5月第2木曜日
3 シロちゃん大好きクラブと口なし女 その1
今朝、登校すると、うちの教室からとんでもなく下品な声が聞こえてきた。
だれかのどなり声だった。
「返事しろッ! 口なし女!!」
そこでオレが見たのは、星野の席に向かって吠えている狂犬、ではなく、負け犬のように口汚く吠えてる熱川の姿だった。
「あ、江久保、おはよう」そんなとき朝のあいさつなんかをのんきに述べたのは黒井だった。
「おい、黒井。なにがあったんだ?」
「急に熱川がほしいちごの前までやって来て、間城のことが好きなのか、と強引に問いつめはじめたんだよ」
瞳を輝かせながら黒井は、嫉妬に狂う女こと熱川を観察していた。
「そうか、あの様子だと間城はまだ登校してないみたいだな」
熱川と星野の周りを数人の生徒が取り囲んでいる。ちょっとした見せものになっていた。
「ささっと答えろッ! シロくんのこと好きなんでしょ!?」
あさましい言葉使いで熱川が星野を責め立てる。
「…………」それなのに、いつも通りむっつりと黙りこむ星野だった。
「好きなのね好きなのね? シロくんのかわいさにキュンとしない人なんていないんだから!」
「こいつ、間城のことキライだぞ」
「やっぱり好きなのね、ってキライなのッ!? てゆうか、なんで江久保が答えるのよ!」
「お前がうるさいからだよッ!!」
熱川の大声があまりにも耳障りだったので、星野の代わりに答えてしまった。今にも取っ組み合いのケンカをしそうな勢いの熱川をなだめようとする。
「朝からみんな迷惑してるんだ。少し落ち着け」
「なによ、ブサイクのくせに邪魔しないで!」
「こんな派手に騒ぐなんてお前らしくないぞ。いつもはもっと陰湿でネチネチしてるのに、どうしたんだよ?」
「これは様子見のジャブよ。この口なし女、自分のことなんにも話さないから、いったいなに考えてるのかわからなくて不気味なのよ」
「だからって、自分を見失っちゃどうにもならないだろ。お前の武器は、いじめた相手が自殺してもなにもやってないと言い張ることができる、その面の皮の厚さだろ」
「そんなに厚くないわよッ! だいいち、いじめた相手が自殺したことなんてないわよ。適当なこと言わないでッ!!」
「たしかにお前がいじめたという証拠は一切残ってない。みごとな完全犯罪だ」
「だれも死んでないわよ。人を勝手に殺人者扱いするなッ!」
「とにかく落ち着け。星野は熱川が思ってるよりもずっとわかりやすい性格なんだから」
「なんでそんなこと知ってるのよ?」
「この前、宇宙人から人の心が読める能力を授かったんだ。だから、だれがなにを考えてるのか、全部わかるんだぜ」
「はぁ? ついに顔だけじゃなく頭までおかしくなっちゃったぁ?」
「お前ほどおかしくなっちゃいねえよ。そのガラの悪い言葉使い早く直さないと、間城が来ちまうぞ」
「平気よ。SCの部員が校門を見張ってるから、シロくんが来たら真っ先にケータイが鳴るの……ってケータイ、自分の教室に忘れてきちゃった」
熱川がそう叫んだ瞬間、実にタイミングよく教室の入り口から聞えてきたのは、間城の声だった。
「みんな、おはよう」
「し、シロくん、おはようございます」
それまでつり上がっていた熱川の眉や目が垂れ下がり、逆立っていたお下げまでがゆらゆらと揺れる。熱川の豹変ぶりはもう達人の域に達している。
「なんでみんな星野さんの周りに集まってるの?」
間城がそう言うと、なにごともなかったようにオレたちを取り囲っていたヤジ馬たちが去ってゆく。
「べ、べつに私なんにもしてないわよ。ただ星野さんと仲良く話してただけだから」
「あ、熱川さん。だれに向かって言ってるの?」
「ひ、ひとり言よ」
「そうなんだ。あい変わらず変な人だね」
「うっ、また変な人扱いされた。どうせ私なんかシロくんのことびっくりさせようと思って、せっかく変装してあとつけたのに、警官に職務質問されちゃうようなバカな女なのよ」
「ごめん、あのときあやしい人につけまとわれてると思ってつい交番に助けを呼んじゃって。でも帽子とサングラスとマスクとコートをしてたから、だれだかわからなかったんだよ」
「世間ではそれをストーカーと呼ぶ」はっきりと事実を宣言してやった。
「江久保くん、少し黙っててくれない?」ひきつった笑顔でぐりぐりと足を踏まれた。
「熱川さんは星野さんとなにを話してたの?」
「えっと、それは女の子同士の会話だから言えないの」
