これってつまりフリーダム 4
視界の中、音の聞こえる右斜前に目線を送る。
魔気を感じないあたりから、魔物を狩ったことの無い者だということだけは分かる。
動くそれはどんどん大きくなり、音も大きくなり、
パカッパカッパカッパカッパカ。
僕の五メートルぐらい先で停止した。
乗っていたのはカウボーイ姿の女。年は僕と変わらないぐらいかな? カウボーイハットから出る耳を覆うぐらいの少し癖毛な茶色髪。目は澄んでいて碧緑色。全体的に顔立ちが整っていて素直に普通に可愛いと思った。
「ここで大きな音があったでござるが、大きなへこみでなにをやっているので候?」
馬に乗ったまま少女は言った。すんなりなにかにとけ込めるような柔らかい声をしている。語尾が少し迷子さんなのは気にしないでおくとしよう。
「いや、寝てたんだけど........」
........明らかに不自然なこと言っちゃった。
「えっと、その............いわいるへこみマニアの人でござるか?」
....................。
................................。
............................................。なに言ってんだ?
それでも、なんだか妙な興味この子に湧く。
僕を殺しに来たとかそういう感じでは完全にないということは分かった。
「えっと、そんなところだよ。君はこの先の町の人?」
「はい! ところでその格好は」
「はは、やっぱりおかしいよね?」
「泥棒騎士スパンコールさんのコスプレでござるな!」
ドヤ顔に近い、言ってやったぜって顔で自信満々な彼女。
誰それ? 一つ言えるのは、泥棒な時点で騎士ではないだろ。
反応に困って顔が引きつり笑いになるが平常心を保つ。
「そう、かっこいいでしょ」
コスプレって、確か仮装みたいな奴だっけ?
「かっけぇでござる」
そう言って、彼女は馬からおりる。馬が逃げないように手綱は握っている。
「私のコスプレは、さすらいのカウボーイでござるよ!」
へぇー。
「じゃあ、カウボーイじゃないんだね」
「うん」
笑顔でこちらを見て彼女はうなずいた。
「一つ、聞いていいかな?」
「なんでござるか?」
ここに着地した時、その状況を見ていたか気になる。
僕は分かりやすいように指で地面を指す。
「ここ凹んでるじゃん」
「へこんでるでござるね」ぽかんとしている。
「なんでかわかる?」
ふむ、そんな擬音がでそうな感じでこの女は顔を難しくした。
「........えっと、あれでござるよね、あれ」
若干の間をおき、恐る恐ると言った感じで弱い声を僕に聞かせた。
あれ........あれってなんだよ!
「あれですか........」
あっちが弱気で言ってきたので、つられて僕も弱く声をこぼした。
すると、いきなりヒラメキでもしたのか、彼の表情がころりと明るくなる。
「そう、あれでござる。ダム建設でござる」
うん。この子、採りたて新鮮天然娘だ。回り見てごらん、地面乾いてヒビできてるよ。
これには苦笑いが思わずこぼれた。
「........うん。多分そうだね」
彼女は僕の回答がおもしろかったのか、にっこりと微笑んだ。
「君とは仲良くなれそうでござる。私の名前は野山 小春。野山の野山に、小さいの小と季節の春で、野山 小春でござる。君は旅人? 名前は?」
さて、名前を要求されているがどうするか?
........しょうがない。一応、次期魔王だったんだし苗字だけ偽名で通そう。
「僕の名前は山田 紺太。苗字の山田はなんとなく分かるだろ? 名前は紺色の紺に、太郎の太で紺太」
「こんた、こんた、こんた、こんた! うん、いい響きでござる」
「........なんとなくありがと。野山さん」
こんた、それを連呼する野山さんの顔がキラリと輝いたような気がして、心がむずむずした。素直にかわいいな、と不覚にも思ってしまった。
「小春か、小春ちゃんって呼んでくれまいか? 私はそうだなぁ、『紺くん』って呼ぶ事にするよ!」
なんか恥ずかしいな........。
「........じゃあ、小春でいい?」
うんうん、と二回小春ちゃんはうなずくと、僕が行こうとしている町の方を指差す。
「『ココロナ』に行きたいんでござろう?」
『ココロナ』あの町の名前か。
「うん」一回うなずく。
視線にはまたにっこりと微笑んだ顔。紫陽花とか、蓮の花、そういう洗礼された笑顔ではないけれど、ひまわりのような................。
じんわり温かいような................。
この気持ちはなんだろうか?
打ち解けてるっていうのだろうか?
こんなことを思っていると、なんだか、彼女から馬を奪おうとする気が失せてしまった。
こんな感じは初めてだ。しょうがない歩いて行こう、そう思った。
「乗って来なよ! こんた」
えっ! 一瞬、動揺した。
なにを思ってそれを言ったんだろうか?
ただの親切だろうか?
「いいの?」
「もちろん。散歩の帰りだったでござるよ」
そう言って、彼女は横の馬に馴れたように乗った。
僕も乗りたい!
でも、あの町........ココロナ行くには気になることがある。
確認しておきたいことがある。
「待って! 見て欲しい物があるんだ」
「なにでござるか?」
僕は鼻の下に結んでいた赤マントの生地を解いた。顔全体が目の前にさらされる。
それは隠していた頭の角二本を見せるということだ。
その時、嫌われませんように........。そう自分で思ったように感じた。
「........どうかな?」心配しながら僕の声は少し霞む。
「なにがでござるか?」
「........ほら、角生えてんじゃん」
すると、じぃーと僕の顔を凝視する彼女。今なにを思っているのだろう?
少し間ができて、「........カッコイイ」
「えっ?」
「ドラゴンみたいでカッコイイでござるよ!」
リアクションに困った。
今までヤギ男とか、ヤギ男とか、ヤギ男とか! 言われてきたけど、ドラゴンにこの角を例えられたのは初めてだったから。
それにカッコイイ。このフレーズが心の中反響を繰り返す。
こは................この子の反応を見る限り、人間は他の種族とも共存しているというのは僕の中で確信に変わった。
「良く言われるよ」顔が自然に笑えていることに気付いた。
「へいへいへいへい!」
....こは....小春がこちらに勢いよく手招きする。よしっ!
僕は馬に近付くと、彼女を見上げる。馬が大きいせいかとても小さく感じた。
「手を貸すでござるよ」
小春が手をやんわりと差し伸べて来た。
一人でももちろん乗れるが、僕は彼女の右手を軽く掴む。その時、晩飯さんを左脇にしっかり抑える。
........小春と一緒に晩飯さんを食べれたらどんなにおいしいだろうか?
「せーの」
一回意味も無く微笑みかけると、自分の掛け声と共に小春は繋いだ手を引っ張る。僕はただ、軽く小春の力に合わせるだけ。ただそれだけ。
ふわっとなった僕の身体はピタッと見事に乗馬した。
「肩をしっかりと掴んどくでござるよ」
「うん」
左脇に晩飯さんがいるので右手だけで肩に掴まる。
小春が手綱を左の手綱を引き、馬を左へと方向転換させる。
「いくでござるよ」
「うん」
バシッ。小春は手綱を少し波打たせる。
ヒィィィィィィヒヒィ。二人を乗せた馬は鳴き声と共に茶色い大地を勢い良く走り出したのだった。
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