第2話 戦場

 朽ち果てた牧場を走り、農耕地帯を走り、虫ケラを突き殺す槍になる。

 出撃してから6時間が経過していた。

 僕が所属する第57隊ランサーズは、3名の死傷者を出したまま市街地戦へ突き進んだ。

「ポイント制圧!! 敵勢反応は無し!!」

「次のポイントを押さえるぞ!! 続けーー!!」

 57隊の隊長リーゼ・フォンが駆けた。

「隊長に続けーー!!! 駆けろ!!!! 駆けろ!!!!!」

 97機のSWが地響きを上げ疾走する。

 目指すは虫ケラの親玉が巣食うNYだ。

「レーダーに反応あり! ヒューマー型です!! 数は24!! 57隊、殲滅作戦に移れ!!!」

 オペレーターから作戦行動が回ってきた。

「57隊、散開! 数は24匹! 囲んで殺すぞ!! 命を捧げろ!! 人類のため!! 虫ケラを一匹も残さず駆逐しろ!!!」

 3機からなる小隊を組み、32グループの小隊が虫ケラを包囲した。

「おい、新入り。初陣でヒューマ型とは運が無いな。ヒューマ型は人間の形をしたLEだ。駆逐するのに躊躇いはいらないが、喰われるなよ。ヒューマ型は今までのLEより巨大だ」

 荒れ果てた道路を慎重に走りながら、先輩が通信を入れた。コクピットのサブモニターには市街地の地図に熱源反応のマーカーが点灯している。

「虫ケラは全て駆逐してやります。57隊ランサーズは索敵で捉えた虫ケラを一匹も残らず駆逐する部隊だ!」

 感情が昂ぶり、グリップを強く握りしめた。僕は人類の最前線で命を賭ける57隊ランサーズの一員だ。これが初陣でも、人類の復讐を背負い戦場を駆けている。

「虫ケラは一匹も残さない。地球から駆逐してやる。これ以上家族を喰わせない」

 静かに、昂った声が聞こえた。少女の声だった。

「お嬢ちゃんも新兵かい? 声が震えていなくて頼りになるぜ。よし! 新兵共、俺が先頭を走る、お前らは俺に続け!」

「57隊、全機指定ポイントに到達。ヒューマ型の殲滅作戦を開始します」

「57隊!! 全機、突撃!!! 目的は24匹のヒューマ型の駆逐!!! 殺せーーー!!!」

 リーゼ隊長の命令を始に、97機のSWが駆けた。

 走りながら、荒廃した建物を踏み潰し、ビルを壊し、槍を虫ケラに突き刺すために、性能の限界で駆け抜ける。

 金色の人間が視界に入った。人の手足があり、人の形をして、能面の顔が僕を見た。

 ヒューマ型。LEが多くの人間を捕食して、人の遺伝子コードを模倣している人型の虫ケラだ。体長はSWと同程度の約20メートル

「刺し殺してやる!!! これ以上!!! 地球を!!! 汚すな!!!」

 前衛の先輩がヒューマ型に槍を突き刺し、僕も続いてヒューマ型の心臓に機槍を突き刺した。

「キィイイイイィィイイイイーーーー!!!!!!」

 金の色をした人型の虫ケラが悲鳴を挙げた。

「喋るなーーーーー!!!!!!」

 最後尾の少女が跳ねて、ヒューマ型の顔に槍を突き刺した。

 腹部。心臓。頭蓋。槍を刺した虫ケラは絶命して仰向けに倒れた。

「ーー死ね!! ーー死ね!! ーーー死ね!!! ーーーー死ね!!!!」

 僕は絶命したヒューマ型に馬乗りになり、叫びながら槍を何度も何度も突き刺していた。

 刺穴から金色の血が噴き出す。臓物は出ない。虫ケラだからだ。

 殺しているのではなく、駆逐だ。

 地球を汚す害虫の駆除だ。

 復讐を槍に乗せ、殺意を身体に乗せ、命を憎悪で燃やした。

「ポイントη! ヒューマ型! 一匹! 駆逐!!」

「ポイントα! ヒューマ型! 一匹! 駆逐!!」

「ポイントΔ! 一機大破!! 救援を求む!!!」

 通信から各小隊の駆逐報告が聞こえた。

「新兵! もうやめろ! その虫ケラは死んだんだ!! 次の虫ケラを殺すぞ!! 救援要請が入っている! 俺に続け!!!」

 先輩に槍を止められ、僕の思考が一瞬クリアになった。

 ヒューマ型に馬乗りになったまま、原型を留めない程、槍で突き刺していた。

 頭蓋は潰れ。両腕は切り落とし、心臓付近から噴き出す金の血で僕の機体を汚していた。

「ポイントΔに向かう! 続け!! 地球の掃除だ!!!」

「了解! 雨宮 一心! 救援に向かいます!!」

 次の虫ケラを駆逐する為、初陣を僕は駆けた。

 返り血を浴びたままの機体を狩り。

 機械の槍を携え。

 命を賭けて、戦場を走った。

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復讐のランサー ぼっち @haruno

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