「間城のこと好きなのかって、熱川がほしいちごに訊いてたんだよ」絶好のタイミングで、黒井が会話に割りこんだ
「えっ!?」黒井の無邪気な一言に、間城の顔が真っ赤になったまま固まった。
「黒井くーん、転校間もないからしかたないのかもしれないけど、少しは空気読む努力した方がいいわよ。でないと、命がいくつあっても足りないから」
熱川の拳が炸裂した。それは間城が固まっている間、間城の死角から黒井の鳩尾を的確に打ち抜いた右ストレートだった。
「あらどうしたの? 黒井くん、気分でも悪いの?」
腹を抱えてうずくまる黒井からうめき声はまったく聞えてこなかった。あい変わらず、惚れ惚れするくらいスマートな手口だ。
「いや、なんでもない」
黒井はゆっくり立ち上がると、うっすらと笑みを浮かべる余裕さえを見せた。
それを見た熱川がこっそりとオレにささやく。
「やけにぶよぶよした手ごたえだと思ったら、服の下に巨大なゼリーでも隠し持ってたのかしら?」
「相手が悪かったな、熱川。あいつに普通の攻撃が効かないことは一度、戦ったオレがよく知ってる」
手のひらになめくじ宇宙人のヌルヌルとした感触がよみがえる。
「江久保がそう言うくらいなら、要注意人物としてチェックした方がいいわね」
熱川が手帳に書きこんでいると、ようやく固まっていた間城の口が動き出す。
「そ、そ、それで、星野さんは、なんて答えたの?」
「それがいくらお願いしても答えてくれないの。私の訊き方が悪かったのかしら」
うーん。言ってることが合ってるだけにだれもツッコめない。
「そうなんだ。でも熱川さんはどうしてそんなことを訊い」
「シロなんてキライ」
「ええッ!!?」星野の突然の言葉に間城の体が凍りついた。
「あんたなんて大キライッ! ささっと周りにいる奴ら引き連れて、あたしの前から失せろ!!」
みるみるうちに間城の顔が土気色に染まる。口から泡が吹き出て全身がガタガタと震えさせ、オレの方に倒れかかってきた。
「おい、間城、大丈夫か?」
「川が……遠くに川が見える」
「落ち着け。それは三途の川だ。渡ったら死ぬぞ」
「この口なし女! シロくんがショック死したらどうすんのよ!!」
「そんなの知るかあぁッ! さっきから、あんたたちうるさいのよッ!!」
「いいぞいいぞ、もっとやれ!」
「ふたりとも落ち着け。黒井、ふたりをはやしたてるな」
ふらつく間城を黒井に任せ、がなり立て合う星野と熱川の間に割って入る。
「どけっ、ブサイク! あんなこと言ってホントはシロくんのこと好きなのよ」
「あんな、なよなよした情けない男のどこがいいのよッ!」
「シロくんをバカにするな――ッ!!」
「やめろっ、熱川。みんな見てるんだ。ここで騒いだら、先生に告げ口されるぞ」
いつの間にか、多くの生徒が寄り集まっていた。他のクラスの人の顔までチラホラと見える。
「で、でもシロくんが……」
「間城のことはオレに任せろ。星野が言ったことはウソだって言ったら、すぐに元気になるさ。もうすぐ授業のチャイムがなるから、早く自分の教室に戻れ」
「わ、わかったわよ。口なし女、あとで覚えてなさい」
悪役らしい決まり文句を残して熱川が去っていく。
「ほら、みんなも戻るんだ」ヤジウマたちは渋々ながら散らばっていった。
「おい、縁!」
その場から離れようとした瞬間、オレの名を呼んだのは星野だった。
「なんだよ? 失せろって言ったのはお前だろ」
「なんであたしがシロのことキライだって知ってたの?」
「だから、言っただろう。宇宙人に人の心が読める……」
「そんな冗談があたしに通じると思ってるのッ!」
「ちぇっ、本当のことなのに、だれも信じてくれない」
「ささっと答えなさいッ!!」
「なんとなくだよ、なんとなく。オレも……お前と同じで間城のことキライだから、わかるんだよ」とっさに口から出た、でまかせだった。
「ウソ。あんたたち仲がいいじゃない」
「仲のよいフリをしてるんだよ。本当は間城なんか大キライだ」
うまいウソをつくコツは真実を織り交ぜることだ。
「なんでシロと仲のいいフリなんてしてるの?」
「そうしないと、熱川だけじゃなく学校中の女子全員から嫌われることになる」
「あきれた。みんなに嫌われたくないからウソついてるの? バカじゃない」
「バカなのはお前だ。本当のことをバカ正直に話しやがって、これで学校中の女子を完全に敵にまわしたな」
星野のそばにいるだけで教室にいる女子全員から、殺意のこもった視線を感じる。
