いきなり増殖ですか? いいえお約束ですよ 1
ここは『ココロナの町』にある少し大きな二階建て。
そう、小春の住んでいる家だ。
大きいと言っても決して裕福とは言いがたく、主に木で出来た質素な家だ。
ここにはまっすぐ、どこにも寄らずに来た。
野山家に着き、僕が最初に言った言葉は、『風呂に入らせてくれ! 頼む!』
貴族生活をしていた自分にとって、五日間風呂に入らないことは死活問題のレベルまで来ていたと思う。
おかげでシャンプーの香りを頭からなびかせ、小春の兄の新しいパンツ、水色 T シャツ、黒のジーパンを借りる始末。
なんか野山という家系に、恩を作りまっくてもらってる気がする。いや、気がするじゃなくてそうか。
晩飯さんは僕が風呂に入っている時に、小春がキッチンで晩飯用に解体してくれた。
彼女曰く、『焼き鳥は大好物』だそうだ。
今いる空間はリビング。木の椅子に座り、木のテーブルを前にして、コーヒーが目の前にある。そんな状況だ。
このフロアはとても片付いている。
テレビ、ソファなども奥側にあり、キッチンと繋がっている。
木造建築特有の木の香りも鼻に心地いい。
小春はテーブルを間にして、なにもないのにこっちを見てニコニコしている。
僕の顔はそんなに笑いのツボなのだろうか?
それはともかく、その横にいる小春の兄がじぃーと見つめてきてコーヒーがうまくない。
彼の名前は、
また、その時に歳も聞き、辰郎は同い年の十五歳、小春は十四歳ということがわかった。
コーヒーを一口飲む。好きではないがあったら飲もうと思ってしまう。
「あなたが小春の結婚相手ですか?」
がは。........ゲホゲホ。ビックリしてむせた。
この男、口をやっと開いたかと思えば、いきなり飛躍的だな。
確かに十三歳からこの世界は結婚出来るが............。
「兄貴、違うでござる」
小春はそこまで動じている様子は無い。いつもこんな感じなのだろうか?
「じゃあ、君は小春のなんなんだ!」
........この質問に僕はどう答えればいい?
それを一瞬考えていると、
「コスプレ仲間でござる」
そう小春が迷いも無く答えるではないか。
一言いいたいことがあった。僕はコスプレ仲間になった覚えは無い。
「おぉ、それは仲良くできそうだな!」
辰郎から上機嫌なのが伝わってくる。
最初に会ったときから、この人はがガチでコスプレをする人だと印象に深く残った。
いや残ったっていうか、もう現在進行中っていうか、現在の格好がもうすでに異様だ。
「........お兄さん」
「お前にお兄さんと呼ばれるゆかりはない!」
うわっ、めんどくさ。困り笑いが自然に出た。
「........その格好は?」
「見て分からないとは、貴様コスプレ初心者だな?」
いえ、初心者どころか入門者にもなってないですよ。
「すいません」
愛想笑いをする。この人の近くにずっといたら作り笑いがうまくなりそうだ。
「いいか、この装備はこの町の隠れマスコットキャラ、モーモーさんのコスプレだ」
リアルな白黒牛に丸呑みされてるような辰郎の姿。彼の顔がその牛装備の口から出ていて、牛が人間を吐き出そうとしている絵にも見えなくはない。
「........なんで隠しキャラなんですか?」
正直そんなこときかないでもいいのだが、会話がいきずまりそうだったので........。
「それはこのキャラクターがR指定だからだよ」
................会話は続くが、以下省略。いろんな意味で。................................
小春と町に繰り出した。
都市とは言いがたい、けれど田舎とも言いがたい中間的な町並み。
それでいて、牛とか馬とかが普通に人に連れられ歩いている。
道はアスハァルトではなく、人や家畜が幾重にも歩いて踏み固められた茶色の大地。
車も走っている。だが少数派だ。燃料のトウモロコシは値段が高く勿体ないからだろう。
さっきはまっすぐ野山家に招かれたので、ココロナの町の様子をじっくりと見て回るのはこれが初めてだ。
車が少数派であるのに理由があるように、辰郎が一緒に来ないのにも理由がある。
まぁ深い理由は無いのだけれど、話がRグレイゾーンから、R完全ブラックゾーンに入った時に、今まではニコニコしていた小春が冷たい視線を自らの兄に送り、肘を凶器として使っことが原因だ。
あれはダンジョンのラスボスをやっていた僕から見ても、あと半日ぐらいは気を失い続けるだろう。
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