道標(結晶シリーズⅢ)
イヌ吉
第1話:夏休み
事の発端は、夏休みに二人でキャンプにでも行こうかとスケジュールを合わせていたときの、何気ない大竹の一言だった。
「あぁ、その土日は写真部の撮影旅行だからダメだ」
「え?」
「ん?」
大竹はただ単に「薬品を使う」という理由で写真部の顧問を頼まれただけの、名前だけの顧問だ。だが部活動で合宿をするというのなら顧問の引率は必須で、大竹が顧問として働くのは、備品の購入の手配と、学祭の時に顔を出すのと、夏休みの撮影旅行の引率だけと言っていい。本当なら部員達だって大竹のようなクソジジィに来て欲しくはないのだが、行けば行ったでアウトドアスキルの高い大竹は、意外と重宝されたりもする。
「待って、何それ。俺聞いてないよ?」
「あぁ、去年の夏はお前まだ山中のストーカーだったもんなぁ」
そう。去年の夏休み、設楽の目に大竹の姿はかけらも映っていなかった。設楽の目はひたすら山中だけを追っていて、どうしたら40日間という長い夏休みの間に、一目でも良いから山中を見ることが出来るかと、用もないのに学校に来てはウロウロしていたのだ。
ちなみにその時の大竹は、「うわ、今時珍しいくらいにまっすぐなストーカーがいる!!あいつこの先どうするつもりだ!?」と、好奇心満タンで設楽を見ていたのだが、それが今こんな関係になるなんて、人生って不思議だ。
「じゃあ去年もその撮影旅行に行ったの!?写真部って誰がいる!?」
「男子と女子が半分くらいか。まぁ俺は引率って言っても、現地で適当にその辺歩いてるだけだぞ?あいつらだって俺がいると面倒くせぇだろうし、山登りたいとかボート漕ぎたいとかキャンプファイヤーしたいとか、そういう都合の良いときだけ寄ってきて、後は俺ぼっちだよ」
はは、と大竹は笑っているが、冗談じゃない!旅行の引率なんて!!
「宿は!?」
「え?そりゃ一緒だけど」
「飯喰ったり風呂入ったりは!?」
「……それも一緒だけど……」
必死な形相の設楽に大竹が少々引き気味に返事をしていると、設楽はぐっと握り拳を握って宣言した。
「俺も行く!」
「はぁ!?」
「行く!絶対行く!」
設楽は何を思ったか、勝手に一人で盛り上がっているが、そういう訳にいくか!
「あのな、写真部の部活動なんだから、写真部員しか行かれねぇのは分かるだろ?」
「じゃあ俺も写真部に入る!」
「アホか」
「だって俺だって先生と旅行なんかしたこと無いのに、他の奴が先生と旅行なんて許せないよ~~~!!!」
「キャンプ散々してるから良いだろ!?」
「キャンプと旅行は違うだろ!!」
呆れたように設楽を見る大竹の冷たい目に、設楽はむ~~と唸って大喧嘩になったのだ。
そして懸案の夏休み。
大竹は何故か、東京から離れた信州の、
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