第7話 初めての骨董屋

 ちょっと昔話をしましょうか。最初は生まれ育った仙台の話が良いですかね。


 と言って思い出すのは、初めて入った骨董屋さんに入った時のことです。高校3年生に上がる前、骨董屋の物語を書こうと、取材目的に行ったのです。書こうとしていたのは後の『白銀道をゆく』のことです。


 案内してくれた父は用事があったらしく、1人置いていかれました。店名も場所も忘れてしまいましたが、品のある老舗らしい店構えでした。勇気を出して扉を開けたのか、父が誘ってくれたのか、覚えていません。


 制服で入ったもんだから、腕組みした店主さんにじっと見られました。父と同じ年頃のご主人でした。話し掛けられず、並んだモノたちを必死に見ました。


 店主は高校生をさほど気に留めず、大きなお雛様とその後ろに屏風を飾り始めました。人形よりも屏風の方が覚えています。うぐいす色の和紙に金箔押し、きりっとした黒い縁取りでした。自分は小さな店内をとっくに1周していたので、ご主人の様子を見ていました。


 と突然、話し掛けられました。

「お宅、興味あるの?」

 無表情のご主人の問いかけに、縮み上がりました。まず、お宅って呼ばれたことない。まともな返事ができませんでした。


 そのうち父が戻ってきて、大人同士和やかに会話していました。店主の表情は社交的に違ったものでした。あの時、商売になりそうな客じゃなきゃ相手してもらえないんだな、と気付いたのでした。


 店を出て、結局何も聞けなかったと父に報告しました。いきなり色々聞くのは無理だろうと言われました。それもそうか。でももう1回骨董屋に行く勇気はありませんでした。


 あの時、取材していたら、もっと早く書けたのかもしれないな、と時々思い出します。でも今なら、大阪の小さなお店で「これはどうだ」と勧められても、何も買わずに出て行けます。図太さを得たのは、この後悔と経験のおかげなんですよね。

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