下ろせッ!!」黒井の首につかまりながら声の限りに叫んだ。

 下校中の生徒が大勢いる前で、とんだ羞恥プレイだった。

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