第18話
そろそろ人工知能が完全に人間を追い越す時期が迫りつつあるらしい。SFの世界が現実になろうとしているのだ。
人を超越した存在は、人では想像もつかないようなことを実現させてしまうのだという。ドラえもんが夢物語ではなくなる日が来るかもしれない。そうなると、我々が思い付くようなレベルのことなんて全て実現可能になるわけだ。
いやー、そんな日の到来に立ち会えるかもと思うだけで心がわくわくしますね。
人工知能が人類に牙を剥く可能性? えーと、見て見ぬ振りをする方向で。
というわけで現実がどんどん追いつこうとしているが、アラジンの魔法のランプや、ドラゴンボールのシェンロン、童話や神話に出て来る悪魔など、人の願いを叶える物語というのは古来より割とポピュラーだ。
この私もまた、子供の頃から何度も思ったものだ。ノンリスクで何でも叶うとしたら何を願うだろうかと。
大金持ちも当然考えたが、だったら超稼げるような凄い才能をもらった方が人生楽しくなるような気がする。世界中で大ヒットするミュージシャンとか。
不老不死系は、自分の周囲の人たちも不老不死にしてくれるかどうかがカギだ。でないと一人寂しく永遠の孤独を味わうことになる。でももし「そろそろ死にたくなったなあ」と思ったときに死ねないというのも困るので、百歳までめっちゃ健康で元気、ぐらいが一番いいのかもしれない。えらく現実的になってしまったな。たぶんどっかにいそうだぞ、そういう人。
結局、本当に叶えたい願いを「これ!」と決め打ちするのは難しそうだ。人生に役立ちそうなちょっとした何かをもらう程度が分相応かな。
それにしても、神が願いを叶えてくれるならともかく、これが悪魔だったりすると無理難題をふっかけてきたり魂と引き替えだなどと言い出すので注意が必要である。
「うーん、むにゃむにゃ」
「ミヤビ……目覚めよミヤビ」
「もうこれ以上は無理、死んじゃう、フォアグラ食べ過ぎたんだってばぁ……キャビアも」
「いい夢なのか悪夢なのかどっちだよ。さあ起きろ」
「ん……あれ、ここは私の部屋!? フォアグラは? キャビアは?」
「死ぬとか言ってたのにまだ食べるつもりだったのかお前は」
「いやー腹が弾け飛んでも本望かと思って。ていうかどちら様?」
「我こそは悪魔ミャービ。お前の願いを叶えるために魔界からやって来た」
「マジでか! いや待った、私別に魔法陣とか描いてないぞ。呼んでもないのに来たってことは裏があるな! さては魂をよこせとか言う気だろう!」
「いやいや大丈夫。暇だったから来ただけだし。本当に何でも叶えるだけ」
「よっし来た! えーっとね、じゃあね」
「ただし願いを6666個考えてくれ。その中から一つランダムで選ぶから」
「もうそれ拷問だろ! 思い付かないよそんなの! 無理無理、キャンセル!」
「あ、もう契約しちゃった。考えつかなかった場合は契約違反金として魂を」
「新手の詐欺じゃねーか! 助けて神様ぁぁぁ!」
こうして叶える叶える詐欺により私の魂は取られてしまうのだった。皆さんもお気を付けください。
ほとんど何の才能もない私なので、願いが叶うならやっぱり何かのセンスが欲しいなーと思うわけなのだが、文学以外で欲しい才能を聞かれてパッと出て来るのは料理のセンスだ。
グルメの申し子たる私なので自分でもたまーに料理はするのだが、センスがあるんだかないんだかよくわからず、作ると二割は美味しいが七割はごく普通、一割は不味いものが出来上がる。ただ、1パーぐらいの確率で「わあああめっちゃ美味い!」と自画自賛できるものが完成したりするので、これが常に作れる能力があったら本当に最高だと思うのだ。
しかし現実として神にしろ悪魔にしろ私に才能をくれるはずもない。だいたい、食べるのは好きだが作るのは結構億劫なのだ。
これでは将来料理人になるのは到底無理なので、やはり趣味と仕事は素直に分けて、誰かが作ってくれたグルメを食べるのがいいようだ。
そんなこんなで、私の願いは「美味しいものを食べたい」これに尽きる。
いやもっと具体的に言ってくれないと、と神は言うだろうが、漠然と、ぼんやりとした願いでもいいではないか。
そんなのは自分で叶えてくれよ、と悪魔にすら言われそうなので、私は今日もテレビのグルメ番組をチェックしまくり、友人が行ったという美味しいお店の情報を聞き、将来はパンケーキと紅茶が評判のカフェで床掃除をする人になろうかな、などとぼんやり思う。作らないのかって? だからセンスないんだもん、パンケーキ引っ繰り返すのって大変そうだしさあ。まかないで食べられるだけで充分っす。
そんな私であるが、ひとつだけ大好きなレシピを持っている。せっかくだからここでお教えしたい。
それはサラダにかけるドレッシングだ。しかし手の込んだものではなく、超簡単に作れるので暇があったら試していただきたい。
葉もの野菜なら何でもいいが、食べやすい大きさに切る、もしくはちぎる。ボウルに入れて、そこに、まずは塩と酸味系の液体(お酢とかビネガーとかレモン汁とか)を入れて欲しい。油を入れる前に、最初に水分を入れるのがポイントだ。酸っぱくなりすぎないよう、ティースプーン一杯もあれば充分。何なら塩だけでもいい。洗った野菜は濡れてるからね。その水分で塩を溶かすべく、まぜまぜする。
その次に油を入れる。オリーブオイルとかを、少しずつ入れてそのつどよく混ぜる。最終的に、お酢の3~4倍。こうすることで、とても美味しいサラダができます。一度おためしあれ。
うまいから。本当にうまいから。やって。是非やって。美味しくなかったら? それはもう市販のドレッシングを買ってきていただくしかあるまいて。最近のって美味しいからね……ふふふ。
さて、最後に料理センスのない私から、同じくセンスのない同胞の方々へ一つだけ料理のポイントを。
それは「格好付けない」ということです。テレビでプロが包丁を「スタタタタ」と高速で動かしているのは確かに格好いい。
しかしあれを真似するのは怪我の元でしかありません。
いいじゃないですか、のんびりでも。どうせ下手なんですから。
開き直ってゆっくりと丁寧に作業することをオススメいたします。以上、格好つけたせいで親指に消えない傷が残っているミヤビちゃんからのアドバイスでした。
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