いきなり増殖ですか? いいえお約束ですよ 5

 「好きじゃない。むしろイライラする」

 「ツンデレだと!」 

 ふざけている様子がない。上目使いで僕の様子を見ながらピーカブースタイルをより一層強固にしていく。

 なにをどう間違えたらそうなるのか。めんどくさいを通りこして呆れる。

 やっぱり殺していいかな? ボクシングのいろはをその身に叩き込んであげようかな?

 こんな時に自分に冗談かよ! ビシッ。

 警戒の色を弱めない彼女の顔を真剣に見つめてみる。

 ........なにがいけない? 僕がいけないのか?

 確かに、こんな薄暗い路地裏に無理矢理連れてきて、警戒するなと思っているのも悪い。

 じゃあ、どうすれば彼女の警戒心を解けばいいんだ。

 理解を得るにはどうすればいい? 考えれば考えるほどに煮詰まっていく。

 だいたいなんで友達でもな............


 ................友達。


 そんな時、数少ない『魔王』の言葉を思い出す。

 「小春は今日、私の『親友』を紹介すると言って、君を紹介したよ」

 ステップをしていたシスター少女の動きがぴたりと止まる。

 顔は鳩が豆鉄砲をくらったようにぽかんとなった。

 「........『親友』って言ってたの?」 

 「うん、『親友』って言ってた」

 彼女のビーカブースタイルが崩れ、ガッツポーズに変わった。

 ........父は........『魔王』は言っていた。

 

 『他人を褒めるのに最も効果的なものはなにか。それは第三者を通すことだ』


 これは僕の実体験にもある。

 父は自分を直接僕を褒めた試しがない。全部、じいやを通して褒められるだ。

 ここまでの内容だと、褒めるのがへたくそな親に見えるかもしれない。

 だが、これがとてつもなくうれしいのだ。

 なんでうれしいのか、その理由は分かっている。

 例えをだしてみよう。

 ........一つの会社があったとする。そこで部下が上司に褒められたとしよう。

 確かにうれしい。けど他の部下、その他の要因もあるせいか、『本当に褒めてるのだろうか? みんなの前だから良い顔をしたいんじゃないだろうか?』そういう疑念が心の隅に必ず涌く。

 一方、誰かを通して褒められた場合。

 まず、第三者なので『褒める対象』の悪口などを言える。

 褒めても、その褒めた人間に対しての反応を見ることができない。

 褒めることで発生する自分への評価変動はない。

 そんな状況でそこにいない者を賞賛する。これはもう見返りを求めないに等しい。

 いや、下手をすればその場にいる者が『褒められた対象』を嫌っていて、とばっちりがくるかもしれない。

 つまり、『ノーリターン、ハイリスク』な行動。

 だからこそ無性さを感じ、第三者を通される褒め言葉は最高級にうれしいのだ。

 まぁ、僕は会社で働いたいったことはないけど........。

 

 さっきまでの警戒心が嘘のように、シスター少女は僕の話に食いつかんと目を見開き凝視してくる。

 

 よーしよしよしよしよしよし。


 動物をなで回す中年男みたいな気持ちだ。

 このまま、話を徐々に聞きたい方向に持っていけばいける!

 僕はにっこりと微笑みを作る。精一杯作る!

 「それからそれから! なになになにを言ってたんかな? 別に気にならない、気にしないけど、どうなのかな?」

 シスター少女の両手が自分の前でグゥに握られている。興奮している。

 その自信満々の顔を小春に見せてやりたいな。

 

 さて、えっと............。ここからは嘘ハ百でいかしてももらおうか。


 「可愛いって言ってた」

 おぉ! うれしさのあまり鼻の穴が膨らんでんぞ!

 「ふーん、へぇー、別にうれしくなんかないし、うかれてなんてないし、当然っちゃ当然だし、ふーん、へぇー................っで?」

 『................っで』てっなに? まだ欲しがるの? 

 「........えっと、笑顔が眩しいって」

 笑顔が眩しい? 自分で発言してあれだが、それは顔にオリーブオイルでも塗ってる状況なのだろうか?

 シスター少女の右足が、地面の土を撫でるように軽く蹴り始める。

 抑えられないの? ワクワクちゃんなの? 

 「へぇっ............へぇ........。笑顔がねぇ~~」

 何度かほほを上げて、自分の笑顔を確認している。

 そして、身を映すものはないが、感覚でこれが最高の笑顔と思ったんだろう。 

 とびっきりスマイルを0円で僕に放つ! 放つ!

 

 ぱらっぱぁっぱぁっぱぁ~~~~。  

 

 「まぁ....................じゃかん? ていどはよるかなぁーだけど? 光っちゃてる系っていえば、いえなくもない的な? とみせかけてるみたいなぁ?」

 牛肉をパンで挟んだやつ食べたくなる可愛さだね。

 ってどんなだよ! 

 彼女の言ってることは意味不明だが、喜んでおられるぞ!

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