「あたしはあんたみたいに、他人のご機嫌なんか取らないの」
「あいにくオレはお前みたいにプライド高くないんだよ」
「プライドが高いのはどっちよ。本当はみんなに嫌われるのが怖いんでしょ、偽善者さん」
「オレはみんなによく見られたいから偽善者をやってるんじゃない。間城をだますためなら、どんなことでもやってやる覚悟があるんだ」
「なに開き直ってんの? 結局、みんなにかわいがられてるシロに嫉妬してるんじゃない」
「プライドがないから、開き直れるんだ。プライドのあるヤツには一生できない技だよ」
「ふーん。プライドがないと見せかけることが、あんたの唯一のプライドなのね。かわいそうな人」
「なにひとりで納得してんだよ」
「うるさいッ! もう用はないから、早くあっちへ行けッ!!」
「はいはい、言われなくたって行きますよ。お前と話してるだけで、みんなから裏切り者扱いされるからな」
自分の席に戻ると、オレを待っていたのは間城を抱えこんだ黒井の姿だった。
「なぁ、江久保ってほしいちごと仲がいいの?」
「なんでそうなる? 星野と仲いいヤツなんてこの学校にはいないよ」
「だって、江久保のこと『縁』って呼び捨てだったよ」
「星野はだれでも呼び捨てなんだよ。『星野』と自分は下の名前で呼ばれてるくらいから、他人を苗字で呼ぶのがイヤなんだと。間城を『シロ』と呼ぶのはあいつぐらいだな」
「でも、ほしいちごとあんなに長く話してたじゃない。さっきまでは熱川がどんなに話しかけても、返事もしなかったのに」
「あれは星野が勝手に話しかけてきたんだ。……ん、待てよ。言われてみれば、その通りだな。他人と話すのがキライなヤツが自ら話しかけるか。いくら星野が間城をキライだということをオレが知っていたとしても、少しおかしくないか?」
「急にどうしたの?」きょとんした顔で黒井が質問してくる。
「わかったんだよ。星野は熱川から『口なし女』って言われるほど無口な女じゃないってことがな」
「たしかにそうかもしれないけど、それがどうしたって言うんだよ?」
「つまり、星野はみんなと話したくないんじゃない。わざと話さないんだ。みんなに無口だと見せかけて、だれとも接さないことを自然に見せる状況を創り出している。他人のご機嫌なんか取らないなんて言ってたくせに、周りを気にしている証拠だ。へへっ、それ見たことか。他人のことを利用せずに生きてる人間なんていないんだよ。人間は他のだれかを踏み台にしなきゃ生きていけないんだ!」
「非常に興味深い内容だが、きみが言うことにはひとつ矛盾がある」
「なんだよ?」
「きみが言うとおり、ほしいちごは無口な女じゃないかもしれない。それどころか、他人と会話をするのはキライじゃないかもしれない。でも、ほしいちごが世界中の人間がキライだというのは本当のはずだ。ハートホンでほしいちごの心の声を聞いただろう」
「なにかあるんだ。他人と会話をするのがキライじゃないのに、人間嫌いになる理由がさ」
「そんなややこしい理由なんてあるの?」
「そうだな。なにかあるんだと考えるより、なにかあったと考える方が自然かもしれない。つまり、無口な性格に変わるくらいのなにかが過去にあったんだ。まずいな」片手で思わず自分の額をおさえる。
「そんな心配するような話じゃないと思うけど?」
「過去になにがあったのかは知らないが、星野の元々の性格は人間嫌いじゃないということになる。なんてことだ、クソォッ……」
「根っからの人間嫌いでないことがそんなに残念がるなこと?」
「ゼロじゃない。星野が元の性格に戻れば、人を好きになる可能性はゼロじゃないんだ」頭を抱えてうずくまりたい気分だった。
「ほしいちごと間城がくっつくことがそんなに深刻なこと? そんなことより、いい加減、間城をどうにかしてくれないかな。いつまで経っても目を覚まさないんだけど」
「よし、任せとけ」黒井に抱きかかえられてる間城の頬を、ここぞとばかりにひっぱたく。
すると、間城は意識がもうろうとしているのか、うわ言をぶつぶつとつぶやきだした。
「う~ん、好き、キライ、好き、キライ、いったいどっち?」
「しっかりしろッ! この前、星野の心の声を聞いただろッ!! 星野はお前のことが好きなんだよッ!!!」両手で間城の肩をわしつかんで、ブルブルと振りまわす。
「……そう……なん……だけど……どうして……あんな……ことを……」間城の顔がふたつに見えるくらい速く振り回す。なんて軽い頭だ。なにも入っていないのか!?
