いきなり増殖ですか? いいえお約束ですよ 3

 


 あの会話から三時間ぐらいたっただろうか?

 小春は、近くにあるデパート、よく行く喫茶店、この町で一番安い八百屋さん、薬よりお菓子の品数の方が多いドラッグストア、などを熱いコメントを交え、紹介してくれた。

 これは僕の回想なのだけれど、町並みは新しいものと古いものが混ざり合っているせいか歩いていて飽きない。いきなり高層ビルがあって、その横に小さな牧場があるような町は珍しいだろう。アスハァルトではなく、土の道路というのも歩いていて心地いい。

 今は二人で修道院を目の前にしている。小春曰く、この町にはここ以外の修道院がないらしい。連れてこられた理由は『親友』がいるからだそうだ。

 「頼もう!」

 掛け声と共に、小春が修道院の門扉を右手で押して開ける。

 正直、僕にとってあんまり来たくはなかった場所ではある。

 悪魔にとって修道院の中は居心地の良い場所とは言いがたい。........あの中には聖気がたんまりと蓄積されいて、悪魔にはそれが害だからだ。

 きっと、低級悪魔なら入った途端に消滅するだろう。

 僕は一応、ラスボスをやってたぐらいなので身体が少しビリビリするぐらいだと思うけど。

 小春が修道院の中へとニコニコして入って行く。

 しょうがない。僕も足を踏み入れる。

 

 するとその瞬間、一番奥に掲げられている『聖騎士』のような像が激しくガタガタと揺れ動く。


 ........しまった。僕の魔気に反応したのか。

 急いで魔気を自分の中に収集する。日頃普通にしているだけで、身体から微量ながら発せられているのを忘れていた。

 幸い、『聖騎士』の像は激しく揺れただけで、大事に至らず僕は胸をなでおろした。

 「どうしたでござるか? 胸なんてなでおろして」

 「いや、なんというか落ち着くなぁと」

 ........聖気で肌がビリビリして電気風呂にいるみたいだ。

 修道院の中は『聖騎士』の像を一番奥として、ベンチのように細長い椅子が規則正しく並列しあっている。人の数はポツっポツっだ。

 その椅子に座る一人の少女が僕達の方に顔を振り向かせると、立ち上がりこちらへと勢いよく向かってくる。

 

 「おーい、小春によく知らない横の人ぉー」


 修道院の中で、場所に似つかわしくない大きな声が響き渡る。元気な声だ。

 悪魔の僕がこんなことを思うのも変かもしれないが、修道院では静かにした方がいいのでは? 

 少し息を切らし、僕らの前に無事到着すると少女は元気一杯笑みをこぼす。

 「飯食った? 飯食った?」

 声のテンポがいい。リズムかるだ。

 見た目はすらっとした長い金髪にブロンズアイ。着用している黒の修道服がよく似合っている。

 しかし、それらを差し引いても『なんだこいつ!』がこの子に対する第一印象だ。

 「飯食ったでござる」

 ちゅちょなく笑って返すところから、小春はこの子の対応を知っている。

 よしっ! と言った具合に彼女は大きく一回首を縦に振るうと、僕にも視線を送る。

 「飯食った?」

 普通に返せばいいのか?

 ご飯なら金髪さんからおいはぎして食べている。流石に満腹とはいいがたいが。

 「........食ったよ」

 「そっかぁ、飯食ったかぁ。私も七面鳥食ったぁ。そんで『聖女騎士』様の像にお祈りしてるフリして寝てた!」

 あれは女の像だったのか。顔が甲冑に隠れていて分からなかった。

 「ところで小春ちゃん、その横の『めちゃくちゃ強い魔王』みたいな人はついに出来た彼氏?」

 

 一瞬にして全身がの毛が逆立つのと、額に冷たい汗を感じた。


 「魔王みたい........でござるか?」

 小春が首を横に傾げる。明らかになにを言ってるんだと思ってるぞ。

 まずい。これはまずい。なんでばれたか考えるのは後だ!

 まず、やんなきゃいけないことは会話を中断させること。

 どうすれば................、

 

 ........あっ................................................やむおえないか。


 「すいません! 少し二人きりで話したい大事なお話があります!」

 名前も知らない少女に告白のフラグをたてることになるとは............。

 自分のほほに熱を感じる。好きでもないのに告白のフラグたてるだけでこれかよ........。

 でもこれでいい。とにかくこの場所からこの子を連れださなければ。

 「なにかな? なにかな? 告白かな?」

 この女、デリカシー皆無かよ! 全く照れる様子が無い。

 小春が何かを感じ取ったように、急によそよそしくなり口笛を吹き始めた。

 ちょ、なんもしないで! 気を使っているのは分かるけど、木偶の棒のようにただ突っ立てて! 

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