これから! これから 5
愛想よく微笑みっぱなし鈴川さんは、僕を、とある廊下壁の隠し扉から薄暗い通路へと案内した。
入り口から見て、「行き止まりにドアが見えるので、そんなに長くはない道だ。天井にぽつぽつとある豆電球は感知式で、僕が入った時にすぐに光を灯した。
「ねぇ、この場所は内緒だからね? 誰にも言わないでね」
彼女の声にドスは効いていなかった。
だが、氷を背中につけられた時のような寒気に似た迫力があった。
「はい」
「ありがとう。この場所のことばれたりしたら、私自殺するから」
鈴川さんの笑顔に一瞬影ができたように見えた。
............................恐い、怖い、怕い。
僕はとんでもないことに足を踏み入れちゃったんじゃないか?
首が後ろに向いている........黒髮おかっぱ人形のような不気味さがあった。
「そんな恐いこと言わないでくださいよ。誰にも言いいませんから」
「........ありがとう。ここでお話しましょうか?」
鈴川さんは行き止まりにあるドアを開ける。
僕の横にある壁には『㊙︎入るな! 危険』と書いてある看板が掲げられた部屋があり、気になること山の如しだ。
「はい」玄関の時のように、先に部屋へと通してくれた。
上にある大きな感知式豆電球が辺りを照らす。
中には........どっかのアイドルだろうか? 写真が一杯飾ってあった。
六畳ほどの空間。真ん中には........図工でもするのだろうか? のりとハサミが乗った勉強机と、一人用の椅子。
........ここはなにをするための部屋なんだ?
「あの........この部屋って」
「いい? ここのことはなにも聞かないで頂戴」
........不安の塊を押し付けられてるようだ。
「........はい。........依頼はなんでしょうか?」
ずっと、ニコニコと笑顔を絶やさない鈴川さん。
逆になにを考えてるかが分からなくて........あの二人のコロコロ変える表情を見て、安心したくなる。
「えぇそうだったわね。立ち話でごめんね。実はとっても簡単な依頼よ」
片目ウインクを僕に向けてする。
「どんな依頼内容でしょうか?」
「今日はカメラマンをして欲しいの」
カメラマン? わざわざなんで僕に頼むんだ?
プロの方がうまいだろうに。
「お安いご用です。........で、なにを撮ってくればいいんですか?」
「デポートを作るために、舞陽ちゃんの写真を撮ってきて欲しいの」
........デポート? 舞陽の写真でなんのデポート?
「あの........」
「はい?」
「........なんのデポートなんですか?」
「一生重い秘密を共有するようになるけれど........それでも知りたい?」
心が騒めいて、これは危険だと言っている。
聞くのはやめよう。町長さんにはいろいろあるんだ。
きっとそうなんだ!
「いえ、大丈夫です。ただ一つ聞いていいですか?」
「なにかしら?」
首を横に少し傾げる鈴川さん。
僕にとって、舞陽はある意味恩人で........仲間だろう。
........あんなチャランポランなシスターだけど、傷ついてほしくはない。
「その依頼で、舞陽が苦痛を強いることはないですか? 彼女は数少ない友人なんで」
彼女は一瞬ハッとしたような顔をした。
それから、また微笑みかける。
「大丈夫! それは保証するから! あの子に危害を加えることだけは絶対にないから!」
声に熱がある。
........鈴川さんの言っていることに嘘はないのだろう。
「なら、引き受けましょう。........極秘ってことは二人になんていいますか?」
「町の様子を写真に保管する依頼と伝えればいいと思う。........そのついでってことで、舞陽ちゃんの写真を何枚か取れればいいんじゃないかしら?」
なるほど、それなら怪しむ事はないだろう。
ましてやあの二人。依頼がばれることなんてまずないだろう。
「そうですね、絶対にうまくいくと思います」
それを聞くと、鈴川さんは部屋の奥棚から、写真家が使うような本格的なカメラを取り出し、僕に渡した。
「それじゃあ、よろしく頼むよ。明日、届けてくれれば大丈夫なんで」
「はい」
こうして、始めての依頼が幕を開けた。
それにしても、あの『㊙︎入るな! 危険』の看板が掲げられた部屋はなんのための場所なのだろう?
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