「みんながいる前だから星野は照れてるんだよ」
「……そうなのかな」
「相手がお前じゃ、恥ずかしくて言えないんだ」
「そんなにぼくってブサイクなのかな?」
ん? そうか、こいつさかさまホンのせいで自分をブサイクだと思いこんでるんだったな。
「みんなに間城のことが好きだと知られると変なヤツだと思われるから、星野はかくしてるんだよ」
「そんなにブサイクなぼくを好きなることって、変なことなの?」
「ブサイクは恋愛する資格がないんだ!!」涙ながらに言い切った。
この言葉が四年前、好きな女に告白したときに言われた、最悪の返事だった。
「江久保……ぼくのために泣いてるの」
間城は黒井の支えがなくても、ひとりで立てるようになっていた。
「うん? まぁ、そうだな」
間城の瞳からじわっと涙がこぼれ出る。
「江久保~、ぼくは負けないよ。ブサイクでも立派に生きていくよ!」
「わ、わかったわかったから、抱きつこうとするなッ!」
間城の体を両手で押しとどめ、できるだけ距離を取ろうとする。
「ごめん。でも、どうやったら星野さんの心を開くことができるんだろう。本当はいい人なのに、みんなから悪い人だと誤解されてるみたい」
間城もみんなが星野に向ける冷ややかな視線を感じ取っていたみたいだ。
「みんなも星野がいいヤツだということは心の中で知ってるよ。今日はさかさまホンをつけてないのか?」
「さかさまホン?」
「昨日、渡したイヤホンのことだよ」
「これ、さかさまホンって言うんだ」間城の手から、黒いイヤホンが取り出される。
「ほれ、つけてみろよ」
「うん、わかった」涙をぬぐって、間城はさかさまホンを耳に入れた。
それを見て、オレもさかさまホンと、ついでにハートホンを両耳に入れてみた。
間城に聞こえてる心の声→間城には聞こえてない本当の心の声
『星野好き』→(星野キライ)
『星野かわいい』→(星野憎い)
『星野愛してます』→(星野恨むぞっ)
星野に対するみんなのラブコールが、間城だけに聞える。
「星野さんて人気者なんだね。でも、それならなんで、みんな星野さんと仲良くしないのかな」
いくら単純な間城でも星野がいつもひとりであることに対して、疑問の声をあげずにはいられなかったらしい。
「しかたないだろう。間城のこと好きなヤツと仲良くするわけにはいけないんだよ。仲良くしたら、自分まで変なヤツ扱いされるからな」
本当は星野が間城のことをキライとか言ってバカにしたから、みんな怒ってるんだが。
「そんなのおかしいよ。本当はみんな星野さんと仲良くしたいのに、ブサイクを好きなだけで仲の悪いフリしなくちゃいけないなんて!」
「うん? まぁ、そうだな」珍しくいきり立つ間城の態度に気圧される形となる。
「自分の気持ちにウソつくことは自分にとっても相手にとっても幸せにはならないよ。ブサイクにだって恋愛する資格はあるんだッ!」
こいつ、自分のことをブサイクだと思ってるくせに、なんで卑屈にならないんだ?
