第17話
生まれながらにして何らかの才能を持つ者もいれば、私なんぞは頭脳・肉体・芸術の全てのセンスを持っていないわけで、これこそが真の格差社会というヤツだろう。
まあ「我こそが現代の覇王なり!」的な生き方をするつもりはないので、テキトーに努力すれば多少は才能を覆せないかなー、なんて甘っちょろい考えで今日も生活しております。
しかし努力ではどうにもならないだろうと思っているものが一つだけある。
それは霊感だ。
才能なのか体質というべきかわからないが、これについては私は全く感じられない。
割と怖がりなタイプなので霊感なんてなくていいのだが、どういうわけか私の周囲は一度や二度は霊体験の覚えがある人ばかりであり、「ミヤビだけに霊体験がないのは当然であった。なぜならその身体は……アンドロイドだったのだから」という別の意味での恐怖をつい勘繰ってしまう。
そんなわけで霊の存在をあまり信じていない、というか怖いからあまり信じたくない私なのだが、じゃあ宇宙人とかUFOとかはどうなのかというと実はちょっとだけいると信じている。
いやしかし、はっきり言ってテレビでやっているようなUFO映像などは全てニセモノだと私は思う。夢があるのは否定しないが、なんかうさんくさいんだもん。そりゃま私はド素人なので本物があっても真贋の区別は付かないけれど。
とにかく私がUFOを信じている理由はテレビを観てではなく、私自身がちょっと微妙な体験をしたことがあるからなのだ。
中学の頃、テスト勉強で遅くまで起きていた私は「もうダメだ!」と頭がパンクしそうになっていた。まだ覚えるべきことがあるのに、脳が限界なのでこのまま勉強を続けていても記憶できそうにない……。
そう思った私は、逆にさっさと寝てしまい脳をリフレッシュさせ朝早めに起きて残りの勉強を片付けようと考えた。
ということでベッドに潜り込んだのであるが、こういうときに限ってなぜだか寝付けない。さりとて脳は疲れているので再び起き上がって勉強する気にもなれない。
早く寝なくては、と思えば思うほど余計に眠れない悪循環。私はしばらくベッドの上をゴロゴロし続けていた。
どれぐらい経った頃だろうか。
ようやく意識がまどろんできたそのとき、窓の外から電子音のようなものが聞こえることに気が付いた。
音楽ではないが不協和音というわけでもない、敢えて言えば「ピー」と「シュー」が混ざったような変な音だった。
誰だよこんな夜中に、と思いながらもそのまま寝ようとしたのだが、考えてみたら夜中の住宅街でこんな音が聞こえたことは一度もない。
気にはなったが早く寝たいので無視し続けていると、やがて音は止まった。やれやれと思っていたら今度は閉じていたはずの私の目に何か違和感を感じた。
仕方なく目を開けると、カーテン越しの窓の外がぼんやり明るくなったりまた暗くなったりを繰り返していた。
何だこれは。夜中だぞ。どっかで照明か何か点けてるのか? さっきの電子音といい同じヤツの仕業かな――と考えたところで、ふと思った。
ひょっとしてこれ……UFOじゃねえの?
一度そう思ったら、もうそうとしか思えなくなってしまった。
外の明暗は規則正しく変化を繰り返している。人がやっているならそんなことをする意味はないはずだ。やがて電子音が再び聞こえ始め、おいこれUFOがその辺でホバリングしてるんじゃないのか、と私はドキドキし出した。カーテン開けたら何かがいるかもしれない……!
しかし、しかしだ。
私は早く寝なくてはならない。テストで赤点取ってもUFOが責任を取ってくれるわけではないのだ。
ていうかその前にめっちゃ怖い。私のドキドキは期待ではなく恐怖によるものだった。カーテン開けて地球外生命体と目が合ったら、そのまま誘拐されるのではないか。
「ええい誰だ夜中に睡眠の邪魔をするのは!(カーテンをシャッ)」
「※☆¥$□♭●、〆#&*†♪≧¶……」
「えっ?」
「℃§@?」
「…………」
「…………ワ、ワレワレハ チキュウジンダ」
「絶対嘘だぁぁ!」
「ジャア、バチカン市国ジンダ」
「完全に嘘でしょバチカン人なんて聞いたことないよ! よりによってどこチョイスしてんの!?」
「ナゼバレタ」
「そりゃバレるよ、ていうかバレない方がおかしい」
「フーム チキュウノ知識ヲ聞キタイ コノ船ニ乗ッテクレ」
「いや、それはちょっと遠慮します……私忙しいんで」
「ダメ」
「待った、私を連れてくのは人選ミスだって! 社会の成績めっちゃ悪いんだからぁぁぁ……」
こうしてUFOに乗せられた私は、どことも知れぬ別の銀河系へと旅立つのであった。ほらめっちゃ怖いやん!
カーテンを開ける勇気がなかった私は、結局布団を被って全てを無視し続けた。
やがて電子音が聞こえなくなったが、光がどうなったのか確認する前にいつの間にか私は眠りについていた。
朝になり目を覚ますと、窓の外に広がっていたのはいつも通りの風景。
そりゃそうだよなとは思いつつも、いったいアレは何だったのか不思議で仕方なかった。
というわけで、これが私の微妙UFO体験であり、あのときカーテンを開けていたら遭遇していたかもしれないので宇宙人の存在をちょっとだけ信じているのだ。
一つだけ確かなことは、起きた私が時計を見たらすでに勉強している余裕などない時刻であった、という悲しい事実。おのれ宇宙人。
案外、クラブ好きの幽霊が控え目にDJの練習でもしていたのかもしれないが、霊感のない私はもちろんそんなことは信じないのである。
ひょっとしたら夜中にお墓へ行っても何も感じないかもしれない(それ以前に怖いから絶対行かないけど)私であるが、唯一ちょっとだけ「あれっ」と思うのがシャンプーの際に目を閉じている時間だ。
さすがの私も、あのときばかりは何者かがいるような気がする。
おそらくは水に濡れた身体や浴室の湿度が人間の感覚に誤反応を起こさせているのだろうが、それにしたって少々怖い。
シャンプー中に何かの気配を感じている人は多いと思うのだが、ネットで調べていたら一つ笑ってしまうような回答があった。
誰の発言かと言うと、ご存じダウンタウンの松っちゃんである。
「あの気配は何ですか?」
「リンスの生き霊なんです」
次は自分だというリンスの思いが、シャンプーしている人の背後に存在感を現すのだという。
うーん天才かよ。こういう受け答えが出来る人間に私もなりたい。
あっ、でも生き霊ってことはやっぱり霊じゃないか。私は信じないぞ!
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