いきなり増殖ですか? いいえお約束ですよ 2

「兄貴がすまぬことをしました」

 小春は少し困ったような苦笑いを僕に向ける。

 自分の兄の第一印象が僕にとって最悪だと思っているのだろうか? 

 別にそんなことはないのに。むしろ、あの手の話は年頃なら大好物だよ?

 「面白いね、辰郎。小春もよく好いてるみたいだし」

 小春の苦笑いが笑顔へと変わっていく。その変貌があからさま過ぎて、逆にこちらは反応に困ってしまう。

 「いえ、その、バカ兄貴で通っておりますので................」

 そんなこと言ちゃって。........素直じゃない。

 倒れる兄に枕と布団を用意する姿がビジョンとして頭に流れる。

 「そっか、じゃあ嫌いなんだ」

 それを冗談で口にした途端、微かに桃色の頬で僕の目をジィーと覗き込んでくる。

 「嫌いではありませぬ! 兄貴はとてもとても優しくて、面白くて、私思いの良い兄なのです!」

 勢い余って身体ごと僕にせまってくる。もう少し詰めるだけでハグになってしまう距離だ。

 これには上体を仰け反らして、そのまま後ろにステップをする。

 「分かってる。大好きなんだよね」

 暴れる動物を刺激いないように彼女をなだめる。

 「大好きじゃございませぬ!」

 じゃあどっちなんだよ! プラトニックな関係ってやつですか?

 「........だれがブラコンでござるか!」

 いや、言ってない。それは被害妄想だ。幻聴でも聞こえたのか?

 「あっちがシスコンなだけで、私は普通でござる!」

 だから、言ってないって。

 「でもでも、兄貴が嫌いということではなくて............」

 うんうん、もう僕は聞き手に徹すれば良いのかな?

 「しょうがないから一緒に仲良くやってるだけなんだからねっ」

 語尾の『ござる』はどこに向かわれたのですか?

 この会話から分かったことは、要するにブラコンという小春の現状だけである。

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