「そうだな。でもお前が恋愛するためには大変つらい覚悟が必要になるんだぞ。それに、たえられるのか?」
「たえてみせるよ。好きな人のためなら、なんだって、できるんだ!」
「あのな、お前は恋愛をなにもわかっちゃいない。相手の幸せを願うなら、今のうちに身をひくのもありなんだ。このまま行けば、自分だけじゃなく相手を傷つけてしまうこともあるんだ。それどころか、みんなに迷惑をかけてしまうかもしれない。その覚悟があるのか?」
「そんなことはさせない。なにがあっても彼女を守ってみせるし、だれにも迷惑なんか、かけないよ」
「だからお前はなにもわかっちゃいねぇと言ってるんだッ!!」
握り拳をつくってまっすぐ見返す間城の姿に、ブチキレてしまった。
「人と人がつきあっていれば、裏では必ずだれかが傷ついてるんだッ!! だれにも迷惑かけずに生きていくなんてありえないんだよッ!!!」
「そうかもしれない。でも、やってみなければ、わからないじゃないか」
オレの迫力に一切動じることもなく、間城が言い返してきた。
「やってみなくてもわかるさ。人間は互いに傷つけあわないとわかりあえない動物なんだ。恋愛なんて、ただのケンカだ。相手の気持ちを支配したいからやるんだ」
初めて間城の目がそらされた。そして開きかけた口が閉じられる。
オレは勝利を確信した。
ところが、その確信は思わぬ第三者の言葉でくつがえされることとなる。
「だから江久保は恋愛しないんだな。自分が好きなることで、相手を傷つけてしまうことが怖いんだ」オレの心をかき乱したのは、いきなり乱入してきた黒井の言葉だった。
「うるさいッ! お前は横から口を出すなッ!!」
黒井を睨みつける。だが、悪意のある第三者は他にもいる。
クラス中の女子がとげとげしい視線をオレに向けていたのだ。刃物のように鋭い視線がオレの心を突き刺していく。
『シロやろうをいじめてください、イケメン』→(シロ様をいじめるな、ブサイク)
『もっとシロちゃんをいじめてください、イケメン』↓
(それ以上シロちゃんいじめるな、ブサイク)
『シロくんに謝らないでください、イケメン』→(シロくんに謝れ、ブサイク)
どいつもこいつもイケメンイケメンうるさいッ!!! そんなにオレよりも間城の方が大切か?
「江久保、なに熱くなってるんだ? やっぱりお前には偽善者は無理か?」
耳元で黒井にそうささやかれた瞬間、心に少しだけ余裕が生まれた。
そうだ。なに熱くなってるんだ、オレは?
星野にバカにされたことを気にしてるのか?
ちがう! ブサイクだと思ってるくせに普通の生き方を望む間城が気に食わないんだ。どうして身のほどをわきまえない? ブサイクだと思いこんでるなら、ブサイクらしく開き直って生きていけばいいじゃないか? オレのように。
そう自分に言い聞かせていると、それまで長い間、閉じられていた間城の口がやっと開かれた。
「江久保の言う通りだと思う。それでも、ぼくはあきらめきれないんだ」
落ち着け。間城が言ってることは、しょせん夢物語だ。間城と星野がつきあう可能性はゼロじゃないけど、限りなくゼロに近いんだ。そうだ。星野の性格が元に戻るなんて保証はどこにもないんだ。
間城に失恋というきびしい現実を味あわせてやる。
「ハァーッ」ため息をついて、あきらめた芝居をする。
もっと冷静になれッ! 頭に血がのぼるなんて、偽善者失格だ!!
「お前のあきらめの悪さにまいったよ。わかった、オレも協力する」
「江久保……わかってくれて、ぼくはうれしい!」ひとしずくの涙が間城の瞳からこぼれ落ちる。そのとき、周りから突き刺さる視線がさらに鋭くなった。
『江久保、シロくんを怒らしたな』→(江久保、シロくんを泣かしたな)
ううっ、ひどく誤解されてる。
とりあえずさっきみたいに抱きついたフリでもしとくか。
「江久保、抱きつかないでよ。気持ち悪い」間城は泣いていたから、さっきのみんなの心の声に気づいてないようだった。
「いや、間城が最初に抱きつこうとしたんだろッ!」
「そうだけど、抱きつかれるのは居心地悪いんだよ。自分から抱きつくのはいいけど」
「そういうもんか?」
「間城は甘えられるのに慣れてないんだ」黒井がまた口出しする。
「えっ、江久保、ぼくに甘えてるの?」
「ちがうッ! 余計なこと言うなっ、黒井ッ!!」
『シロくん、そんな男よりも私に抱きつかないで』↓
(シロくん、そんな男よりも私に抱きついて)
みんな勝手なことばかり言う。
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