見守るもの 2

「どういうことでしょうか?」

 

 はぁー。


 電話越しに深いため息のような音。

 やはり、自身の首を絞める内容なのですね........。

 聞くことしかできぬ私が情けない。

 「あすこは、あいつにとって懺悔する場所なのだ」

 「........懺悔ですか?」

 不自然です。

 いい子、その言葉が実に似合うぼっちゃん。

 向かって来た勇者という存在、あるいは自分の食料になるような動物、それ以外は決して殺生しないお方なのに。

 「あぁ」

 「なにゆえでございますか?」

 「紺太の母........つまり吾輩の妻は、あいつを生み落として引き換えに死んでしまっただろ。それの懺悔なのだそうだ」

 胸が苦しくなるのを感じる。

 そんな大事なことを今まで知らなかった自分に、苛立ちを覚えずにはいられない。

 顔がひどく苦渋の色に変わるのを禁じ得ない........。

 「........そうでございましたか。........では『魔王様』はあの部屋に入ったことがおありになられるのですね?」

 「........こっそりな。あいつは吾輩にも見せたがらなかったから。........懺悔をしているのは、幼き頃のあいつが私に言ったのだ。........その日も一日いる予定で、三時間もいれなかったのは鮮明に覚えている」

 声が弱々しく、『魔王』としての覇気は全く観てとれません。

 ........トラウマなのですね。

 それならばもっと早く、じいやである自分に話して頂きとうございました。

 「........すいません。じいやでは母の代わりは務まりませんでした」

 「いや違うぞ、じいや。........そんなつもりで言ったのではないのだ」

 慌てるように『魔王様』は言葉を返した。

 ........私もあなた様を苦しめるために言ったのではないのです。

 「........今の自分の発言は聞かなかったことになさってください」

 「気を使わんでもよい。........話が脇道にそれたな。そろそろ本題に入ろうか?」

 「はい。まず、現在のぼっちゃんの状態ですが、運がいいことにダンジョン内で迷うことはないかと。........まぁ、迷ったとしてもあの方なら自力でなんとかできると思いますが」

 「ほぉ、なぜ迷わないと言える?」

 「それは、祭壇の間から勇者が先に逃げ出したからであります。........彼ら勇者という生き物は、一度来た道を忘れない習性があるのは『魔王様』もご存知なはず」

 「なるほどな。息子は勇者を追って外へ出るって寸法か」

 「はい、そうでございまする。これは嬉しい誤算でした」

 「そうだな」

 『魔王様』の声から少し安堵の様子が伺える。

 「それで追っ手はお出ししますか?」

 「いや、いらん。人間界に内通者がいない町、村などない。ましてや、あいつは繋がりを求めるはず。大きいとはいかなくとも必ずや町に行くことだろう」

 流石、魔界をまとめ上げる者。

 ぼっちゃんの本質を見抜いておられる。

 「では、人間界にいるその者達に、ぼっちゃんの事を伝言として一斉に流しましょうか?」 

 「あぁそうしてくれ。........あとだなぁ」

 「........なんでしょう?」

 「出来るだけ情報が届いたら、早くこちらに伝えてくれ。こちらも電話に出られない事が多いと思うが........そんな時は留守番電話に残していておいてはくれないか?」

 熱を帯びたような子供のような言い方。

 一人息子の旅立ちなのですから、その気持ちお察しします。

 そして、それを決断された『魔王様』は大変ご立派であります。

 確かにあなた様は、ぼっちゃんと会う機会がほとんどなかった。

 けれど、あなたの息子の心の奥には必ず父に対する尊敬の念があると思いますよ?

 ........あなたはこんなにも必死な一人の父親なのだから。

 「えぇ、もちろんですとも」

 「そうか、礼を言うぞ」

 「めっそうもございません」

 

 「それはそうと、ここからが本題だ」


 そう『魔王様』は強く信念を感じさせるように言い放った。

 やはり、あの計画を........考えを変えないのですね。

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