あとがき

 エッセイとは何だろう。辞書的な定義は置いておくとして、一言で言えば「実体験を書いたもの」になるのだろうか。

 単なるノンフィクションではなく、全てにおいて書き手の考えや経験が元になっていて、なおかつ読み手に何の押し付けもしない。もちろん中には壮絶な体験を綴ったものも多々あって、それはそれでとても興味深いのだが、個人的にそれらはどうもエッセイという感じがしない。もっと格調高い、紛う事なきノンフィクションというジャンルになる気がする。

 別にエッセイが格調低いと言うわけではなく、疲れた人が気軽にちょっと読めるような、毒にも薬にもならない文章こそが私にとってのエッセイじゃないかなと思う。


 そんなわけで私がこの連載で目指したのは、誰でも肩の力を抜いて読めるエッセイ、というものでした。実際に肩の力を抜いていたのは他ならぬこの私のような気もするけど。

 だらだらと思うがままに書いてきましたが、普段からこのようなことを思考しながら生きているわけではなく、基本的に何も考えずぼんやりと生活しております。単に、後から思い出して書き起こしてみたらこんなエッセイになったわ、という感じ。

 しゃべるのは全然得意じゃないのに、書いてみると自分でも「あー私ってこんな脳内してるのね」と新たな発見をするほど。口語と文語っていうのはやっぱり違うんだなあ、と再発見した次第である。

 そもそも友人との日常会話なんて、突き詰めれば芸能人かファッションか恋愛、もしくは内輪ネタのどれかに要約されてちゃうし。私だって知的ぶってますが相当アホですよ。「イェー」と「マジ」と「マジ?」と「ムリ」だけで会話したりしてるし。たぶん、あなたが道を歩いてて出会ったJKの平均値を出したらそれが私。逆に言えば、彼女たちも頭の中ではこういうこと考えてるのかもしれない。わかんないけど。


 このエッセイを書くにあたって、私が思う気楽で楽しいエッセイを何冊か読んでみました。

 なるほど実に楽しかったのですが、どれにも共通して感じたのは「ずるい!」という思いでした。

 作家の方々は揃いも揃って、業界の愚痴をこぼしたり、愉快な業界人と次々に会ったり、色々なところへ出かけたり体験しに行ったり美味しいものを食べたりしていた。そりゃエッセイなんだからそういう体験談を書いて当たり前なのだが、お金も時間もない、特殊な業界人の知り合いもいないこっちはそういうのを書きたくても書けないじゃないか!

 一週間も海外旅行に行ってりゃ書くことなんて山ほどあるだろうよ! 毎日好きなものを食べられる財力があるならいくらでも食レポできるだろうさ! ちくしょー羨ましい!

 というわけでやむなく私の何でもない日常を書くことになったのですが、色々思い出して書いてみると、くだらないとはいえ何かしらの出来事は日々あるんだなあ、と気付きました。

 むしろそういったものの方が気軽に読めるかもしれない、と前向きに考えることもできたり。(人はそれを都合のいい解釈と言う)

 読み返してみると自分でも中身のない話ばっかりだなーと思いますが、毒にも薬にもならないというコンセプトには合っているような気がします。


 それにしても、例の足を折ったMのことは書けて本当によかった。あんな出来事、年に一回も起こらないだろう。書いておかずに忘れたりしたらもったいないし。忘れることはまずないと思うけど。

 後日談として、Mはあのホテルビュッフェにちゃんと家族で行きました。オススメしたローストビーフサンドも自分で作って食べて美味かったそうです。よかったよかった。

 改めて思うのは、やはり美味しいものは人を幸せにできるということ。そこに関わる色んな人の意思が、食事というものを単なる栄養補給とは違う領域へと押し上げている。愛なんかなくても料理は作れると思うが、美味しいものを作ろうとする作業そのものがもう愛のような気もする。だからやっぱり私はグルメが好きなのだ。


 文章も、たぶん読む人を幸せにできる力を持っていると思う。

 ただ私はそんな大それた物を書くつもりはなく、あくまでプラスにもマイナスにもならない文章に拘ったつもりだ。

 だって生きてるだけでどっちの出来事も山ほど起こるのだ。だから、ぜーんぜん何も考えずに読める文章っていうのもアリだよなと思い、ここまで書き記してきたわけである。

 もちろん楽勝で書けたはずはなく、いけそうなネタを思い出してはメモする毎日。ひぃぃエッセイなんて書き始めるんじゃなかった、と思いながらの日々でした。ご褒美に神がそろそろカンバーバッヂ様と会わせてくれてもいいと思うのだが、いつ頃になるんだろうか。今から楽しみだ。


 さてさて。

 およそ一ヶ月あまりに渡ってお送りして参りました『のーないごろく!』も、これにて最終回です。私の脳内語録をあれこれ覗いていただいたわけですが、どこか一つでも「アホかこいつは」と笑えるポイントがありましたら何よりです。

 こんなに長いエッセイをここまでお読みくださりありがとうございました。

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